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ナパームの兵器博物館にウェーブはきていた。
手入れの行き届いている陳列した武器を横目にウェーブは奥へと進む。
「うむ」
あの手で器用にガラスを拭いていたナパームは満足したのか頷いている。
「うっ…うぅ…」
ウェーブは声を掛けれずその場でおろおろし始めた。
声は掛けていいはずだ、何も問題はない。
ただ勇気がいる。
拒絶されないかという不安がまとわりつくのだ。
「あ、ウェーブ!!!」
先にナパームがウェーブの存在に気づく。
「来てくれたのか!よく来た!!!」
「ウアアアアアアア」
走ってきたナパームに抱きしめられウェーブは声も上げる。
「見てくれウェーブ、この武器を!新しく入ってきた子で―――」
散々新入りの話を聞かされたが、満足したナパームはいつものように一番奥にある部屋へウェーブを招いた。
ソファに座るウェーブの前にコトンとオイルを置く。
「ウェーブ、仕事の方は順調か?」
「ん…なんとか…」
マスクを外し、ウェーブはオイルを一口飲む。
いつもどおりの安物のオイルだが、飲みなれた味だ。
「あの、さ…ナパーム」
「ん?どうした改まって」
「ずっと、ずっと…言おうと思ってたんだけどさ…オレたち友達だよな?」
「え……」
ウェーブの不安げな視線にナパームはうろたえる。
「と、友達だろう!?俺たち友達だと思ってたんだけど!!!!!
違うのか!?友達って思い込んでいたのか!!?」
「いや、そうじゃなくて!!!落ち着けナパーム!!!!
オレが言いたいのは、周りがオレたちのこと恋人扱いしてるんだよぉぉ!!!!」
「え、えぇぇぇーーーー!!!!」
ナパームは顔(というか目)を両手で覆って声を上げる。
(か、可愛いと思ってしまった…)
ウェーブはナパームのしぐさに一瞬動きを止めてしまうが、あわてて口を開く。
「ど、どう思うナパーム」
「は、恥ずかしい…俺とウェーブそんなに仲良しに見えてたってこと…?嬉しいなぁ」
「えぇぇぇ!!?キモチ悪いとか思わないのか!?オレとだぞ!!!?」
「え?どうしてだ?ウェーブとなのに」
「オレとだからだよ!!!!」
「???」
ない首をかしげながらナパームは考えるように片手を排気口に当てる。
いちいちしぐさが可愛い。
「ウェーブを気持ち悪いとか思ったこと一度もないしこれからも絶対にないな。
あ、恋人に思われるのがイヤなのか?あぁ、そうだよな…俺たち友達だもんな…」
「それは…恋人に思われていてもいい、ということか?」
「……あぁ!?」
再びナパームは両手で目元を覆う。
「お、俺はなんてことを!!!!ゴメン!ウェーブの立場もあるよな!!!?」
「……」
ウェーブは目を細めてマスクを付け直す。
(もしかして…いや…まさか…)
ここへ通い続けてしまったせいで、ナパームのウェーブに対する好感度がMAXになったのだろうか。
最初きたころよりナパームの態度は和らげというか…可愛いというか…イヤ、むしろ自分はなぜナパームを
可愛いと認識してしまうのか。
「ウェーブ?どうした??」
「うっ…うっ…うあああああああ!!!!!」
「ウェーブぅぅぅ!!!?」
突如叫びながら出て行ってしまうウェーブに、ナパームは名を呼ぶことしか出来なかった。
****
「逃げてきちゃって泣いてるわけだね。」
バブルはやれやれとため息を吐く。
バブルの水槽の片隅で蹲っているウェーブがいた。
フィフスのところにいればいいのにここにきたということは、ナパームがくるかもしれないと思ったからだろう。
こういうことはフィフスを管理しているグラビティーに任せたいのだが…
(あの子に恋愛相談は無理だよねぇ…ボクも助言できる立場じゃないけど)
「君、どうしたいの?」
「どう…って…どうすればいいのかわからない…」
「友達として友好的な関係でいたいのか恋人になりたいのか決めちゃいなよ」
「うっううううう・・・・」
唸りながらまた蹲ってしまう。
「何を悩んでるのかわからないけど、ナパームは君の事を好意的に見てるようじゃないか。
君がいいならいいんじゃないの?ボクも彼と同じタイプのロボットと付き合ってるけど誠実だよ」
「……え」
ウェーブは顔を上げる。
ナパームと同じタイプ…エアーマンタイプ?セカンドでエアーマンといえばエアーマンしかいないではないか。
「えーーーー!!!?付き合ってたの!?」
「なんで驚くのさ」
「いや、てっきりあの人魚が好き、なのかなって…勝手に…」
「あぁ」
バブルは目を細める。
「いい?ウェーブ。よくいう運命の赤い糸って一本じゃないの。何本もあるの、そんでもって絡まってるわけ。
途中で切れてることもあるし自分から切ることもある。
彼女はボクと同じなんだよね、全部自分で切っちゃったの。可愛そうなぐらい真面目だよね?」
ウェーブに近寄り、その肩に手を置く。
「自分で切るかどうかは自分自身の問題なんだよ。
ボクは逆に驚きだね。君が他人のことで悩んでるなんてさ、いつも切り捨ててるくせに」
「……」
身を起こすウェーブ。
「…答え、自分なりに考えてみます」
「うん…」
バブルはスっとウェーブに手を差し出す。
「相談料一万ゼニー」
「冗談ですよね!?」
****
ナパームは悩んでいた。
ウェーブを怒らせてしまったのではないか、と。
ウェーブは繊細だ、感情の変化が読めない。
(ウェーブに好きな人がいたのかもしれないのに…)
しゅんぼりしていたナパームだが、ふと足音に気づいてそちらへ目を向けた。
「ウェーブ!!」
ビクビクしながらウェーブがやってきていた。
「あ、あの…話、ある」
「俺もだ!」
ウェーブはナパームに誘導されるようにソファに座った。
「すまないウェーブ!俺勝手なことばかり言ってしまって!!」
「いや、いい…ごめん、オレもいきなり帰って。」
ウェーブの視線は下を向いたままだ。
「オレ、お前のこと…好き、かどうかわからないが…一緒にいても、苦痛…じゃない」
銛を振りながら声を絞り出す。
「いつも、苦痛なんだ。他のやつといると…苦しいから自分の殻に、閉じこもるんだけど…。
なんだかお前とだけなら、そんなことないんだ、全然そんなことない。」
「ウェーブ…」
「友達、だからかなって…思うけど、もし、お前が…よければ…お前が……」
完全に俯いてしまう。
ナパームはウェーブの横に座りなおして、ぎゅっとウェーブを抱きしめた。
「俺のために頑張ってくれるウェーブが大好きだ!
できれば無理をしてほしくないんだが俺鈍感だから…こんな俺でもいいのか?」
「……」
コクコク頷くウェーブ。
そのわずかに覗く肌の色は赤く染まっていた。
「ナパーム…」
ウェーブはマスクを外すと、ナパームの排気口の上辺りに唇を押し付ける。
「!!!!?」
「愛情はカタチで表現したほうがわかり易いって聞いて…」
涙ぐみながらウェーブはいう。
「変だったか?」
「変じゃない!!変じゃないよ!!!照れるけど!
俺もキスでお返ししたいがあいにく…」
「ううん、いい…伝わってくるから」
ウェーブはナパームの腕に頬を寄せて答えた。
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