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           流れる映像は断片的で
          
           しかし思い出深い。
          
          
          
          「…ル…さん」
          
          
          
           遠くから声が聞こえる。
          
          
          
          「メタル…さん」
          
          
          
           名を呼ぶ声が。
          
          
          
             ****
          
          
          
          「メタルさん、メンテナンス終わりましたよ~」
          
           暢気な声にメタルは目覚める。
          
           相手はマグネットだ。
          
           このほんわかしたオーラに対して非常に苛立ちを覚えるが、だからといって手を出すほど憎いわけでもない。
          
           メタルは身を起こして腕を動かす。
          
          「…」
          
          「軋んでるように感じますか?」
          
          「…異常は?」
          
          「いえ、ありませんでしたよ」
          
           マグネットは目を細めながら椅子に座る。
          
           間抜けな性格ではあるが、彼の管理能力は高いものがある。
          
           だからこそ、今回メンテナンスを頼んだのだが…。
          
           腕を伸ばすとギシ、と腕が軋む感覚がする。
          
           腕だけではない、この機体のいたる所が悲鳴を上げている気がする。
          
          「ロボットが幻覚に囚われるというのもおかしな話だな。
          
           電子頭脳の異常を考えるべきだろうか」
          
          「博士にご相談しませんか?」
          
          「いや、いい…負担をかけたくない」
          
          「貴方に何かあったら、博士とっても怒ると思うんですけど」
          
          「博士が生きている限り、私に何か起こるということは絶対にない」
          
          「はぁ」
          
           メタルはマスクをスライドさせて顔を露にすると、マグネットを見る。
          
           メタルの顔の造形は美形に分類されるだろう。
          
           とくに狙った分けでもないのだが、とくに拘りもなかったため「標準的に」作った結果である。
          
           ただメタルの険のある表情のせいで「怖い」という印象を与える結果になっているが。
          
          「お前…いや、サードはなぜここに居座っている?」
          
          「どういう意図の質問ですか?」
          
          「死ねと言ってるわけじゃないよ。…ただ、今はジェミニくんがいないだろう?スネークもか。
          
           お前たちの行動原理はジェミニくんが要因だと考えていたんだが」
          
          「さすがメタルさんですねぇ」
          
           マグネットはウンウンとうなずく。
          
          「そうです、俺たちはジェミニちゃんのために生きてるようなもので…。
          
           いまでもそう」
          
          「そうなのか?」
          
          「はい。」
          
           目を細めるマグネット。
          
           その目は酷く冷たい印象を受ける。
          
           マスクの下は薄らいだ笑みが浮かんでいることだろう。
          
          「愛にはいろんな形があるんです、メタルさん」
          
          「……その辺はよくわからんが、そうか」
          
          「はい。
          
           ジェミニちゃんがロックマンを恋焦がれ狂ったように。
          
           俺がジェミニの全てを愛しているように。
          
           スネークがジェミニへ愛を示したように。
          
           シャドーが、過去を愛しているように。
          
           他の皆がその全てを守りたいと想うように。
          
           全部大切、全部繋がってるんです、一つに。
          
           だからジェミニがいなくても俺たちはここにいます」
          
           マグネットはマスクを外す。
          
           そこそこ整った顔立ちが現れる。
          
           その表情は穏やかな笑みを浮かべているが、その瞳は狂気の色しかない。
          
          
          
           戻れるわけがないのだ、彼らが、あそこへ。
          
          
          
           あまりにも歪んでしまった。
          
           その歪さはここにいても感じるほどに。
          
          「メタルさん…心って死に掛けると生きようとするんですよ、どんな手を使っても。
          
           ジェミニは狂っているけど正しかった、妄執に囚われていなければ本当に死んでいた。
          
           ジェミニちゃんが死んでしまっていたら、俺の世界も死んでいた」
          
           マグネットはふと顔を普段の緩んだ表情に戻して首をかしげる。
          
          「メタルさん、大丈夫ですか?
          
           本当に気分が悪いんですか?」
          
           マグネットの手がメタルの頬に触れる。
          
           噛み千切られる覚悟はあったが、メタルは特に抵抗を示さず受け入れた。
          
          「少し…疲れたかもしれない」
          
          「そうでしょう、貴方ずっと動いてますし」
          
          「でも、博士より先に…休みたくないんだ」
          
          「嗚呼…なんだか」
          
           ふふっとマグネットは微笑んでメタルを抱き寄せる。
          
          「メタルさん、ジェミニちゃんみたいですね。きっと似てるんですね。性格。
          
           本当、二人とも真面目」
          
           ぽんぽんと背を叩くマグネット。
          
          「ジェミニくんのように狂えるほど器用に出来ていない」
          
          「でしょうね、本当不器用ですよね。貴方たち。」
          
          「哀れむか」
          
          「少しだけ。俺たちもヒトのこといえませんからねー」
          
           マグネットはにへらっと笑いながらそう答えた。
        
  
 
 
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