menu
  
「おはようございます」
        
         ネプチューンは氷柱に向かって声をかける。
        
         返事はこない。
        
         当然だ、氷柱の中にいる生物は死んでいる。
        
         死んでいるというと語弊があるかもしれない、仮死状態と表現すればいいだろうか。
        
         ただの氷に包まれていれば完全に死んでいただろう。
        
         どうもこの氷が特殊なお陰でギリギリ生きているらしい。
        
         しかし溶かすこともできないのでどうすることも出来ない。
        
         ネプチューンは自分でもどうしてコレを拾ってこっそり保管しているのが不思議でならない。
        
         なにか引き付けるものがあるのだろうと、思うようになった。
        
         確実に自分は、いや自分たちは変わってきている。
        
         この変化を恐ろしいと思っているのは潔癖症のアースだけだ。
        
        「痛々しい姿をどうにかしたいのですがね…そして貴方の名前も知りたいものです」
        
         ネプチューンは呟く。
        
         氷柱の中には銛が突き刺さったウェーブがいた。
        
        
   *****
        
        
 金属片を手で弄びながらネプチューンはウェーブを眺める。
        
         自分は本当に気に入ってしまったらしい。
        
         話がしたいとも思う。
        
         手にしていた金属片がチョコレートのように溶けていく、床も穴が開き始める。
        
        「あ…」
        
         腐食液を垂れ流しすぎたらしい。
        
         これはあとでビーナスに怒られるかもしれない。
        
        「わたしとしたことが…」
        
         少し反省。
        
        
        
        「ネプチューン」
        
        
        
        「!」
        
         振り返るとアースが腕を組んで立っていた。
        
         珍しい、他人の部屋なんて来ないくせに一体どうしたのか。
        
         カッカッカッと靴音を鳴らしながらアースはネプチューンの横を通り過ぎて氷柱へ歩み寄った。
        
        「ネプチューン…」
        
         鬼のような形相とはこのことだ。
        
        「今すぐ焼却しろ!不愉快だ!!!」
        
        「嫌です」
        
        「ならば私自ら処分してやる!」
        
        「止めてください」
        
        「私に歯向かうな!」
        
        「わたしからとらないでください、これはわたしの物です」
        
         腐食液とアースに向けて飛ばすが、アースはそれを避け、指先からレーザーを打ち出す。
        
         無論避けても屈折してくるのは百も承知、腐食液で威力を削りながら家具などでぶつけて相殺させる。
        
        「アース隊長、些細なことに手間を取られてていいんですか?
        
         とても些細なことです、隊長が目を瞑ってくれていればいいだけのことですよ。
        
         誰も気にしない、なぜなら最終的に皆、消してしまうのですから」
        
        「だからといって置いていいものか!」
        
        「隊長、わたしと喧嘩したって何もならないと思いませんか?
        
         私はただ鑑賞しているだけです、サンゴッド様が目覚めるまで時間がありますから。
        
         有意義な時間つぶしです。ねぇ隊長?」
        
        「………」
        
         アースはギリッと歯を噛み締めたが、そのまま翳していた手を下ろしぐしゃりと髪を掻く。
        
        「あぁ、嫌だ―――お前らなんか嫌いだ、嫌だ…こんな身体嫌だ…元に戻りたい、元に…
        
         あぁ、サンゴッド様…サンゴッド様…」
        
         ぶつぶつ呟きながら部屋を出て行く。
        
        「相当キてますね、潔癖症だからでしょうか?もともと沸点低い方ですけど。
        
         一号は色々不安定というのがお約束なんでしょう?この星だと」
        
         ウェーブに言いながらクスクス笑う。
        
        「この星で暮らしてもいいかなって思ってるんですよ、わたし。
        
         我々はもう限界だったんです。地球に堕ちる時の記憶もないぐらいですね。
        
         身体も、もう…別物ですし…貴方に近いですし…ね」
        
        
        
        END        
        
  
 
 
top