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 最近のロックは機嫌がいいように思える。
「あ、エレキお帰りなさい!」
 簡易メンテナンス室…そこにロックはいつもいる。
 家事などはロールと分担しているため、手隙時間はこうやって様子を見に来ているのだろう。
 それが心配でエレキは仕事を定時で帰ってくるようになったのだが、ロックにとってはそれは嬉しいことらしい。
 メンテナンス台に横たわるのはRWNだったがDWNになったジェミニだ。
 DWNが何故ここにいるのかという話になってしまうが、ロックが行き倒れていたジェミニを拾ってきたのである。
 エレキはジェミニの顔を覗き込む。
 目を閉じ、完全にスリープモードだ。
「まだ目覚めないのか」
「うん、早く目が覚めて欲しいな。色々話したいよ」
 ロックがジェミニに対して、サードに対して後悔の念と後ろめたさに似た思いを抱いているのはエレキは知っている。
 ライト博士とワイリー博士の和平の象徴としてのサードが結局ワイリー博士側に陥ってしまったこと、
 そして陥るまでの変化に気づかなかったことへの後悔。
 エレキ自身はサードに対して腹立たしい思いしかなかった。
 何故こちらに戻ってこないのか、と。
 半分でもDRNなのならば戻ってこれるだろうと。
 ロックがこんなにも悲しむ必要はあるのか、そう思うとイライラしてきたのだ。
「あ、ご飯の用意するね」
「あぁ」
 ロックが椅子から立ち上がると同時に部屋のドアが開いた。
「ようロックマン」
 堂々とした足取りでトルネードが入ってきた。
「あれ、トルネードマン久しぶりだね!どうしたの??」
「合いの子がいるって聞いてどんなのかなって思ってさ。…えーっと、久しぶり」
 トルネードはエレキの顔を見てちょっと戸惑った様子で笑顔を向ける。
「元気そうだな。仕事はどうした」
 エレキはトルネードに対して特に表情を一つも変えることなく呟いた。
「今日はもう終わりで。えーっと、あぁこれ?」
 トルネードはジェミニに近づいて顔を覗き込む。
 そのとき、その一瞬、トルネードの顔が曇った気がした。
「トルネード?どうした」
「いや、なんでも…。死んでない、よな…」
 ジェミニの顔を撫でるトルネード。
「そんなわけないだろう。」
「あぁ、良かった…。ぎゃあ!?」
 トルネードの行き成りの悲鳴と、腕のプロペラがガシャンと展開するのでロックとエレキの方が驚く。
 よくみればトルネードの手をジェミニの手が握りしめ、ジェミニの目が開いていた。
「び、びっくりしたー!!!」
「僕の方がびっくりしたよトルネードマン!!!それびっくりすると開くの!?」
「お、思わず!!!」
 顔を紅くしながらトルネードは腕のプロペラをカシャンッとたたみながらジェミニの顔を眺める。
「…誰だお前は」
 ジェミニが声を発する。
「と、トルネード…」
「スネークかと…思ったのに…スネークは、どこ…スネーク…今まで一緒にいたのにスネーク……。」
 ジェミニの目が見開く。
「ここは!!?」
「ジェミニマン!いきなり起きちゃダメだよ!!」
「ロックマン!?」
 ジェミニを押さえに来るロックを見てジェミニは顔を歪ませる。
「何故…ここは、まさか」
「ライト博士の研究所だよ。君、倒れてたんだ。それを僕が見つけて……」
「………」
 手で頭を抱えるジェミニ。
「…ロック、そっとしておこう」
 エレキはロックの肩に手を添えて言う。
「しばらくゆっくりすればいい。変な真似なんぞしないと思うが、すれば容赦しない」
 動こうとしないジェミニにエレキはそういうと、トルネードを見る。
「……」
 トルネードは小さく頷いて部屋の外へ出る。
 ロックも察したのかエレキとともに部屋から出た。
「あのままでいいのか?」
 トルネードがエレキにいう。
「あぁ。これでいい」
「ふぅん…」
 どうもトルネードは納得できない様子だが、自ら何かしようとまでは思い至っていないらしい。
「ロック、俺はまだ夕食を取っていないんだ、トルネードも一緒にどうだ?」
「あ、あぁいいのか?」
「いいよなロック」
「うん、いいよ」
 顔を上げるロック。
「じゃあ用意するから」
「E缶の方が効率的なのになぁ」
「E缶は味気がないだろう?」
「あーこっちは美味しいけど、この食事の仕方はあとのメンテナンスが大変」
 トルネードはエレキにそう答えながらロックの作った食事を口に運ぶ。
 ロックは先に博士たちと早めの食事をしたそうでエレキの隣に座ってお茶を飲んでいた。
「トルネードはずっとE缶なんだ?」
「作る手間をかけてまで非効率なエネルギー摂取をするよりは…あと、ロックマンより料理は上手じゃないしな」
「それはそうか」
「あ、そっか…じゃあ毎日お弁当もって行こうか?」
「そこまでしなくても。大体ロックマンはライト博士の身の回りを世話するのが仕事だろう?俺じゃない」
(似てるなこいつら…)
 真面目に変な会話をするロックとトルネードに若干同じ空気を感じるエレキ。
 いや実際似ているのだろう。
 トルネードは怒りと絶望の中、ワイリー博士に出会って間違った方向に進んでしまったが、もともとその想いは
 棄てられて行く仲間を助けたいというものだったろう。
 そして彼らは人間は脆いということを知らない。
 その上でワイリー博士に『人間に危害を加えてはいけない』というリミッターを外されたからあの結果になってしまったのだ。
 同族を守ろうとしての間違った結果だ。
 何かを守ろうとする想いはロックに似ているし、その強い意志もロックを思い出させる。
 彼らが敵対したとき、そういう風には感じなかったが。
 トルネードは心を閉ざして己の義を貫こうとした。きっとそれが原因だろう。
 現在の彼は心を開いて、誰にでも真っ直ぐに付き合ってくるし、この切り替えの速さは感心する。
 もしこれでトルネードたちと交友関係にならなかればロックはまた悲しそうな顔をしていただろう。
「ところであの合いの子はどうするんだ?」
「ジェミニマンの好きにさせようかと思ってるよ」
「置くつもりなのかロック?」
「うん…」
 ロックは目を伏せながらエレキに頷く。
「ジェミニマンがそう望むなら僕は拒む理由なんてないから。いてくれたほうが嬉しいよ、昔の彼に戻ってくれればいいんだけど」
 微笑むロックの顔が少し悲しみを帯びている。
 エレキもトルネードも、ロックのいう『昔の彼』という姿は知らない。
 ロックのいう『昔の彼』というジェミニの姿が、演技かもしれないのに。
「昔のあいつってどんなやつだったんだ?」
「優しくて、そうだ…僕に笑ってくれたよ。今は笑ってくれないんだ…無理もないけど。
 お互い、傷つけあっちゃったから―――」
「何があったのか、俺の知るところでは無いだろうが…お前なら大丈夫だろう?」
 トルネードはクスリと笑う。
「何を自信のない顔をしてるんだ。ロックマンなら大丈夫さ。俺が保証する」
「トルネードマン…」
 トルネードがいて良かったと、エレキは少し安堵する。
 こんな慰め方は自分には出来ないだろう。
 自分はトルネードよりもロックと一緒に居すぎてしまっているから―――
        
  
 
 
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