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 未開惑星の開拓開始から数ヶ月たった。

 惑星までは宇宙船を用いたが、到着後はそこにワイリー博士が開発した転送用ポットを設置し、

 地球にも設置しているので行き来は楽になった。

 大量の物資を送ることはできないのでそちらは宇宙船で運ぶのだが、小さなものならポットで十分だ。

「地球へ行ってみたいな。綺麗なんだろう?えーっと、海?あの青いの。」

 ジェミニは目を細めながら言う。

「データ上でしか知らないから、実物を見てみたいものだよ。」

「休暇貰って皆で一緒に行こうよ!僕が案内するからさ!」

 微笑むロック。

「何言ってるんデス。俺らに休暇とかねぇですよ」

 スネークがやってくる。

 彼は起動してまだ一週間も経っていない。

 そのせいか、どうも喋り方が定まらないようで、丁寧なんだかよくわからない奇妙な喋り方になっていた。

 追々直ってくるらしいのだが。

 もしかすると長い舌のせいもあるかもしれない。

「タダでさえ金かかってるんでスから。俺らは休まず働いて未知のエネルギーをね、見つけねぇといけないんでス。

 つまり、さっさと仕事終らせちゃえばロックと遊べるんっすよ!」

 ニコっと笑ってロックの頭をわしわし撫でるスネーク。

「こらスネーク。ロックの髪が乱れるだろう」

「いいじゃねーですか、柔らかくて気持ちいいなぁ?」

「そうかなぁ?普通だと思うけど…」

「つーわけでジェミニオニイサマ。こんなところで油売ってねぇで仕事してください」

「チッ…俺はただの休憩だ。お前は何でこっちに来たんだ」

「博士へ地形探査の報告を…。あぁダメだ喋りすぎると舌がまわんねぇ。」

 口を押さえながらいうスネーク。

「もっとお喋りしてぇから、博士に調整してもらおう…」

「その舌が原因だろう、どうにかならないのか?その…個人的にあまりいい気はしないし」

「そうか?まぁーいいや。」

 スネークはスタスタと立ち去っていく。

「さて、俺も行くか。相手をしてくれてありがとうロック」

 ソファから立ち上がるジェミニ。

「ううん、かまわないよ。お喋り楽しかったし」

「紅茶、美味しかったよ」

「ほんと!?ありがとー!」

(可愛い……)

 ジェミニは抱きしめたくなる衝動を抑えて、笑みを返して仕事場に戻った。



   ◆◆◆◆



 スネークが遺跡調査をしてから様子がおかしい。

 独り言が多くなった、というのか…。

「あ、スネーク」

 ジェミニはスネークを見つける。

 木陰でスネークはしゃがみこみ、俯いていた。

 口元が動いている。

 何か喋っているようだが、小さすぎて拾えない。

「おい、スネーク?」

「!」

 目を見開いて顔を上げるスネーク。

 ジェミニはこの顔が嫌いだった。

 攻撃的な目というのか―――蛇の目を感じて、嫌いだった。

「なんだ、ジェミニ?」

「何をしてるんだこんなところで、一人で」

「別に。一人が好きなんだよ」

「何か隠していないか?」

「別に、何も。あ、そうだジェミニ」

 スネークはゆらりと立ち上がってジェミニに歩み寄る。

「酒飲まねー?」

「……はぁ?酒?」

 こんな開拓地にそんな嗜好品が在るはずが無い。

「ほら、若干私物品ももらえるようになっただろ?ちょっと支給データ弄くってお酒を混ぜて―――」

「このバカ!」

 ジェミニは思いっきりスネークの頭を殴っていた。







 深夜。休息室にスネークとジェミニはいた。

「殴るこたぁねーじゃねーですかぁオニイサマ」

 殴られた蛇メットを擦りながら言うスネーク。

 殴られたのは昼間のことだというのにシツコイ男である。

 その手には酒瓶が一本。ワインだった。

「一本だけしかくれなかったんだよなぁ。まぁ飲むのワイリー博士ぐらいしかいないし」

「お前、飲んだことあるのか?」

「ないけど?俺探究心が強いから飲んでみたくてさ。お前も興味あるだろ?」

「ない」

「ふぅーん?」

 取り出したグラスに中身を注ぐ。

「ワイングラスがないから雰囲気ねぇーなぁ」

「お前は形から入るタイプか」

「そうだよ?知らなかった?ほらよ」

「む…」

 グラスを受け取るジェミニ。

 赤い色が綺麗だと感じた。

「かんぱーい」

「はぁ、仕方ないな」

 ジェミニはため息を吐いてスネークに付き合うことにした。

 少しだけ、興味が沸いたせいもあるのだが。

 スネークのせいにしてしまえばいいだろうと思った。

 一口飲む。

「…美味しいものでもないな」

「あははっ!なれりゃいいんだって!」

 スネークはクスクス笑う。

 どうやらスネークは平気らしい。

「…なんで俺を誘ったんだ?一人で飲めばよかっただろう」

「ん?あー、なんでかな、別になんも考えてなかった」

「そうか。」

「あんた、俺のこと嫌いだろ?」

「え……」

「いいんだよ隠さなくても。」

「……蛇が、苦手なだけだ」

「ふぅん?」

 スネークは一杯目を飲み干し、二杯目を注ぎ始める。

「蛇…お前は、醜いなスネーク」

「ジェミニ?」

 ジェミニの目が揺らぐ。

「俺は、美しい……」

「ジェミニ!」

「―――あ。」

 スネークに肩を揺すられてハッとするジェミニ。

「…なんでもない。忘れてくれ」

 ジェミニは握ったままのグラスに口をつけ、中のワインを飲み込む。

「いいねぇ、もっと飲みなよオニイサマ」

 空になったグラスに注ぎに来るスネーク。

「あまり飲ますな」

「顔赤いよ~?オニイサマ」

「あ、赤くないっ」

 手で顔を覆うジェミニ。

「ふふふ、あ」

 スネークは蛇メットを片手で押さえる。

「ごめん、おじーちゃんから呼び出しだわ」

「こんな時間に?あぁ、ワイリー博士か」

「あぁ。行って来る。例の話かなぁー…。残り飲んどいてジェミニ」

「え、あ、おい!?」

 ひらひらと手を振りながら去っていくスネーク。

「見つかったら俺が怒られるだろーが…」

 しかしこの時間はもう皆寝てしまっている。

 まったく規則正しい生活だ。

「…何の話だろう」

 スネークがコソコソしているせいか、余計に気になってしまう。

 あいつは絶対に隠し事をしているのだ。

 馴れ馴れしかったのに、今は距離を保っている。

 それよりも、自分自身が不安だ。

 不安で仕方が無い。何か別物に代わってしまうような気がして。


 否。


 ロックの前では優しさを保っていたいという考えが強まっている。

 じゃないと、ロックに何かしてしまいそうで―――



   ****



 酔いが回ってきた頃、なんとロックがやってきた。

 パジャマ姿で。

「明かりがついてると思ったらジェミニマンだったの?珍しい…」

「……」

 ロックは首をかしげる。

 ジェミニの反応がおかしい。

 ぼんやりした表情だ。

 いつも浮かべている笑顔がそこにはない。

「ジェミニマン?どうしたの?大丈夫?何飲んで…え!?お酒!?」

「ん、スネークに貰った…ふふ、ロックぅー」

 コトリ、とジェミニはテーブルにグラスを置いて腕を広げる。

 これは、つまり、来いということなのだろうか。

 ロックはそう判断し、おそるおそる近づく。

「ふふ、ふふふふ捕まえたぁー」

 完全にジェミニは出来上がっており、ロックの手を取ると引き寄せて膝の上に座らせ抱きしめる。

「ダメだよジェミニマン、お酒なんか飲んじゃ…オーバーヒートしちゃうよ?」

「んー、ロックは優しいなぁ…ふふ…好き」

 ジェミニはロックの目を見つめながら呟く。

「綺麗な君が、好き…俺は君が大好きで堪らないんだ…」

「あ、ありがと…」

「……」

 ジェミニの目が変わる。

 優しい目ではない、目の奥に何か強い意志を感じる目―――

「あ―――」

 ロックはジェミニに押し倒される。

 声は出せなかった、ジェミニの唇が口を覆って、熱い舌が入り込んでくる。

「んっん、んぅー!!」

 体格差がありすぎて押しのけることが出来ない。

(うわっ―――!?)

 ジェミニの手が、ズボンの中にもぐりこんでくる。

 キスを止めるジェミニ。

 その顔は、その笑みは黒い感情に染まった笑みだった。

「や、じぇみ、に…やめッ……」

「ッ…」

 ジェミニは苦しそうに眉間を顰め、そのままフっと力が抜けてロックに項垂れるように体重をかける。

「ジェミニマン!?」

「………」

「え、あれ?スリープモード?」

 駆動音が小さくなっているので、寝てしまったのだろう。

 コアがドキドキしている。

(今の、キス…だよね……)

 かぁぁぁっと頬が赤くなる。

 酔った勢いで、してしまったのだろうか?仕事で疲れているとか、そういう理由で。

 ロックはジェミニの手を思い出し、慌ててズボンから引き抜く。

 これもきっと、酔っているからたまたまズボンの中へはいってしまったのだ。

 と、ロックは自分なりに解釈をした。

「どうしよう…動けない、僕じゃ部屋に運べないし…」

「なぁにしてんだこいつ…」

 スネークが戻っていた。

「あ!助けてスネークマン!うごけないんだ!」

「んー?襲い掛かって寝ちゃった系?バッカじゃねーのはずかしー」

 スネークはずりずりとジェミニを引きずってソファから落とす。

「はぁ、重かった…潰れちゃうかと思った」

「何かされた?」

「え!?…ううん、何も。すぐ、寝ちゃったから」

「あ、そう。食べられなくてよかったね」

「ジェミニマンってロボットも食べれるの!?破砕用だけど金属もいけちゃうの!?」

「ピュアだね、君」

「?」

「ジェミニは俺が運んでおくから、ロックは部屋にお帰りよ。片付けもしとくからさ。

 酒飲ませたの俺だし」

「う、うん。ありがとう…」

 ロックはパタパタと駆け足で帰っていく。

 スネークは呆れた顔でジェミニを見下ろす。

「こいつ、強制スリープモードに入ってやがる。襲いたくなかったか。

 襲えばいいんだよ、襲えば。もったいねーの。まぁ俺も人のこといえねぇんだけど」

 ジェミニの腕を掴んで持ち上げようとするが、なかなかできない。

「手伝おうか?」

 スネークの影からシャドーがでてくる。

「こら、勝手にでるんじゃねぇよ。誰かに見られたらどーすんだ」

「安心しろ、皆寝ているじゃないか。俺とお前だけだ、起きているのは。」

「ちがいねーけど。んじゃあそっちの腕持って。ジェミニを部屋に運んだらここ片付けるからお前影に戻れよ」

「ああ、解ってる」

「あーめんどくせぇー。みーんなめんどくせぇー。」

 歩き出しながらスネークは言う。

「俺は楽しいぞ。ふふふ」

「あぁそうかい」
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