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手足を切りたかったしメタルに切らせたかった
ここからキングがアシッドさんにウザ絡みするようになるんやなって
 息が切れる。しかし足を止めるわけにはいかない。
 奥にある劇薬プールに身を投じる。
 沈むと息苦しさがなくなった。そのまま奥へ奥へと泳ぐ。

 どぼん

 重たい音がした。
 振り向けば追いかけてきている奴であった。奴は泳げないのかプールの底を歩いている。
 しかも自分と同じように平然としていた。

 な ん だ あ れ は

 空気がないので声は出ない。口を開けば肺に残っていた空気がゴボリと溢れ出ていくだけだった。
 とにかく奥へ、奥の『ギア』の元へ行けばこのような化け物完全に溶かせるはずだ。

『止まれ』

 電子音のような声が脳に響いた。
 奴だ、奴が直接脳内に話しかけている。

『殺しはしない。保護だ』

 嘘だ、ギアを奪う気なのだ。俺に力をくれるギアを―――



  ****



 メタルは逃げる相手を見て面倒くさく思った。
 仕留めればいいのに、あの人間は被害者であるから保護するのだと。
 被害がそれなりにでているというのにだ、ギアの核として精神汚染された人間の経過観察でもしたいのだろうか?と考える。
 メタルは歩きながら手を翳す。
 殺さなければいいのだ、殺さなければ。
 バシュっとメタルブレードを射出する。
 薬液の中ではあるが、本来目に見えぬほどのスピードなのだ、多少速度が落ちようが問題なかった。
「―――!!!」
 アシッドの片腕が切断される。
 アシッドは振り返りながら顔を恐怖に歪め、必死に足を動かしている。

『止まればいいものを何故抗う?人間』

 笑いながらメタルはいう。

『次はどれにしようかなぁ?足かな?足にしよう、足だ』

 バシュッ

 アシッドの片脚が漂う。



  ****



 エアーとバブルは通路を走っていた。この先にギアがあるはずなのだ。
「メタルちゃんとやってるかなぁ」
「大丈夫だろう、ちゃんとしっかり殺さないように言いつけて―――」

  どん

 鈍い音に二人は壁を見る。
 壁には同じ感覚で窓のような薬液プラントの薬液を管理するための大きな覗き窓があった。
 そこに人影がある。
 アシッドだった。アシッドが窓を必死に叩いてなにか叫んでいるのだが声は聞こえない。

  ガンッ!

 窓にヒビが入った。
 メタルブレードが突き刺さったのだ。
 アシッドは失った腕を抑えながら泣きそうな(薬液の中なので涙が出ているのか解らない)顔でこちらを見ているのだが
 二人にはどうすることもできない。
「あ」
 バブルが声を上げる。
 後ろからぬっと現れたメタルがアシッドの頭を掴んで窓に叩きつけていた。
「おい、メタル。殺す気か」
 端末に語りかけるエアー。
『死にはしないだろう。そら、最後の腕も斬ったぞ。接合の準備をさせておけ、上がる』



   ****



 アシッドは恐慌状態に陥って悲鳴をあげて震えていた。
 メタルが悪いのだが。
「大丈夫だよー。怖かったねぇ」
 キングが優しい声色で言いながら薬液を洗浄したあと保護液に満たされた装置にアシッドを寝かせる。
「ふぅん?出血そんなにしてないのか、ギアの加護ってやつは超常現象すぎやしないか?」
 輸血の用意をしつつキングがぼやく。
「やめろ、触るな!俺のギアに何かする気だろう!!!」
「あぁ、君のために処分させてもらうよ。あんなガラクタ地球にはいらないしね」
「やめろ!やめろぉぉぉ!!!!」
「君は洗脳されてるだけだから…ほら、眠ろうねー?」
 麻酔を打つ。
「や…め…」



   ****


 病室にて。
 手足が繋がったアシッドはベッドの上に座っていた。
 放心したような表情で。
「気分はどう?」
 キングが部屋に入り声をかける。
「…俺は、いったい…何を…」
「記憶にあるとおりのことだね。よほどの興奮状態の時以外は記憶に残ってるはずだ」
「……嘘」
 アシッドは顔を歪め手で覆う。
「勘違いしないで欲しいけど、これまで行ってきた行動は本来ありえない行動だ。
 君の本能だとか、そういうのじゃないからね?あれは長所を攻撃的に改造する洗脳兵器だから」
「しかし、引っ張られてやってしまった行動もあったはずだ…」
「気付かなければ罪にはならないよ。誰も気づかなければ犯罪にはならない」
「……」
「脳の検査をしばらく行う。異常がなければ日常生活に戻れるそうだよ。監視はつくけど。
 それと君は手足のリハビリもあるね」
「手、足…」
 震えるアシッド。
「あのブリキ人形がごめんねぇ。いや私は関係ないけど私の身内の作品だから代わりに謝っておくよ。
 繋いだのは私だから、違和感ないだろう?最新技術だよ」
 キングは歩み寄って、震え続けるアシッドを抱きしめた。
「ここから斬れたけど、継ぎ目もなくくっついてるだろう?自慢できるレベル」
 脚を指でなぞりながらキングはいう。
 そこから斬れたのだと思い出す。
「うぐっ…げぇ…」
「いっぱい吐きなよ。吐くものないけどね」

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