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青い瞳は今でも鮮明に思い出せる。
凛とした声―――
―――酷い嵐だな、『兄弟』。動けるか?
晴天のような、透き通った青。
(トルネードさん…)
青い空を見上げながらホーネットはトルネードを思い出していた。
いつも突然やってくる彼。
竜巻を利用しているせいで花が多少散ってしまうのだが、それをいうと彼は歩いてくるようになるだろう。
それはそれで気を使わせてしまって申し訳ない気がするのでホーネットは黙っている。
それに飛ぶ彼の姿が気に入っていた。
「よー!ホーネット!」
「!! バーナーさん」
珍しい客にホーネットは少し驚く。
バーナーは挨拶をしながらキョロキョロと辺りを見回していた。
「誰かお探しですか?」
「あぁ、ウッド…は居ないみたいだな」
「今日は来ていませんよ」
「そっかー。まぁいいや」
彼はそういってぐりぐりと自分の頭を撫でる。
彼も不思議なものだ、とホーネットは思う。
自分達と同じように『特別』になったのに、特に何も思うことがないのか自然体である。
特に何をするというわけでもない。
炎を使って処理をする仕事を手伝ったり、こうやってウッドを探しては何かしら手伝いをしたりと気ままなものだ。
「バーナーさん」
名を呼ぶとバーナーはホーネットを見た。
その淡く輝く緑の瞳は感情を映さない。
「お暇でしたら紅茶でもいかがでしょう?」
「知ってる!それシャコウジレイってやつ!」
バーナーは何が楽しいのか笑いながら言う。
恐らく知っている知識があって喜んでいるだけなのだろう。
「でも飲む!お前の紅茶は美味いからな!」
「それはどうも」
ホーネットとバーナーは施設内に移動し、休息室のソファにバーナーは座る。
紅茶を淹れながら雑談をする。
殆どがバーナーが勝手に喋っているわけだが。
「美味い!」
「ありがとうございます」
「お前はいいよなぁ、居場所があって」
「そうですか?」
バーナーはカップをテーブルに置く。
「安心するだろう?俺はやっと解ったよ、居場所があると心が楽になる」
「そういう…ものでしょうか…」
「ココ、嫌いなのか?」
「…私は一度、道を過ってしまった。特別に…そう、特別にここに居させていただいているに過ぎないんです…」
顔を伏せるホーネット。
我々は特別だ、ライトナンバーだったからこの待遇なのだ。
行き違いがあった、憎悪を利用された、色々なことが絡み合い、そして『特別な存在』になってしまった。
立ち上がった先に―――変わってしまったのは世界ではない、自分の立場だ。
「よくわかんねーけど思いつめるのよくねーぞ?」
「貴方には解らない」
「プラントも?ウッドも?誰が解るんだ?トルネードか?」
「あ、貴方はッ…」
顔を上げるホーネット。
バーナーが真っ直ぐ自分を見ていた。
何も映さない緑の瞳が、射抜くようにこちらを見ている。
「貴方は、解らないでしょうが…私は人間のためのロボットです…。
それを捨ててしまったのに再び与えてくれた…配慮してくださったのは解っているんです。
ただそれが、私が『特別』になることが果たして正しいことなのか」
「俺は自然環境を破壊するためだけに作られたロボットだけど、今の生活に不満は無い。
お前は俺のことを単純だと思ってるかもしれないがそうじゃねぇ。
俺が俺の存在理由で居続けるとどうなると思う?俺は燃やすぞ、お前もウッドも。」
ホーネットに指を指すバーナー。
火は出ていないが反射的にホーネットはビクリと震えた。
「そして俺自身も燃やす」
バーナーは自分の手を見る。
「根本的な部分は『死にたくない』、これだろう?
お前なら解るだろう?あまりにも理不尽な死は抵抗したくなるだろう?
特別?結構なことだ、特別になって生きているのが罪なら罪を背負って生きればいいだろ」
「…!」
バーナーの瞳がトルネードの瞳と重なる。
あぁ、そういうことなのかもしれない。
我々は同じなのだろう、方向性は違うが同じものだ。
自分はただ恐れている。
自分は特別になりたかったわけではない、なってしまった―――
そうして恐れていたのだ、失った生活が何事も無かったかのように戻ることが。
まるで自分達の戦いを否定されたかのような空虚感に襲われてしまう。
違うのだ、自分達が望んでいたのは平穏ではない。
平穏を失う絶望をこれ以上ない絶望を、味あわせたくないと―――
ならば、背負って生きるしかない。
顔を背けずに。
「なんとなく、解りました…」
「そうか?まぁお前の周りいっぱいいいやついるから大丈夫だろ!」
「貴方もその中に含まれているんですかね?」
「おう、また暴走したとき止めにいってやるよ!」
笑いながらバーナーは言う。
ホーネットもつられて微笑んでしまう。
「そういえば…バーナーさんは不思議な目をしてますね」
「高熱に耐えれる設計…らしい、涙はすぐ蒸発しちゃうからって。
だから俺泣けねぇんだよな。キングは泣くのに俺は泣けないんだぜ?」
「あの人泣くんですか?」
ホーネットはキングの姿を思い返す。
ライト博士の研究所で見かけたことがあるのだが…
全体的に面積があったな、と人のことはいえないがそういう印象しかない。
「うん。最近はしらねーけど昔は。あぁ、でもあれは…泣いてるように見えただけかな…」
首をかしげながらバーナーは呟く。
「お前はプラントに泣かされてるんだろ?」
「知りません!!」
「照れんなって。紅茶おかわりしていい?」
「いいですけど…私とプラントさんとそういう目で見るのを止めてください」
「みてないみてない」
「嘘です、見てます」
「じゃあ俺とウッドがそういう仲だと言ったらそういう目で見るのかお前は?」
「う!?」
怯むホーネット。
「安心しろそういう仲じゃねーから」
「え、そうなんですか…?」
「なんていうんだろう、うーん…お前と俺が理解し合えるのはさっき言った『生存本能』の共感だろ?
ウッドと俺は、『闘争本能』かな。俺はお前らが羨ましいよ」
「……」
笑うバーナーの目に感情はない。
感情がないのではない、きっと自分が読み取れていないのだ。
もしくはバーナー自身が「悲しい」と思っていないのかもしれない。
美味い、と言いながらバーナーは紅茶を啜る。
そんな彼とトルネードの姿を重ねてしまった理由を、ホーネットはゆっくりと考え始めていた。
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