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注意
スネークが死んでいる
ジェミニも死ぬ
内容がまとまっていない。電波(クロバトが。)
しん…と静まり返った部屋。
ジェミニの駆動音だけが微かに聞こえてくる。
シャドーはじっくりとシェミニの顔を眺めていた。
ジェミニの顔色はいつも通りで、それはロボットだから当然のことであった。
「…居たのか」
ジェミニが目を開いてシャドーへ視線を向ける。
「ジェミニ殿の戦闘データをウェポンアーカイブに移すそうでござるよ。
拙者でもよかったのに、博士はジェミニ殿を選んだ」
「俺は、強い、から、な……」
笑みを浮かべるが、ジェミニのその表情はどこか虚ろいでいて―――
ジェミニのパーツにどこも異常は無い。
常に新しいものに取り替えている。
コア以外は。
「今すぐにでも移そうか?」
「…あぁ、いいぞ」
身を起すジェミニ。
「直接俺が戦ってやってもいいんだがな」
「ロックマンが手加減するでござろう。ジェミニ殿の今の姿を見れば、恐らく手を止める。」
「………」
ジェミニは無意識に手を胸元へ持っていく。
コアのある部分へ。
ジェミニの身体に異常はない、コア以外は。
戦闘による負担のせいだったのか、それとも『心』に受けていた重圧のせいなのか
ジェミニのコアは過負荷による寿命を迎えていた。
コアはどうしようもない。
電子頭脳ならば、記憶や性格がリセットされるが取替えはきくし、命に関わる動力炉だって直せるものだ。
だがコアだけは直せない。
「なぁシャドー」
廊下を歩きながら、ジェミニが名を呼ぶ。
「なんでござる?」
「俺、スネークみたいに戦って死にたかった。俺は戦闘用なんだ。
寿命で死ぬだなんて、嫌だ、嫌なんだよ……解るだろう、シャドー」
「…あぁ、解る。ジェミニ殿とは長い付き合いだ」
「そうか。そういえばお前とは長かった。ふ、ふふふふ…」
「ジェミニ殿?」
「俺は、お前が嫌いだったよ。ほら…お前最初の頃スネークの影の中にいたんだろう?
あいつもこそこそと、俺らからお前を隠してるしさぁ…」
「気に入らなかった、と」
「あぁ、気に入らなかった」
「じゃあもう少し気に入らないことを教えてやろうか」
「ん?」
シャドーはジェミニに顔を寄せる。
「拙者の地球のデータは大半がスネーク殿からのものだ、急を要したので送り込まれたのだが…
思考パターンに若干スネーク殿の影響が出てしまう、気に入らないだろう?」
「あぁ、そうだな。とても気に入らない。お前らは、本当に」
笑みを浮かべるジェミニ。
「でも嫌いじゃなかった」
「それはよかったでござる」
メットに無数のコードを繋がれ、戦闘データをウェポンアーカイブへ移す作業の合間
ジェミニは何回かスリープモードへなってしまっていた。
「博士、ジェミニ殿はいつ止まってしまうでござろうか」
「…いつ止まってもおかしくない状態じゃな。こいつ今まで気力で持ちこたえてたようなもんじゃ。
無茶をしよるからこうなる」
言ってワイリーはコツンとジェミニの頭を小突いた。
「無茶をしなかったら?」
「もう少し長生きできたじゃろうな。ま、こいつがどう生きようがこいつの決めることじゃ」
「拙者には真似できぬ生き方だ」
「ん、もう終ったわい。起せ」
シャドーはコードを外してやり、ジェミニを揺する。
「う、…あ…また、寝ていたか。終った?」
「あぁ、全部移した。ウェポンアーカイブがジェミニ殿の代わりに戦ってくれるだろう。
他の機体の戦闘データも詰め込む予定だそうだから丸々ジェミニ殿というわけではないが」
「別にいい…あぁ、そうだ…博士」
ジェミニは目をワイリーへ向ける。
「なんじゃ?」
「サードのデザインは博士が設計したと聞いた。俺を美しく設計してくれたことに対して礼を言っていなかったな。」
「今更礼なんぞいらんわ。」
「ふ、ふふ…本当、今更……でも、俺……DWNを選んだこと、苦しみはあったが後悔はしていない…」
フっ…とジェミニのカメラアイの光が消えていく。
「ジェミニマン…」
「御免」
「!?」
ガギィッ…!!
シャドーブレードがジェミニの胸元に突き刺さる。
それは確実に、コアを貫いていた。
「シャドーマン!?」
「すまぬ博士。ジェミニ殿と約束したのだ、寿命で死にたくないと…。だから留めを刺した」
「お前らは~~~~ッ!いっつもワシに黙って勝手なことをする!!」
「そういうチップを埋め込まれているでござるからなー」
「コアでも直せるかもしれんというのに…」
「…人間の魂を弄れるでござろうか?恐らく、それと一緒であろう。
さて、メタル殿の所へ行ってジェミニ殿の抜け殻をどうするか相談してくるでござるよ」
◆◆◆◆
平和な日々に戻って、ロックも家庭用としての日々を過ごしていた。
「ロック、お洗濯といれてくれない?」
「わかったよロールちゃん」
ロックは庭へ出る。
「ロックマンは相変わらずで何よりでござるなぁ」
「うわぁ!?シャドーマン!?」
影からシャドーが飛び出してきて驚きながら尻餅をつくロック。
「…そう、そうやって驚いてくれる者が凄く貴重になっているのでござる!皆慣れてしまって!!!」
シャドーは感動した様子でロックの手を握る。
「え、あの…ただ脅かしにきただけ?」
「ちがうでござるよ。暇だから様子を見に来てあげたでござる」
「えぇー…いきなりだなぁ…」
ロックは少し戸惑っている様子だった。
確かにロックにとって自分は謎が多いロボットだ、むしろ好印象なんて持っていないだろう。
というかどういう印象を持っているのか逆にこっちが謎である。
「拙者のことどう思う?」
直球のシャドー。
「えっ…えーと…うん、忍者?」
「そうでござろう!さすが拙者!忍者故に仕方が無い!!」
「あ、あと…少しノリがスネークマンと似てる、かな…?」
「……」
にこり、と微笑むシャドー。
そうだ、そうやって笑顔を作る仕草がとてもスネークマンに良く似ているのだ。
「ご、ごめん!気に触った?」
「嬉しい。初めて言われた。ところでロックマン、知らせたいことがある」
「なに?」
「ジェミニ殿が大分前に亡くなったのだ。そのことを伝え損ねていたのでな、今伝えよう。
もうジェミニ殿はこの世に居ないのだ」
「……」
大きな目をもっと大きくさせて、ロックは絶句していた。
しかし、その目を伏せて、ロックは呟く。
「そんな気は、少ししていたよ…。」
「もうジェミニ殿を待たなくて済むでござるな。少し身が軽くなったでござろう?」
「待たなくて済むとか、そういうのじゃないよ、シャドーマン。
僕は待っていたかったから待っただけ、ジェミニマンはジェミニマンの生き方があるんだ。
僕も、僕は真っ直ぐに進むしかないから…ジェミニマンを待つしか出来なかった」
「ふーん、俺にはさっぱりわからない」
「?」
シャドーはロックと同じ視線の高さに屈んでいたが、すくっと立ち上がる。
「たまに混乱するよ、スネーク殿から教えられたモノと俺がもともと持っているモノが噛みあわなくてな。
スネーク殿はジェミニ殿を愛で満たすために死んだのに、ジェミニ殿はまったく満たされようとしなかった。
なんで受け入れなかったのかなぁ?俺にはわからないなぁ。お前の方が良かったのかなぁ?」
「僕にも、よくわからないけど…ジェミニマンは僕のところに帰らずに結局DWNに戻ったんでしょう?
だったら、スネークマンを受け入れたってことじゃないかな…?
シャドーマンはどうして僕にそういうことを聞きに来たの?」
「お前、優しいから解るかなって思って。やっぱ解るんだな。」
目を細めるシャドー。
その目がとてもスネークに似ていて、まるでスネークが事後の確認に来ているかのような感覚に陥りそうになる。
つまり、シャドーは―――
「スネークマンのしてきたことは無駄じゃないと思うよ」
シャドーは―――スネークが好きだったのだろう。
でも彼は愛することを初めから放棄して、だから「愛が解らない解らない」といい続けているのだ。
「意味があるとか、ないとか、そういうことでもなくて…スネークマンの想い自体に価値はあるはずだから。
皆何かしらの形で受け止めるんだと思うよ。他人からの想いって。
僕は、ジェミニマンとは戦うことでしか答えることができなかったよ。
彼がそう望んでいたから、僕も全力で答えるしかないんだ。
壊れるか、壊されるかだなんて…そんな関係凄く嫌だったけれど、僕は足を止めるわけにはいかないから」
「……ふふ」
「?」
シャドーはクスクスと笑い出す。
「なぁんだ、ジェミニ殿のこと理解していたのか、俺はてっきり!あはははっ!!
うん、胸のつっかえが取れた気分だ」
シャドーは『シャドーの表情』に戻る。
「拙者は他人の想いがどーのこーのなんぞよくわからないが、
人間のエゴに使われ振り回されるのは悪い気分がしないでござる。
ふふ、そろそろ戻ろう。今度拙者の忍者屋敷に招待してやろうか、ふふふ」
言いながらシャドーは影の中へ消えていった。
「なに、考えてるのかよくわからないヒト、だなぁ……」
ロックは戸惑いながらぽつりと呟く。
(あ…ジェミニマンのお墓とか、作ってあるのかな…?)
ただ、処理されたのかもしれない。
ロボットに墓は可笑しな話かもしれない。
もう居ないのだと思うと、凄く心が寂しくなってくる。
スネークマンは博物館に置かれているから、ただそこにあると思うだけで近くに居るような気がして寂しさが誤魔化せる。
でも、ジェミニマンは会うことすら不可能だ。
思い出の中でしか彼はいない。
溢れてくる涙が頬を濡らすが、止めることが出来なかった―――
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