ナパームはとある研究施設に来ていた。

 ここにセブンスナンバーもちの研究者がいるのである。

 その研究者―――バーストに呼び出されてここに来たのだ。

「あ、ナパームさんじゃないですかー。」

「久しぶりだなサーチ」

「やー、いつぞやの作戦以来ですねー」

 サーチは笑顔を浮べながらいう。

 今の人格は伍長らしい。

 二重人格…とはまた違うらしいのだがナパームは詳細を知らない。

 人間二人を合わせて一つの身体で蘇生させるという狂ったような実験の被験者である、という話を聞いたことがある。

「サーチもバーストに呼ばれたのか?」

「そうであります。恐らく武器の装備絡みだとは思うんですがバーストって詳しいこと省略するでしょう?

 まーいいんですけどねぇー」

 巻かれた赤いチョーカーの中へ指を差込み、ガリガリと首を引っ掻きながら呟く。

「その癖まだ治らないのか」

「痒くて」

 手を離す。

 彼のチョーカーの下には縫い痕がある。

 それが痒くて仕方がないらしいのだが、精神的なものだという。

 二人は施設内を歩く。

「早く帰りたいですねー」

「帰ってもお前は曹長の演習に付き合わされるんじゃないか?」

「ううっそうでありました…」

 ガックリするサーチにナパームは思わず笑う。

「気になっていたんだが…その体、不便じゃないか?曹長と一緒なんだろう?」

「不便…いやぁ、まぁ…曹長が無茶苦茶言ってくると不便ではありますが…」

 サーチはぼんやりした表情のまま遠くを見る。

「この体のベースは自分でありますので、曹長も遠慮しているところがあります…。

 自分達は望んでこのような身体になったわけではないですが、だからといって片方が相手の足を引っ張るのは…。

 多少不憫でも自分たちは共存していくべきであります。自分は曹長についていく覚悟です」

「ほう…上官思いだな…ハハ…」

「ナパームさん何を急に落ち込んでるんですか」

「俺上官の命令一切聞かなかったなって」

「よく除隊処分にならなかったですね、わりとマジで。」

「ちょっと特殊な部隊だったからな―――」

 二人はバーストの部屋に到着する。

 中に入ると、少々賑やかであった。

「バースト!早く新兵器を寄越しやがれぇー!それか何か!?俺で試し撃ちするか!」

「煩いぞ歩く18禁!!!お前はよんでないのになんで来ているんだ!」

「あー、またグレネード来たのか…」

 バーストに詰め寄っているグレネードをみて、サーチは頭を抱えた。

 サーチと同じエイスナンバーを当てられているグレネードの性癖はサーチでなくとも知れ渡っている。

「ちゃんと管理をしてくれないと困る!!」

 バーストはサーチを睨んで吠える。

「そういわれても…」

 ナパームがツカツカと歩み寄ったと思えばそのままグレネードを蹴り飛ばし、床に倒れたグレネードを踏みしめる。

「さ、今のうちに用件を済ませてくれ」

「さすがドS。手馴れている」

「ドSじゃないもん!!!」



   ***



 この実験は医学治療のレベルの高さを見せるためだけのものだった。

 死体を特殊な薬品に浸し接合する。

 足りない部分は別の死体から持ってくればいい、死体なら山とある。この戦場には死体などありあまっていた。

 拒絶反応も起こらない、この技術の売り込みにサーチが利用された、それだけだ。

 脳の接合も、どちらの人格になろうが問題はなかった。生き返ればいい、機能すればいい。

 しかし共存してしまった。

 当初、『彼』は混乱していた、錯乱に近い状態に陥ることもあったが…最終的にどちらかが片方を潰すのではなく、

 お互い共存しあうようになってしまった。



  ガリッ



 無意識に首を掻く。

 掻きすぎて皮膚を破ってしまったこともある。

 この体の殆どは伍長のものだ。

 しかし内臓の類は曹長のものだ。

 自分達が完全たる他人であったならば、つぶしあっていただろう。

 しかし自分達は上官と部下だった。

 そしてこの身体になって色々考えた、二人で考え行き着いた先は自分たちには戦場しか生きる場所がないと、半ば諦めにもにた答え。

 そう、どんな身体になろうとも生きたいのだ。

 モルモットのような生活なんて真っ平だった。

 自分達は兵士なのだから。

(曹長殿、首を引っ掻くのやめてほしいであります)

「黙れ伍長。考え事をしていたのに邪魔をするんじゃない。いつもお前は横からごちゃごちゃと…」

(解ったであります!黙るので曹長も黙ってください!)

 他人から見ればこの会話も完全な独り言である。

「不便な身体になってしまったな。」







END