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石さんが宇宙外生物によって魔法少女になってしまう話
 事務所には場違いな恰好をしたストーンがパイプ椅子に行儀悪い態勢で座っている。
 その周りをくるくると赤い牛をデフォルメしたような何かが飛んでいた。怖い。
 ウェーブは目だけ先にいたジャイロに向ける。
 ジャイロはウェーブに顔を向けていた、愉快なことがあればサディスト的嘲笑を浮かべているはずだが
 そうでもなく「どうしたらいいんだろ…」という顔をしていた。こっちもそのような顔をしている。
 当のストーンは完全に不機嫌でありダンダンダンダンッと片足を揺すっている。
 揺するというか床を踏みつけている。闘牛士が駆け出す前の足蹴りに近い。
「……あの、その、首から下は可愛いね」
「あ゛り゛か゛と゛ね゛ッ!!!!」
 テーブルに台パンしながら返事をするストーン。
「よかった、会話は可能らしい」
 ホっとするウェーブにこいつマジかよ…という顔をするジャイロ。
「そのカワイイ格好どこで買ってきたの?西松屋?」
「頭のおかしい質問は止めろ。ジャイロ、お前こいつに任せるな」
「ごめん、お前がまともに喋れるか分からなかったからウェーブでいいかなって…
 どうしちゃったんだよその格好、あと変な物体」
「その質問を2時間前にしてほしかった」
 2時間もいたのかジャイロ…と、ウェーブは引いた。
 狭い事務所で片方ふわふわフリル少女趣味ドレスの男と二人っきり…何も起こらないはずもなく…ウェーブがくるまで何も起こらなかった…。怖い…。
 ストーンはイライラしっぱなしだが話すために落ち着こうとどこからともなくタバコとライターを出してくる。
「どこから出てきた?」
「この格好になる前の持ち物は異空間にあるらしい、念じると出る」
「この場にクリスタルがいなくて良かった、密輸の手伝いさせられてたな、その格好で空港の移動は特殊プレイすぎる。」
「かわいいからいいんじゃないか?似合う似合わないの問題だけで」
 羞恥を心配するジャイロと感覚が狂っているウェーブの交わらない会話を聞きながらストーンは一服すると説明を始めた。
 出勤中に牛の妖精と出会い強制的にこの格好になったこと。
 この格好で牛たち妖精を狙ってくる宇宙人を撃退しないといけないこと。
 妖精が複数いるらしいことにジャイロもウェーブもげんなりとした表情になる。
『ストーンは俺たちのために戦―――ミ゜ッ』
「良い匂い」
 タバコでヤキを入れられる牛の妖精。お腹が鳴るウェーブ。
『ひぃひぃ…俺たちは地球に逃げて来て力がよわよわなので地球人たちに手を貸してもらおうと、俺たちの力を引き出す
 魔法の力を与えたんだ。この姿で迫りくる敵を倒してほしい。
 ちなみに相性もあって俺の力はストーンが合うってことだから他人に譲渡はできないぞ』
「クソじゃねぇか…俺はお前を灰皿にすることしかできねぇよ。喧嘩強くないしな。
 この二人のが喧嘩強いぞ。」
「人を殴るのは好きだからな」
「人キライだからね…」
 人間不適合者である。
『おかしいな、その二人も適合者だと思う。昨日仲間がこなかったか?』
「「さぁ?」」
 首を傾げる二人。牛の妖精も首を傾げる。
「昨日は小鳥が飛んできてメシに出来てラッキーだったぐらいだぞ」
「あぁ、オレも魚が上から落ちてきたから食べたよ、美味しかった」
『ヒェッ…いや、物体化するエネルギーが溜まればまた出てこれるし…
 我々対となるエネルギーを浴びることでしか消滅できないし…』
「…食っとけばよかったのか」
 頭を抱えるストーン。妖精に頭が追い付かず相手のペースに持っていかれたが、もっていかれなければこんな姿にならなかったのだ。
 色んな意味ですぐ手を出す二人の習性が羨ましい。ストーンは常識があるのでそんなことできないのだ。
「とにかくわかった、ストーンは魔法少女になって異星人と戦うんだな?
 応援するよ、首から下はかわいいから自信をもって」
「服に自信持ってもなんのプラスにもなるかっ!おい牛、もとの格好に戻せよ!」
『だから近所に出現してる敵を倒さないと戻さないっていってるだろ』
「殴りに行けよストーン」
 ジャイロはストーンにレンガを握らせる。
「何度も頭を殴れば生き物は死ぬ、大丈夫、お前は身体がデカいからやれる」
「殺人教唆するんじゃねぇ…」

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