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 ターボは細い目を吊り上げ見下ろしていた。
 道路脇で酔いつぶれて転がっているニトロがいた。周りには通りすがりが置いていったのであろうペットボトルの水やコーヒー缶、小銭などがある。
 治安が良いのか悪いのか解らないが…ここが渋谷だったらばSHIBUYAMELTD○WNのハッシュダグでSNSにこの姿の画像を上げられていたかもしれない。ここが渋谷でなくてよかった。あれは渋谷関係ないかもだが。
 財布を確認して盗難にもあってなさそうだと判断し、ターボはニトロを抱き上げて車に乗せた。
 ニトロはむにゃむにゃと気持ちよさそうに寝ている。警戒心が無さ過ぎる。
 他人と対面したときはかなりの警戒をするのに気が抜けると他人への関心がまったくなくなるらしい。
 押せばなぁなぁで流されていくのが面白かったが、ちょっと気に入らなくも思う。ほかの男にもそうなのだろうと思って。
 ターボは車を走らせる。せっかくだから目が覚めるまでドライブでもしよう。
 ニトロとの出会いはとあるバーだった。たまたま見かけたのだが良い匂いがしたのだ。
 体臭とは違う、おそらく仕事上での匂いだろうと思った。オイルのような匂い。
 信号待ちの時に項垂れているニトロの頭に顔を寄せた。髪から微かに煙たい匂いがした。
 初めて抱いたときもその匂いがした。酔ってふにゃふにゃになった表情でうんうんと人の話を聞かずに相槌を打つのでそのまま抱いたのだ。
 そのあと正気に戻っても、結局関心がないのかまた寝てしまって…ひどく悔しい思いをした。
「うー…ん…?」
 目が覚めるニトロ。
「そこの水、飲んでいいぞ」
「ふぁ…?」
 ぼんやりした顔でニトロはターボに誘導されるがままペットボトルを開けて水を飲み始める。
「…ん!?」
 意識がハッキリしたらしい、ギロっとターボを睨んでくる。
「なんでお前が!?あれ、ここどこぉ!?」
 窓の外を見ながら叫ぶ。
「行き倒れてたから拾ったんだ。感謝しろ」
「お高そうなスポーツカー…」
 車内をキョロキョロ見回し縮こまるニトロ。仕事でバンバン高そうなバイクや車を壊しているがそれはノーカンである。
(やはりカタギではない…)
 反社会勢力に所属しているのではないか、という疑惑を向けるニトロであるがターボはそんなこと知らない。
 そもそもニトロの連想がおかしいのでスポーツカーを持っている人たちに大変失礼である。
「少し休憩していこう、今回はちゃんと家まで送ってやる」
「それはどーも…」
 ターボにそういいつつニトロは眉をひそめる。
 なんだか休憩場所が…ラブホである。
「連れ込まれた!!!!また!!!!そういうホテルに!!!!休憩できないじゃねぇか!!!!」
「俺がヤりたいんだ、お前はまた寝てろ」
「今日はもう頭スッキリしちゃってるよ!」
「じゃあ気を失うぐらい犯してやるから。ほら行くぞ」
「俺はお前のセフレじゃないのに!」

   ◇◇◇◇

「シャワーとか、ほら、そういうの…」
「お前の匂い嗅ぎたいからいい」
「あ、そういう趣味ですか…」
 別にそういう趣味でもないのだが、ターボは延々に続きそうだったので言葉を返さず脱がして全裸にしたニトロに覆いかぶさる。
「お前、見ず知らずの男に股開くような男って認識でいいのか?」
「いや…さすがにそれはないけど…。さすがに嫌だったら抵抗するしお前には無理に開かされてしまったし…。
 まぁ、なんだ…なんていうんだ…」
「どうでもいい?」
「そう…どうてもいい…?かな、命にかかわらないなら何でもいいかなって…」
 ニトロは目を閉じてマグロ…いや無抵抗状態になる。
「俺、荒れてた時期あって色々ハメを外したことあるから…それのせいかもう基準がそんな感じに。
 命に関わることなら真剣になるよ。禁酒もする」
「ずっと禁酒をしていたほうがいいんじゃないのか?」
「違いない」
 ニトロは笑う。人懐っこい笑みで笑うのでターボは胸が熱くなる。
 自分に気があるのではないかと錯覚してしまいそうになる、彼はただ笑っただけだ、ちょっと距離が縮んだ程度なのだ。
 気があるのは自分だけで、きっと相手はちっとも何も感じていない。
 それを思うとそれを打ち消そうと手が伸びるのだ。全てを支配してしまいたくなるのだ。







 ニトロとの交わりはこの前より長い時間となっていた。前回はニトロが寝ていたせいもあるのだけれど。
 ターボは体位を変え四つん這いになったニトロの腰を抱き上げるようにして後ろから打ち付けていた。
「ひぁ、ぁぅ、ぁっあっ…!!!も、もぉ腰、感覚…なぃぃ…!」
「あるだろ、ほら」
「うぁぁっ…!!」
 ターボにナニを扱かれて泣きじゃくりながら枕やシーツを握り締めるニトロ。
 漏らす様にぼとぼとと出てくる白濁がターボの手を汚す。何度出たか数えていないが結構出した。
 ニトロは嗚咽のような声を漏らしながら枕に顔を埋め痙攣を起こしている。
 それが愛おしくてターボは背中にキスを落としていく。
 ターボの背中にはニトロの引っ掻き傷が出来ているのでお相子である。
「お前恋人いんの?」
「はぁ?…んぅっ…ぅ…」
 ニトロは荒い呼吸を繰り返しながら顔を顰める。
 恋人はいない、親しい友人はいる。しかしそれとこの行為になにか関連があるのだろうか?
 監禁してビデオレターでも送る気なのだろうか?
 脳が沸騰しているニトロは阿呆なことしか思いつかなかった。
「俺の恋人になれよ。俺は格好いいしセックスも上手いだろ?」
「お、おまえの、その、自信…なんなのぉ?」
「イエスかノーしか喋るな。おらっ」
「ひんっ」
 突き上げられてニトロの感情はぐちゃぐちゃになる。脚を掴まれ深い所を抉ってくるのだ、ターボのそれはニトロの理性を刈り取るほどの凶器のブツであった。
「イエスって言わないとキスはしない」
「うんっ…なる、こいびとなる!きす、して…きすほしい…!」
 腹の底からくる快楽に耐えられず、ニトロはとろとろになりながら言う。
 ターボはキスをする。ニトロは抱き着いてキスを貪る。
 結局ニトロの足腰が立たなくなるまでセックスは続いたのだった。

    ◇◇◇◇

「恋人って何すんの?都合のいいときにセックスする感じ?」
 なかなかドライなことをいってくるニトロは燃え尽きたような表情で助手席に座っている。お尻が痛いのだ。
 ともあれどうしてこういう男になったのかちょっと興味が湧いてくるターボであるがそれは追々でいいかなと思った。
「俺のことを知ってほしい。だからまずは俺のレースを見てくれ」
「…レース?」
「俺はレーサーだ」
「表向きのご職業で?」
「裏なんかないが」
「そういう設定…」
 ニトロはどうやらどうしてもターボをやましい職業に当てはめたいらしい。
 しかし残念だが普通のレーサーだし裏も表もない。家庭環境のせいで凄みがついてしまっただけである。
 なにやら殺人デスレースなどとぶつぶつ呟いているニトロがいるが、そのうち納得してくれるだろう。
 お互い何も知らないのだ、知らないまま交わって…何ともないのだ、悲しいことに。
 ターボは悲しい。自分はカッコよくて目立つ男であるのにそれに価値をまったく見出していないのだニトロは。悲しいことだ。
 ターボ自身も愛などわからない。ニトロに惹かれたのは自分と同じ匂いを感じた、それだけだった。
 レイプしたのは挨拶みたいなものである。あとで合意となったので良しだ。
「好きなやつが出来たら別れてもいい」
 とりあえずそれだけは伝える。ターボもこれが続くかどうかわからないからだ。
 しかしニトロは口元に手を当てながら伏し目がちの目を彷徨わせる。
「…親しい友人に俺もお前も好きって感情わかんねぇまま生きていくんだろうなって言われてて…。問題だ…。
 その友人もお前みたいに暴力的なんだ、バットに恨みを持っていて何本も折るような男なんだ。
 あ……ターボは何を壊してるんだ?」
「……なにも壊したことはないが」
 ニトロを知るのはいいことなのだが、どうも癖が強すぎる気がしてきたターボであった。

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