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この世に存在するものは総て無価値だと信じている。
だからこそ、その総てを破壊できるのだ。容赦なく。無慈悲に。
自分の命も―――意味のないもの―――
「お前に全部壊されてしまったから、俺はお前を壊さなくちゃいけねーと思う。」
ジャイロの背中を見つめながらジュピターは呟く。
あぁなんてセンスのないプロペラだろう。気に食わない。
しかしそれが愛しく思えるのだ。
価値観を総て目の前の男に壊されてしまった。
信じきっていたモノが総て崩れた。
だがそれはジャイロにも言える事なのだ。
「唯一無二の理解者が存在しちゃいけねぇーんだよな。
でも俺はそこまで拘らねぇーぜ、一回死んでるからかな。
俺はお前に価値を見出しちまったこと、大切にしたいと思う」
ガッと、ジュピターはいきなり飛んできたジャイロアタックを受止める。
「あっぶねーな」
「俺とお前はそもそも住む世界が違う」
「そんなことねーよ。こうやって話してるじゃねーか」
「バカ鳥が。俺はお前を消せる」
「ホントに?」
睨んでくるジャイロに微笑むジュピター。
すぐに殴り合いに発展した。
*****
「なんと愚かしい。エレクトリックショックを撃てばいいだろう」
アースはメンテ用の装置を操作しながらため息をつく。
「手加減してやってんだよ。じゃないとプロペラ野郎が壊れちまうだろ?
殴り合ってるほうがじゃれてるみたいで可愛い気がしねぇ?」
「修理をさせられる身にもなれ。
しかし、意外だと思う。お前が他人を気に入るとはな、しかも下等なロボットに」
「俺もびっくりだぜー」
「次からはほどほどにしろ。我々は監視されている身なのだからあまり壊れると外出禁止になるぞ」
「了解」
アースは姿を消し、ジュピターは装置に身を委ねる。
ジャイロを見たとき、一目で理解できた。
自分と同じ目をしている。
自分と同じ考えを持っている唯一の理解者だと。
そこに価値を見出してしまった喜びと激しい焦燥感。
きっと相手も同じに違いない。
そして自分は生き方を変えることが出来る。
しかし相手は変えることができない。
ならば無理やり変えさせるか
もしくは
「俺、あいつになら壊されてもいい…」
*****
「……」
ひび割れたマスクを外して口の中のオイルを吐き出す。
あぁクリスタルにまたネチネチと修理費がどうのこうのと言われてしまう。
こっそりストーンにでも直してもらおう、なんて思いながら歩む。
(本気であの鳥を壊(ころ)せない…)
何故か躊躇ってしまう。
いや、理由は理解している。解っているが理性が否定しようとする、それを認めようとしない。
そして本能はそれを悦び、それとは別に闘争本能が悦びながらもジュピターを壊そうとする。
頭の中がぐちゃぐちゃだ、思考が乱れてエラーを吐く。
楽になるのは簡単だ、何かしらの感情へ「誤認」すればいいい、間違った認識をしてしまえばいいのだ。
しかしジャイロはそれが出来るほど器用な性格はしていなかった、恐ろしく真面目だった。
相手に応えなくてはいけない、どのような形であれ。
それが今のように殴り合いになってしまっても。
(…疲れた)
壁に凭れて座り込む。
この世は価値のないものだ、壊して当然のものだと認識していた。
もちろんその認識は自分のみの認識だと理解している。
理解しているからこそその衝動を戦闘のみへ向けていたのだ。
しかしそういった考えをもった者が別にいたこと、そしてそれに対してここまで仲間意識を持つとは思わなかった。
ダメなのだ、この世界に対して、少しでも価値を見出してしまっては。
自分の世界が書き換わってしまう。
変わってしまう自分が恐ろしい。
あいつはどうだ、あいつはそれを何とも感じていない。
あの目、あの赤い目は『待っている目』だった。
何を?
変わること?受け入れること?壊されること?
総てを内包しているあの目が思考を狂わせる。
「ジャイロ、遅いと思って迎えに来た」
「…」
ストーンに抱き上げられる。
「ご機嫌ナナメだな?」
「最悪な気分だ」
「ははは、機嫌のいい時はあるのか?」
「…殴ってるときかな」
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