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 改良。
 それは至極当然な成り行きだろう。
 自分は一度ロックマンに負けているのだ。
 完璧にコピーされたはずの自分はオリジナルに敵わなかった。
 自分は確かに、完璧なもう一人のロックマンであったはずである。
 何故負けたのか…理由を挙げれば恐らく『強い意志』が関わってくるのかもしれない。
 ロックマンにとって戦う意味はある。負けられない理由もあった。
 自分はない。何もない。
 ソレに対して悲観する心もなければ、どうにかしようと思う心も無い。
 漠然とした何かが心の中で蠢いているのだが、それを理解できない。
 そんな状態のままスリープモードに移行した。
 そして今目覚めた。博士は自分に改良を加えるという。
 あぁ、当然だ。当然の成り行きだ。
 負けたのだから勝てるようにしなければならない。
 僕はオリジナルと同様、素直で聞き分けの良いロボットだ。
   *****
 改良というのはその通り機体の改良とホログラム機能をつけるというものだった。
 ホログラム機能をつけるに当たってジェミニのデータを流用するらしい。
 ジェミニの戦闘時のホログラムデータを流用して改良する。効率的だ。
「…」
 当のジェミニ本人は虚ろな目で何も喋ることなくデータを送る。
 彼はわざとこちらを見ようとしていないのだと、理解できた。
 だからこちらも黙ってデータを受け入れるだけだ。
 彼が自分に対してどういう感情を抱いているのか…なんて知りたいとも思わなかった。
 きっと彼は自分ではなく『ロックマン』を見ているのだろうから。
 何故だろう
 そう思うと酷く心の中が空っぽになる
「ねぇシャドー、ジェミニってどういう人なの?」
 シャドーの部屋、コピーはお茶を啜りながらシャドーに呟いた。
「は?」
 シャドーは顔を顰めて「突然どうした」と言いたげな顔をする。
 コピーの前でのシャドーは態度や喋りがスネークに近くなる。素になるらしいのだ。
「ジェミニ殿が何か?」
「あの人さ、僕に目を向けてくれないんだよね。君以外のナンバーズ全員そうだけどね。
 特にジェミニは意識して僕を避けてるよ?」
「あぁ…。ジェミニ殿は大変ロックマンのことを好いていたようだな。
 思い出してしまうんだろうな。俺にはよくわからんが」
「僕にもわからないよ。やだなー、君と僕変なところで似てるから」
「言ってるがいいでござる」
「エセニンジャ」
「エセロックマン」
「やめた。シャドーに話すのが間違ってたよ。」
「違いない」
 コピーはごろりと横になる。
「僕はオリジナルのコピーだから、ジェミニに対してのこの気持ちはオリジナルの気持ちなのかな?」
「まさか」
 シャドーは否定するように呟きながら首を横に振る。
「お前はジェミニ殿のデータと交わったせいで心が出来たのではないか?」
「ふぅん?よくわからないけど、そうだったら辛いね。僕は心が出来てもやっぱりコピーなんだもの」
「だろうな」
「君は冷たい男だよねぇ。」
「お前に興味がないだけだ。」
「つまんない」
   *******
 僕はオリジナルと同様、素直で聞き分けの良いロボットだ。
 でも最近、そう…ジェミニを見ているとオリジナルに出来ないことを僕に対して出来るのじゃないかと思い始めている。
 コピーだからこそ、オリジナルにできないことを出来る。
 さぁ壊したいのでしょう?
     愛したいのでしょう?
              なんだってできるよ、何でも好きなことをしていいよ。
 ジェミニが嫌がっても僕はジェミニを求めるよ、だってジェミニは良心が邪魔をしているだけだものね?
 あぁ、これは、そうだ僕はジェミニが好き。
 ジェミニに何をされても嬉しい。きっと僕はジェミニを愛しているからだ。
 でもこの感情は何?
 そうだ、これはオリジナルに対しての優越感―――
        
  
 
 
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