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注意
キングが非戦闘モードという名の擬人化になっています。
 テレビに映る男をトルネードは凝視していた。
 姿は違うが確実にあの男だ。
 映像に映っている姿は柔らかそうなストレートの金髪にバイザーのようなサングラスをつけている。
 山の中で出会ったときの姿は黄金の鎧を身に纏っていたが、口元と声は覚えている。
『―――私はかつて人類と対峙したことがあるが―――』
 何を喋っているのか、頭の中に入ってこない。
 聞かなくてはいけないのだろうに、罪悪感が沸き起こるのか。
『これ以上ロボットによる罪を生み出さないためにも人類が変わるべきなのだ。』
   ***
『ライト製を危険視する発言もあるが、それは間違いだといえる。
 彼らが何故そこまで追い込まれたのか?
 彼らに感情があるからだ。
 否、彼らだけじゃない『私たち』だ。私たちには心がある。
 それを人類は受け入れて共に歩まなくてはならない時期がきているのではないか?
 もはや我々は作り手と道具という関係ではない、ロボットという種族を人類は受け入れる時が来ているのだ。
 それでも拒むのであれば恐らく永遠にロボットの罪は生まれ、悲しみが広がっていくだろう。
 我々はもはや道具ではない、人類の友に成り得たる種族だ―――』
「はっはっはっはっ!ロックくん見たまえ見ているかい?ほぅら私だよ」
 子供のようにはしゃぎながらキング(鎧の姿ではなく非戦闘用の擬態の姿だ)はロックにいう。
「見てますテレビの声が聞こえないよキング」
「ここでもう一度演説してもいいよ?」
「これを教えにわざわざ研究所に来たの?キング」
 ロールが紅茶を運んでくる。
「そうだよ…あとはライト博士と話がしたくてね。博士はご在宅のはずなんだが、はて?」
「呼んだからもうすぐくると思うわ。今研究のために部屋に篭っててなかなか手を離さないのよ。
 ……博士に変なことしないでしょうね??」
「疑り深い少女だ。私は改心したのだから何も悪いことはしないさ」
 言いながらキングは紅茶を一口飲む。
「なかなか家庭的な味だ。美味しいよ」
「いちいちひっかかる言い方ね…いっとくけど私のほうがロックより紅茶入れるの上手なんだから」
「ほう…覚えておくよ」
 ふふふ、と柔らかな笑顔を浮べる。
「キング、ライト博士と何の話を…あ、僕たちが聞いちゃいけない話?」
「そうでもないが…私個人としては少々他人に聞かれると恥ずかしいかもしれない」
「つまり?」
「演説の採点をしてもらうということだよ」
   ****
「君がくるとは思わなかったよキングくん」
 しばらくしてライト博士がやってくる。
 本当に篭っていたらしい、髪が少々ボサついていた。
「ははは、私は遠慮を知らぬ男でね。」
「じゃあ僕たちは席を外しますから、何かあったら呼んでください」
 ロックとロールは部屋から出て行く。
「ライト博士、チェスなどしながらお話しましょう。
 いやぁ一度貴方とチェスがしてみたかったのだ」
「構わんよ」
 キングはニコニコしながら折りたたみ式のチェス台や駒を出してくる。
「…私の演説はいかがでした?なかなか自信はあるんですよ。
 しかし好戦的すぎるだろうか、貴方からしてみれば……」
 チェスの駒を動かしながらキングは呟く。
「わしに認めてもらいたいのじゃな…」
「………なるほど」
 キングは凄く間の抜けた声を上げた。
「私は貴方に認められたいのか、ははは…いや失礼。すっきりした。
 しかし、内容に嘘は無い。人類と共に生きるのはイイコトだと思うのですよ博士。
 あとはね、博士。貴方はメディアに出るべきじゃない。素直すぎるのはいけない。
 少しずる賢い私やコサック博士に任せておいて貴方は言わなくてはいけないときにのみ発言するといい。
 話をしたかったのはこれぐらいかな。あとは雑談でもしようじゃないか。チェスが終るまで。」
「…君はワイリーに似ているのぅ。ワイリーは君の思考プログラムをワイリー自身の―――」
「止めてください。私に博士の影を重ねるのは止めてください。
 お察しの通りですから止めてください。」
「む、そこまで嫌なのか?」
「今までの行為を考えた上で、王に到る私がアレと同じ思考をプログラムされているというのは居た堪れないのです。
 いくら時間が掛かるからといって自分の思考パターンを入れますか?」
「あいつは変なところで融通を利かすからの…じゃが君がロボットを愛しているのは本物だとわかるよ。
 あいつもロボットを愛している」
「その割には私は放置されましたが」
「あいつの悪い癖じゃ」
「そういうところが!嫌なのです!!!!人間の、そういうところが!!!!!!!!」
 頭を抱えるキング。
 折角の綺麗な髪がぐしゃりと掻き乱れる。
「君とワイリーの違いを教えてあげよう」
「!」
「君は手駒を大切に扱う。囮や捨て駒にしない」
 チェス盤を眺めながらいう。
「しかし、私は…あの子たちに酷い仕打ちを…していました。自分の意志で」
「今は後悔しているのだろう?それが君の優しさじゃ」
「……貴方はずるい。ロボットに優しすぎる。
 ロックくんは幸せですね貴方のような人の息子で。」
   ****
「お前の元上司がテレビに出ていて、色々話をしていた」
 トルネードは横に座るテングに呟く。
「人類と共に生きる、しかし俺にはその資格が無いと思った。」
「戯言だ。あいつの言うことを真に受けるな」
「……すまない。こんな話、お前は嫌だろうな」
「あぁ、貴様は考え方が真っ直ぐすぎる。」
「そ、そうか…すまない。気をつける」
「…もっと砕けた物の考え方ができないのか。好きなように生きればいいだけだろうが」
「テングのように?」
「……」
「いや、今のは別に嫌味とかではなくて!!!」
 慌てるトルネード。
「あ、そうだ!テング!久しぶりに山を降りないか!?ギャラクシーからプラネタリウムのチケットを貰ってて…
 一緒に空ばかりみているんだ、たまに宇宙でも見ようじゃないか!」
「…好きにしろ」
 呆れたような声で言うテング。
「お前は誤魔化し方が下手だな」
「うっ…仕方が無いだろう………」
(プラネタリウム…?)
 少し引っ掛かる何かを感じたが、テングは深く考えず忘れることにした。
        
  
 
 
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