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この男を拾ったのは数週間前になるだろう。
雨の日だった。
帰宅途中、道端で座り込んでいるのを発見した。
具合が悪そうだったが病院へ連れて行こうとすると嫌がったので、とにかく部屋へ連れて行ったのが間違いだったかもしれない。
男は2,3日寝込んでしまったが持ち直してケロりとした様子で起きてきた。
名前はジェミニというらしい。
元気になったのならば普通出て行くものなのだがこの男は出て行かずに住み着いてしまった。
その原因は、人には言いにくいもので―――
関係を持ってしまったのである。
「ッあ、トルネード…もっと欲しいよ、なぁ…」
「ジェミニ…ッ」
「ふっあ、ぁぁっ…!!!」
ジェミニは目を細めながら身をくねらせる。
彼の白い四肢が快感に戦慄く姿は官能的で。
男同士であるという抵抗感もなくなってしまうのだ。
「で、る…!」
「いいよ…中で出せよ…トルネード…」
ジェミニの白い脚がトルネードの引き締まっている腰に絡みつく。
「ッ……」
ブルっと震えながら、トルネードはジェミニの中で果てた。
初めて抱いた日はよく覚えていない。
飲みなれない酒に酔っていたせいで記憶が飛んでいるのだ。
恐らく出て行きたくないからハメたのだろうと思ったが、2回目3回目…とそれ以降の行為はシラフのままである。
断れなかった。
何故か相手の言われるがまま、雰囲気に呑まれて抱いてしまう。
今日もそうだった。
ジェミニから求められて結局抱いてしまっている。
「また俺は…俺は……」
落ち込んでいるトルネード。
「…またか。この美しい俺を抱くことができるというのに。喜べよ」
シャワーから出てきたジェミニが偉そうにいう。
「なんでお前を抱かなくちゃいけないんだ!?俺、女の子ともしたことないのにいきなりわけのわからない男として!!!」
「ふぅん…女よりも美しい俺なのに満足できないのか。」
「そういうこといってるんじゃない!!」
もはや我が物顔で冷蔵庫からアルコールを取り出し、全裸のままでソファに座って呑み始めるジェミニに叫ぶ。
「この爛れた関係は異常なんだ!!!」
「そうなのか?子供のころからこんな感じだな俺の家」
「ありえないだろう!!」
「なぁに、俺の恋人は弟だったんだ。何もおかしくはない」
「き、きんしんそうかん……」
引くトルネード。
「俺、さすがに妹としたいとは思わない…やっぱりお前変だよ…」
「つまらない男だな。まぁいいさ。生活費はお前の口座へ入れてるんだから文句いうな」
「あの大金返したい!!どこから振り込まれてるんだ!?」
「俺の身内だから安心しろ。いいじゃないか飽きたら出て行くと言っているんだ。
というかなトルネード。金も貰って俺も抱けて、一体何が不満なんだ?」
「この唐突に起こった不条理な状況に対して誰だってこうなると思う。服を着ろっていってるだろう!」
トルネードはジェミニにシャツを投げつける。
「いいか、俺の部屋で住むんだから俺のルールに従え!服を着ろ、規則正しい生活を送れ!」
「面倒な男だ。だから彼女が出来ないんだぞ。」
「関係ない!!俺はもう寝る!!」
ベッドに横になるトルネード。
ジェミニはコトンとテーブルにアルコールを置くと、シャツを被ってトルネードの横へもぐりこんできた。
「おい…」
「いいじゃないか一緒に寝ても。ふふ、お前の身体引き締まってて好き」
「ば、ばか!やめろ!!」
ジェミニの手が服の中に入ってきて撫でまわしてくる。
「くすぐったい?」
目を細めてクスクス笑うジェミニ。
「おやすみトルネード。襲ってもいいんだぞ?」
「襲わない…」
「明日も休みなんだから犯してもいいのに」
「予定があるから無理」
「あ、そう…」
ジェミニは目を閉じるとすぐに寝息が聞こえてきた。
(寝つきのいい奴なんだな…)
◆◆◆◆
ジェミニは部屋に置いて、トルネードは山に来ていた。
ハイキングコースから少し道を外す。
コース通りなら綺麗な景色が見渡せる場所に出るのだが、獣道の方はどんどんと木々が茂ってくる。
少々歩くのだがもともと鍛えているトルネードにとってはなんともない距離だ。
少し開けたところにでる。
そこにボロボロの小屋があった。
「…」
小屋の扉を開くトルネード。
中は誰もいなかった。
「む…しばらくこないとやっぱりそのままか。…まさか山を変えたりしてないよな…」
不安になるトルネード。
「何故小僧がいる」
「!!」
背後にいつの間にか山伏風の男が立っていて、トルネードは声に驚いて思わず振り返りながら下がった。
「て、天狗!久しぶり!!」
この小屋に住み着いているトルネードが探していた人物だったため、笑顔を浮かべるトルネード。
「もう来ないと思っていたが?」
「野暮用が重なってなかなか…お前もケータイか何か持ってくれよ、連絡手段ねーもん」
「……」
トルネードを押しのけてテングは無造作に置いていた釣り道具に手を伸ばす。
「掃除終ったら俺も釣りするから」
「勝手にしろ」
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