ウェーブはネプチューンの部屋にいた。

 ネプチューンの部屋は海の中のような、壁が水槽なのでまるで水族館のような作りだ。

 地球に落ちてから海洋生物に興味があるらしい。

 ウェーブも海は好きなのでこの部屋は気に入っていた。

 まだネプチューンは慣れないが。

 ウェーブは泳ぐ魚を眺めてボンヤリしていた。

「ウェーブ、こちらでお茶でもいかがです?」

「あ、あぁ…」

「何もしませんよ。」

 笑顔を向けてネプチューンはソファに腰掛ける。

 テーブルには二人分の紅茶が並んでいた。

「…どうしてネプチューンは、俺が好きなんだ?」

 ウェーブは水槽に手を添えて呟く。

「理由がいるのですか?」

「恐いんだ」

 ガラスに反射して映るネプチューンを見ながらウェーブは言う。

「理由もなく人を好きになることってあるのか?」

「ありますよ、今がそうです」

「…」

 ウェーブは振り返る。

 その目は酷く暗い。

「俺にはナパームがいるよ」

「構いませんよ」

「俺はお前のこと好きになれそうにない」

「残念ですね…それでも」

「それが、恐い…」

「何故です」

「見返りなんてない、自分のものにもならない、傷つくだけじゃないか…」

「誤解されていますね…」

 ネプチューンは目を細める。

「それでも私は貴方が愛しいのですよ…誰のものであっても。

 本当なら奪えという話になるのですがね、私はウェーブを悲しませたくないですから」

「……」

 ウェーブは歩み寄ってソファに座る。

「ナパームは恐くないんだ、優しいからって解ってる、残酷な趣味も知ってる、それでも恐くない。

 でもお前は恐い、よく解らないからだ。俺はお前のこと何も知らない」

「私のことを見てくれますか?」

「…できるかどうか、わからない」

 ウェーブは俯いたまま顔を上げない。

「ウェーブ、私はね、今とても幸福なんです」

「え…」

「貴方とこうやってお話ができていることが幸福なんです。

 貴方が氷付けになっている間ずっとお話をしたいと思っていました。

 今思えば一目ぼれだったのでしょうね」

「銛が突き刺さってる死体に一目惚れ?」

「どんな姿であれ、貴方は私の心を惹き付ける何かがあったということなんですよ」

「…」

 ウェーブは立ち上がり、そこへ行くのかと思えばネプチューンの横に座りなおした。

「塩酸、出さないでくれ」

「出しませんよ」

 ウェーブから手を握られて胸が高鳴る。

「ナパームと全然違う…」

「そうですね」

「お前に何度か抱かれてるけど、嫌だけど嫌悪感はなかったから、多分…嫌いではないと思う。

 でも、俺はナパーム一人だけを愛することしかできないから…」

「それで構いませんよ、貴方はナパームさんを見ていればいいんです。

 私に気を遣わなくても…私は貴方のそういうところ、好きですよ」

 手の甲にキスをする。

「あぁ、そうか…」

 ウェーブは顔を上げて水槽を見る。

「お前にとって俺は魚か」

「…ああ」

 ネプチューンはウェーブを見ながら納得する。

「そうかもしれませんね」








END