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          キングが非戦闘モードという名の擬人化になっているので注意。
          時間軸は「チェス」より前となります
          
          
           不自然なところはないだろうか、とキングは鏡を見直す。
          
           そこに映る姿は黄金色の甲冑姿…ではなく、金髪の青年の姿だ。
          
           服装は変ではないだろうか、人間の感覚はまだデータ不足で不安が残る。
          
           あとは表情、自然に笑えるだろうか。
          
           人間に紛れ込むために素材を特殊なものにした、身体が柔らかい素材になっているのでなんとも動くと奇妙な感覚になる。
          
           このような姿になっているのも目的があるからだ。
          
          
          
           一度、ライト博士の講義を視聴してみたい
          
          
          
           思い立ったら即行動してしまう。
          
           それはいいことなのか、悪いことなのか。
          
           とある大学での学会にライト博士も講義に来ていた。
          
           キングは生徒にまぎれて眺めていたが、嗚呼研究内容を聞けば聞くほど個人的に話がしたくなる。
          
           そして学会終了後、思わずライト博士に声をかけて引き止めてしまった。
          
          
          
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           第一印象は熱心な青年。
          
           その次に、意欲的に技術を吸収しようとしている前向きな青年になった。
          
           もちろん質問ばかりではなく興味深い意見も言ってくる。
          
           ライト博士は楽しくなってきて青年と本格的な会話を始めた。
          
           楽しい、と感じたのはここまで高度な意見交換をする相手がいなかった(いるとしてもコサック博士ぐらいだろうか)せいもあるし、
          
          どことなく目の前の青年に若いころのワイリーの面影を見てしまったせいもあるかもしれない。
          
          「君、名は何というんだね?」
          
          「キング…」
          
           ハッとするキング。
          
           名前自体は人間の姓にもあるものだし珍しいものでもないだろう。
          
           だが果たしてこれから先自分は全人類に対して名乗り上げるのだから名乗ってよかったものだろうか、と少し戸惑った。
          
           偽名を名乗ればよかっただろうか。
          
           偽名、偽名、人間ごっこをしているのだから自然に偽名を―――
          
          「アルバート=キングです」
          
          (な、なんでその名前出しちゃったの私……)
          
           そういえば人間の名前で一番近しいのはソレしかなかった、無意識で呟いてしまった自分が憎い。
          
          「アルバートくん…うーん、なんだか妙な感じじゃな」
          
          「き、キングで結構!!」
          
          「気分を悪くしてしまったかね、すまない。親友の名前と一緒だったものじゃからつい…」
          
          「親友…」
          
          「今日、君と語り合ったように毎日こうやって語りあったものじゃよ…いつかまたそういった日々に戻ればいいんじゃがな」
          
          「信じているのですか」
          
          「信じておるよ、人はいつか解り合えるものじゃ」
          
          「あれは悪いやつです……」
          
          「だからといって諦めてしまったらそこで終わってしまうじゃろう?
          
           悪い所もあるが根はいいやつじゃよ。ん?よくワイリーのことだとわかったの」
          
          「あ、いえ…その…あぁ、もうお時間がないのでは?
          
           長く引き止めてしまって申し訳ない、忙しい身でしょうに」
          
          「いやいや楽しかったよ。また話がしたい。わしのプライベートアドレスを渡しておこう。いつでも連絡をいれてくれていいんじゃよ」
          
          「あ、ありがとうございます…」
          
           流れでアドレス交換までしてしまった。
          
           少し嬉しいと感じている自分がいる。
          
           嗚呼、きっと私は…
          
           生まれ方を、間違えたのだ
          
           そこから沸き立つのは憎しみの感情だった。
          
          
          
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           プライベートアドレスに一通のメールが入る。
          
           その文章を見て、ライト博士は急いで指定の場所へ向かった。
          
          「お早い。慌てなくてもいいのですよ、博士」
          
           そこにいるのはあの青年ではなく黄金色の甲冑姿のロボット。
          
           ロックマンとの戦闘による負傷の状態なのだろうが、マントで身体を隠している。
          
           キングは座り込んだまま顔を上げているが、その表情は覇気がない。
          
          「あの時の青年は君じゃったのか」
          
          「えぇ、まぁ…。お恥ずかしい。あの頃の私は貴方に興味があったのです。
          
           博士、この手紙をロックマンに渡してください。アナログですが、カタチに残ったほうが良いでしょうから」
          
           キングはライト博士に手紙を差し出す――
        
  
 
 
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