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 あれはいつのことだっただろう。
        
         数百年前?数千年前?それとも?
        
         長い旅だった、そう…旅。終わりのない旅。
        
         疲れは知らなかった、だから絶望もない。終わりがないことに疑問も浮かばない。
        
         しかし身体はそうではなかった。
        
        『…』
        
         指先に力が入らない、カランと音を立てて己の身体の一部であるリングまでも地に落ちた。
        
        『サターン?どうしました?』
        
         初めに異変に気づいてくれたのはネプチューンだったか。
        
         どういう表情をしていたのか、よく思い出せない。
        
         それほど自分のメモリーは曖昧になっている。
        
         我々は限界に来ていた、それを知ったのは次に目覚めたときだったのだが。
   ****
「…うぇ、隊長?」
        
         肉体調整用のカプセルから出るとアースが待ち構えるようにして立っていた。
        
         サターンは驚いた表情を浮べたがすぐに眉を顰めた。
        
        「何か御用で?」
        
        「別に用件などない」
        
         無表情で呟いて、立ち尽くしているサターンに歩み寄り彼を抱きしめる。
        
         何故抱くのか聞いたことがある。
        
         調整後なら雑菌がないからだと答えた。
        
         そしてキスをされたが今回もキスをされるのかどうか、それはわからない。
        
         アースの気まぐれ…といいたいが酷く落ち込んでいるときだけのようである。
        
        「私はもう必要のない存在だろう」
        
        「そんなことありません隊長」
        
        「……」
        
        「俺はアンタが必要です」
        
        「何故だ」
        
        「…強いからですよ。俺はアンタがいないとだめなんだ」
        
         あぁ好きだと言えればなんと楽なことか。
        
        「隊長?」
        
         アースはサターンを引き離すと、そのままその場に座り込んでしまう。
        
        「私は強いのか、疑問に思うようになってしまった。
        
         こんな身体になってしまって、サンゴッドさまの半身も失ってしまった…。
        
         こんな私を何故お前は必要とする!!!」
        
         ガンッ!と床に拳を打ち付ける。
        
        「サンゴッドさまはお優しい!私をまったく責めもしない!
        
         全てに身を委ねている!なぜだ、我々は…我々は一体…私は…一体、何だ」
        
        「隊長」
        
         サターンはアースの腕を掴んで引上げる。
        
        「ここじゃ誰か来るし、俺の部屋に行きましょうや。そんな姿俺以外に見せていいんです?」
        
         言いながらリングを手にしてで自分とアースを潜らせる。
        
         すぐに自分の部屋だ。
        
         アースをベッドに座らせてから自分の身なりを整えてしまう。
        
         さっきからアースは項垂れたままだ。
        
         こうなってしまったのはサンゴッドの半身―――機械パーツを失ってしまってからだ。
        
         機械パーツ…巨大な兵器であり、コアであるサンゴッドが組み込まれその機械に血を巡らせることで起動する。
        
         我々と地球人たちが奪い合いをした末に、破壊されてしまった。
        
         サンゴッドは元々の気質からか、まったく気にもせず逆にこの星で暮らそうとしている。
        
         自分達も元々深くは考えない性質だったせいか、サンゴッドさまがそう望むのならそれでいいと考える。
        
         しかしアースは違った。
        
         アースはもともとサンゴッドが暴走したときのためのストッパーの役目でありながらも、サンゴッドの予備であった。
        
         そのため我々と気質が違う。
        
         悩んでしまうのだ、自分のあり方と違う行動に対して。
        
        「隊長、地球人になるのは嫌で?」
        
        「当然だ。我々の使命は破壊だろう」
        
        「……」
        
         アースの横に座るサターン。
        
        「サンゴッド様の望むがままに従っていくのは…いけませんか?」
        
        「…サンゴッドさまがどんどん遠くに行ってしまうような感覚なんだ。」
        
         顔を上げるアース。
        
         涙が零れ始めていた。
        
        「何故か異常行動に陥る。目が洗浄を始める。」
        
        「寂しいから泣いてるんじゃ?」
        
        「私が?」
        
         顔を歪ませる。
        
         口元を引きつらせて。
        
        「理解できないな!この私が!?」
        
        「俺たちはもう半分地球人なんですよ隊長。俺たちは一度死んだんです!
        
         アンタも解ってるはずだ、俺たちの長い旅はもう終わってしまった。
        
         ここで、だからサンゴッドさまはここで違う生き方を始めたんでしょう?もう俺たちは眠る前の俺たちじゃないから」
        
        「いやだ、わたしはそんなつもりであの男を利用したんじゃない!
        
         私は地球人になりたかったんじゃない!ただサンゴッドさまを復活させたかっただけなんだ!!!」
        
         頭を抱えて髪を振り乱す。
        
        「隊長は隊長です。我々の」
        
        「我々の、ではないだろう…?」
        
         アースはサターンの肩を掴むとそのまま押し倒す。
        
        「お前の、だろう?…解ってる。あぁ、解っていた」
        
        「素直じゃないですね、お互いに」
        
         笑顔を浮べるサターン。
        
        「貴様は本当に昔から生意気だな…後悔しても遅いからな」
        
        「アンタに目を抉られた時から後悔してますよ」
        
        「懐かしいな、いつの話だ?」
        
        「さぁ…忘れちまいましたね。今じゃ綺麗に治ってしまったし」
        
        「もう一度抉ってもいいぞ」
        
        「勘弁してくださいよ」
        
        
        
           ****
「ッあ、…ぐっ…」
        
        「声を上げろサターン。苦痛に歪む顔を見るのは興奮するからな」
        
        「苦痛、です、けどっ…そういう、声じゃっ…ひぅ…」
        
         アースに犯されながらサターンは声を漏らす。
        
        「ほう?ならどういう声か聞かせるがいい」
        
        「アンタ、そういうっ解ってないふりすんのヤメ…あっあ、あぁぁ!!!」
        
         アースに両手を押さえられ、がつがつと感じる部分を強く刺激されて身悶える。
        
        「私が隊長になれているのは何故か解るか?」
        
        「うっ…?つ、よいから…?」
        
        「お前たちの心(脳)に干渉できるからだ。」
        
        「それってつまり」
        
        「お前の恋煩いも知っていたさ。私の手の内は明かしたぞ、とことん後悔しろ」
        
        「~~~~ッ!!!」
        
         サターンは耳まで真っ赤にさせて口をぱくぱくさせる。
        
         嗚呼、そしてサンゴッドの心の動きも感じていたのだろう。
        
         どんどんアースから離れていくサンゴッドの心。
        
         それをダイレクトに感じていたのだ、あんなに取り乱すのは当然のこと。
        
        「ッあ…んっ…あぁ……」
        
        「艶のある声になってきたな?ふふ…諦めたか」
        
         サターンは涙を流しながらアースを睨む。そういう抵抗しかできない。
        
        「うっ…思ってる、こと…ことこまかく…解るんです…?うぁっ…」
        
        「うーん…強い思いは感じ取れるんだが、思考を読み取るのではないからな。
        
         それがどうした?」
        
        「…好き、です」
        
        「?」
        
         サターンはアースの手を握り返すように強く、力を込める。
        
        「読み取れないなら…はっきり、口で言った方が…いいでしょう?俺は、アンタが好きだ…って…」
        
        「私の返答は必要か?」
        
         サターンは首を横に振る。
        
        「拒絶されるの、慣れてます」
        
        「……」
        
         アースはサターンの頭を掴む。
        
        「!?」
        
        「貴様の脳に強く干渉すれば発狂するほど感じる身体になるのか気になったな。実験をしてみようか」
        
        「ちょ!!?」
        
        「先ほどから余裕そうだしな」
        
        「それは自分がヘタだとかどういう風に考えたりできませんかね!?」
        
        「ムカツク」
        
        「ぎゃああああああ!?まってなんか熱い!頭の中熱い!!!」
        
        
        
           ****
「お前、マゾだろう」
        
         アースが真顔で言う。
        
        「アンタがドエスなだけでね!?俺は到ってノーマルですが!!?
        
         どっちかっつーとアンタの奇行に耐えてるだけなんですがね!?」
        
        「奇行…?」
        
        「本当、サンゴッドさまとそっくりですよ。そのわけのわからない行動原理が」
        
        「……」
        
        「嬉しそうに微笑まないでください、貶してるんですから」
        
        「いや、似てるっていわれると嬉しい」
        
        「子供かアンタは」
        
         生物に例えるならば、本当に親子のような関係だといっていいのかもしれないが。
        
        「まぁ、今更ですけど。…またむしゃくしゃしたら俺に当たってくださいよ。いつでも受けますから」
        
        「…あぁ」
        
         一瞬アースが悲しそうな顔をしたが、サターンは顔を伏せていたので気づかなかった。
        
        「そうだ…脳を弄られた感想を聞いていなかったな、どうだった?」
        
        「あれ以上やられると壊れるからやめろ……」
        
        「ふむ…要調整、か…」
        
         手を見つめながらアースが呟く。
        
         不安しかない。
        
         どういう干渉方法なのかは教えてくれないが、アースの状態を思い出す限りお互い繋がってしまうようである。
        
         つまりアースはアレでも平気だったというわけで…
        
        (恐い…やっぱり隊長恐い…)
        
         ヤバいのに惚れてしまったかもしれん、とサターンは少し後悔するのだった。
        
        
        
        END
        
  
 
 
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