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 いつから彼のことが好きだったのだろう。

 メモリーを遡って自分の変化を辿る。



 そうだ、彼がロックに対して好意を持っていると気づいたときから。



 それが互いに通い合わぬモノだと確信していた。

 だから同情したのかもしれない。自分と重ねたのかもしれない。そして行き場を失った愛情を向けてしまったのかもしれない。

 何をしてもよかった、何をされてもよかった。

 だから一度死んだのだ、そうすれば永遠に彼を繋ぎとめられると。

 愛という感情で雁字搦めにしてしまえば、もう苦しませずに済むと思った。

 結果的に彼は受け入れてくれた。

 しかしこれはどういうことだ。

 目の前に横たわる彼は、寿命幾ばくも無い。

 彼は死を受け入れている。

 死を。


 ――――あのときの俺のように。



   ◆◆◆◆



 スネークにも部屋は与えられているが、普段は薄暗い。

 わざと照明の強さを落としている。

 明るい場所より暗い場所の方が落ち着くからだ。

 しかし今日はスネークは部屋の明かりを落とさなかった。

 椅子に座って、足元の己の影を見つめる。

「なぁシャドー」

 ぽつりと呟く。

 影の中にあの男がいるのかいないのか、スネークにとってどうでもいいことだった。

「俺は言っちゃいけねぇこと言ってしまった。言う権利なんかねぇのに言ってしまった」

 スネークは項垂れる。

「ジェミニに生きて欲しいと、言ってしまった。俺はそんなこという権利なんかない。

 解ってたのに、勝手に言ってた。俺はやっぱりだめだ、どこか壊れてる。

 俺から勝手に死んで別れたのに、今度は別れるのが嫌だからジェミニに生きろという。俺はおかしい」

「…」

 ずるり、と影から手が出る。

 そのままずるずるとシャドーが這い出てきた。

「俺は死んだままの方が良かったんだ」

「嗚呼スネーク殿、俺はお前さえ生きていてくれればそれでいいんだがな。」

 シャドーはスネークの肩を抱く。

「ロックマンとの生ぬるい生活で毒気を抜かれたか?スネーク殿。俺のスネーク殿はもう少し利口だったよ。」

「あぁ、俺はバカになっちまったな。お前に愚痴るぐらいに」

「嬉しいがね。久しぶりに俺を求めてくれて」

「だってお前、俺と二人っきりの時は素だから嫌味くせーんだよ」

「嫌味?」

 首をかしげるシャドー。

「嫌味を言っているつもりは毛頭無いんだがな」

「『自分』と会話してるみたいでヤなの」

「なんだ、それは仕方が無い。俺の言語プログラムは丸々スネーク殿のものであるし。

 それで不愉快ならそういってくれればもっと早く―――」

「別に不快じゃねーよ。バーカ」

 スネークはシャドーの胸元を小突いて立ち上がる。

「なんという気分屋。だがそこがいい」

「シャドー帰れ。ハウス」

 影を指差していうスネーク。

「酷い。拙者の扱いが酷いでござるよぉぉぉぉぉ」

「うっせー。ごめんよ」

 頭を掴んでぐしぐしと撫でる。

「ジェミニが良くなったらさ、そっちに行くよ」

「今からでもいいぞ?ワイリー博士の方が良いのではないか?」

「そういうなよ。マジそっちのがいい気がしてくるだろ。

 でもそれじゃアイツが追っかけてくるじゃねーか」

「ロックマンか」

「ジェミニと俺は笑ってアイツからバイバイしてやるぜ」

「性格の悪い…だがそこがいい!!」

「早く帰れ馬鹿」

 スネークに蹴られながら、シャドーは影へ沈んでいく。

「ありがとうなシャドー、少しスッキリした」

「それは何より―――」

「……」

 明かりを落とすスネーク。

 暗闇はいい。

 全ての境目がわからなくなる。

 自分も相手もよく見えなくなる。


 暗闇の中

 どこかで繋がっているんだと思えて


 心が楽になる。





 自分はジェミニと繋がっていたい。

 この世界で この時間で

 もう遠い遠い世界同士で繋がりあうのは辛い。

 だからジェミニを遠くへ行かせたくないと思った。

 自分で去っておきながら、この様だ。



「本当に、俺って気分屋だねぇ」

 スネークはクスクス笑いながらジェミニのいるメンテナンス室へ向かい始めた。
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