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『ステージクリア!シャドーさまオメデトウゴザイマス!

 アトラクションモードを終了します、またのお越しをお待ちしております』

 機械的で女性に近い明るい声が響き、全ての武装が解除されたらしい、遠くから近くから色々終了していく音がする。

「……」

 シャドーは無言のままボロボロのシャドーブレードを捨て、乱れたマフラーをグイグイ整える。

 シャドー自身もボロボロだ。

 無理もない、戦闘をしていたのだから。

「あぁ、まだ曲がっていますよ。直してあげましょうか?」

「口だけは元気なヤツだな」

 シャドーは呆れた顔で声の方へ顔を向けた。

 これまたボロボロになって、床に倒れているシェードがいた。

 腕を無理に上げてシャドーのマフラーを指差していたが、ガチャンと床に落ちた。

 ここはシェードの城という名の前衛基地でシャドーは招待されてシェードのアトラクションを楽しまされたわけである。

 下手をすると命を落とすアトラクションなのだが。

 基地を城と呼んだり、ステージをアトラクションと呼んだり、シェードを倒しクリアすればふざけた声が流れるのはやはりシェードが元々そういうロボットだからであろう。

 まぁシャドーも自分の前衛基地を忍者屋敷と呼んだりしてるわけではあるが、ふざけて作っているわけではないからシェードとは違うと思っている。

 シェードと違って自分にはそもそも『元』がない。あったはずだが解らない。

 だから自分はシェードより真剣だと思う。

「じゃ、拙者は帰る」

「えー、私放置ですか」

「部下を呼べばいいだろ」

「ふふ、そうですね」

 シェードは苦笑しながら言う。

 この男はよくわからない。

「……なんで拙者ばっかり構うんだ?」

「あ、こういうの楽しくないですか?」

「いや、まぁ別に楽しくないというわけじゃないが。他に貴様は知り合いがいないのか?

 拙者しか知り合いがいないのかと心配になったわ」

「いますけど…。私は貴方を楽しませたいといいますか…」

「そうか?嘘だろう」

 シャドーはシェードに歩み寄り、顔を覗く。

「貴様は本音を出さないから好かん」

「貴方は本音が見えませんけどね…」

「仕方ないだろう、拙者は自分のことがよくわからん」

「そうなんですか…あぁ、じゃあ…本音言いましょうか?」

「好きにしろ」

 シェードの視線がシャドーから外される。

「私、どうして貴方に勝てないんだろう、私はセブンスナンバーで貴方はサードナンバー。

 私の方が新しいのに、性能がいいのに、どうして貴方は強いんだろうなぁー。不思議だなぁー」

「シャドーブレードが最強すぎたか…。いや常日頃から行う修行の賜物でござるな」

「茶化さないでください。せっかく私勇気を振り絞って告白したのに」

 言ってクスクス笑うシェード。

「どっちが茶化しているのか…お前のそういうところは嫌いだよ」

「すみませんね、こればっかりは直しようもありません。

 私はセンパイのこと好きなんですがねぇ。」

 身を起すシェード。

「動くな、バカかお前は」

「ん…」

 口から色の濃いオイルが漏れる。体内を流れているはずのオイルだ。

 それが外へでているということは内部は結構な損傷を受けているということ。

(やりすぎたか…)

 ちょっと反省しつつシャドーはしゃがみこみ、シェードの肩を掴むと押し倒して損傷具合を確認し始める。

「あれ?帰らないんですか?」

「帰って欲しいのか欲しくないのかどっちなんだ」

「…じゃあ応急処置だけしてくれます?そしたら帰ってください。

 あまり貴方と二人っきりだと私、落ち着かないので」

「なんだそれ…」

「だって、貴方ってば私と二人っきりのときは口調違うんですもん」

「お前と喋ってると何かバカらしくなって素になる」

「あ、そっちが素なんですかぁ。知らなかったなー」

 クスクス笑いながらからかうように言う。

「そういうところが嫌いだ」

「それは失礼」

「…」

 手当てを済ませるシャドー。

 外傷の手当ては済んだが、内部が心配になってくる。

「よっと…重ッ!お前重い!!」

「なにやってるんですか」

 シェードを抱き上げて文句をいうシャドー。

「さっさとメンテナンスできる場所を教えやがれでござる!!!」

 フラフラしながらいうシャドー。

 傷が痛い、すごくギチギチいっている。

「いえそこまでしていただかなくてもいいんですけど」

「うるせぇ!運んだら帰ってやる!!」

「なに逆ギレしてるんですか…」

 シェードはクスクス笑いながら場所を伝えてシャドーは言われた通りの道筋で歩む。

 シャドーが歩くたびにボタボタとオイルが床を汚す。

 これは自分のものではない、シャドーのものだ。


 ―――あぁ、どうして貴方はそこまでするんだろう


「…少しぐらいオイルが漏れても別にどうということはない、気にするな」

 シェードに気づいたのか、シャドーは呟く。

「ちょっと後悔してるでしょ?」

「お前うるさい。このまま落とすぞ」

「酷いなぁー」

「拙者はドSでござるからな!チッ、ついてしまった」

 メンテナンスルームへ入るシャドー。そのままメンテナンス台にシェードを降ろす。

「あとは勝手に修理しておけ。拙者は帰る」

「…ありがとうございます、シャドーさん」

 小さく呟くシェードだが、シャドーの優秀な聴覚センサーはその声を拾う。

「やめろ、なんか痒くなる」

「えー。だってセンパイじゃ、からかってるみたいな感じですし呼び捨ても恐れ多いですしー。

 シャドーさん、いいじゃないですか。」

「他のメンツがいるときはそんな呼び方したらぶっ飛ばすからな。」

「二人っきりの時だけですね、わかりました」

「嬉しそうにいうな。『俺』はお前に対してこれっぽっちも好意なんて持っていない」

「それでも構ってくれるから嬉しいんですよ」

「好きで構っているわけじゃない」

 背を向けるシャドー。

「フフ、本音で語り合えるから付き合ってくれてるんですよね?自分を作らなくていいから」

「俺は別にそこまで考えたりしていない。さっき言ったようにただお前といるとバカらしくなるだけだ。」

「素直じゃないですね」

「お互い様ではないか?」

 言ってシャドーは、部屋から立ち去った。



    ◆◆◆◆



「よーシャドーおかえりー」

 出迎えたのはスネークだった。

「おい、あとで床の掃除しろよ」

 ソファに座って鏡を見ていたジェミニが床を指さす。

 自分の通った後がオイルで汚れている。これはマグネットかニードルに怒られるかもしれない。

 いやスパークに「メッ!でしょ!!」とか子ども扱いされつつ怒られるかもしれない。

 なぜかスパークに子供扱いされている。いやナンバリング的には末っ子なんだけども。

 シャドーはげんなりした表情で「了解でござる…」と呟く。

「…シャドー、後ろ」

「え?」

 ジェミニは呟いて指先をシャドーの首元へ向けた。

「マフラーの結び目、リボンにされてる」

「ぎにゃああ!!?シェエェェェェェェドォォォォォ!!!!」

 いつの間にかマフラーの後ろの結び目がリボン結びになっていた。

「手癖の悪い!!あいつぶっ壊したろか!!!」

「ぶっ壊されると面白いシャドーが見れなくなって困るな」

「ふふふ、スネークの意見に同意だ。」

 ニヤニヤ笑う、兄機二人。

 この二人は本当に性格が悪い、とシャドーは思う。スパークに「メッ!」されればいいのに。

「二人とも拙者の苦労を知らぬから笑っていられるでござるよ!」

「バカか!お前!」

 ジェミニが真剣な顔で反論してくる。

「俺だってスネークに付きまとわれてるんだぞ!俺の方が苦労してるわ!」

「いやジェミニ殿はスネーク殿と相思相愛!拙者とシェードは違うでござる!」

「ど、どこが!?だれが!?相思相愛!!?」

「よーしジェミニ、ベッドの上で愛を語り合うかー?」

「語りあわねーよっ!!!くっつくな!!!」

 抱きつこうと擦り寄るスネークを足蹴にするジェミニ。

「仲がいいでござるなー」

「だろー?」

「よくねー!!」

 二人をほのぼのと眺めつつ、シャドーはいい加減メンテナンスルームへ向かった。

 二人で和んだが、機体は辛い。

「…ハッ」

 シャドーは気づく。

 もしや、他人から見たら自分とシェードはあの兄機二人のような感じに見られているのでは…?

「これはだめだろ、これはだめだろぉぉぉぉ!!!!」

 頭をかかえて思わず素で叫んでしまうシャドー。

(これはシェードの罠に違いない!割と真面目に!拙者の好みはスネーク殿みたいな感じ!)

 具体的過ぎる好みを心の中で暴露しつつ、シャドーはしばらく悩んでいた。

END

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