ジェミニから送られてくる戦闘用のホログラムデータを受け取る度にジェミニが好きになっていく。
ジェミニのホログラムデータはある意味で
ジェミニをトレースして更新されていく自律思考プログラム。
ジェミニはジェミニが好き。自分が好き。自分しか愛せない。
だからだろうか、ジェミニのことを好きになってしまったのは。
トレースされた自立思考プログラムで動くホログラムは『ジェミニ自身が好き』という行動をそのまま行っていてジェミニを愛している。
そのホログラムのジェミニに対する愛が空っぽだった僕の心に染み込んでしまった。
僕はジェミニが好き。
この感情は嘘偽りだろうか?でも存在自体が複製の僕にとっては関係のないこと。
データを送っている間のこの時間が、一番好き。
ジェミニはどうなんだろう?苦痛じゃなければそれでいい―――
****
「どうして来たの。僕はただのコピーだよ」
コピーロックマンは瓦礫の合間で倒れていた。
機体は破損している部分で占められて漏電を起している。
その状態でもコピーの紅い瞳はジェミニを捕らえていた。
そのジェミニもまた損傷が酷い。
カメラアイは死んでいるらしい。光が宿っていない。
「ホログラム…」
『えぇ、解っていますよ『俺』。さぁさぁコピー、その汚いところから出て一緒に地球へ戻りましょう』
「どういうこと…?」
ホログラムに引っ張り出されながら首をかしげる。
「僕はもう要らないんじゃないかな?あれだけやってこのザマだよ?」
「お前は道具なんだろ?黙って従っていれば良い」
ジェミニは背を向けて、ギギギと嫌な音を立てながら歩き始める。
『お待ちください『俺』!私が先導いたしますから!』
コピーを抱きかかえながらホログラムは目の見えていないジェミニの前へ行こうとする。
ホログラムに触れられている部分がピリピリする。
ホログラムの方も壊れているのかもしれない、映像を生み出し実体化させるこのホログラムは今実体化部分のコントロールが壊れているようだ。
電磁波が強すぎて少し痛覚神経を刺激している。
「っ!!」
瓦礫に足をとられて転ぶジェミニ。
『大丈夫ですか『俺』!!』
「…」
身を起すジェミニ。
目から涙を流しているがホログラムはそれに気づいていない様子だ。
「どうして泣いているのジェミニ」
コピーはジェミニの顔に手を伸ばす。
「ロック…ロック…俺は、ロックにもう会えない…。だからお前を代わりにするしかないんだ!
惨めだ、俺は惨めだ…!!」
「ジェミニにとって僕は必要なんだ?それだけで十分だよ僕。帰ろうよ、地球に。
あ、ジェミニは初めての地球だったね…」
「―――なんてことがあったねジェミニ」
「知らない」
コピーの入れた紅茶を飲みながらジェミニは不機嫌そうに振舞う。
「ラブラブじゃねーっすか。俺様妬いちゃうー」
ソファに座っていたスネークが茶化しながらケタケタ笑う。
「クソ蛇が。」
「コピーちゃんに連れられて泣きながら帰ってきたお前ちょー面白かった」
「倒れたときの衝撃で冷却用の水が漏れていただけだあれは」
「スネーク、そろそろ部屋に戻ってよ。僕とジェミニは一緒に寝るんだから」
「気にせずどうぞ」
「スネーク…」
ギロリと睨むジェミニ。
「俺、3Pでもいいのに。」
不思議そうな顔でいうスネークにジェミニは若干苛立ちを覚えた。
こいつは非常識の塊だ。
工業用の頃は常識的だと思っていたがきっと吹っ切れたのか開き直ったのか、なにかあったのだろう
今はただの頭がイカれている蛇だ。
「まぁーいいです。コピーに飽きたら相手してやってよジェミニオニイサマ」
スネークは笑いながら部屋を出て行く。
「スネークって上手らしいよ」
「何が。いや、聞きたくない」
ジェミニは隣に座ったコピーに抱きつく。
「僕に飽きたらスネークに甘えなくちゃね」
「言うな。飽きない」
「嬉しい」
笑みを浮かべるコピー。
そしてそのまま二人はキスをする―――
****
このロックそっくりの少年はロックとは真逆だ。
そのように作られているのかもしれない。
皆から愛されているロックが羨ましかった。あのようになりたかった、一種の憧れだったのだろう。
いつしかそれが、ロックの愛が自分だけの物になってしまえばいいのに、と……
醜い。なんて醜い。そして惨め。
叶わぬ願望だ、欲望だ。ロックで心を満たしたいだなんて。
ある日このコピーの心が満たされてきているのに気づいた。
そしてそれ以降コピーをきちんと見るようになった。
ロックの代わりにこのコピーならばきっと自分を見てくれるはずだ。
俺だけを見て欲しい、それに答えてくれるはずだ。
データ送信中にコピーの手を始めて握った。
小さかった。あぁ、こんなにも小さかったのか。
ロックは無理でも目の前の彼なら、きっと俺を許して愛してくれる。
全てを受け入れて愛してくれる。
―――愛してくれた
END