デューオは己が眠っていた《棺(コア)》のハッチを開いたまま、中に入らずその縁で腰をかけてぼんやりしていた。

 いつかまたここで眠らなければならない。



 いつかまた



 近いうちに



 今度は一人ではない。

 悪趣味だと思う。

 しかし『彼』のことを考えると、無に戻してから共に眠るよりその方がいいと思った。

 9人分ぐらいならばデータを保存する余裕はある。

 ただ彼らの精神が永遠に続くわけではない。

 自分は特別だ。

 この宇宙にたった一種のみ存在するエネルギー生命体。

 そして朽ちることを知らない。



「デューオさん、こっちにいたんですね」



 陽が射し込むような、明るい声。

 視線をその声の聞こえた方へ向けるとロールが歩み寄ってきている最中だった。

「ここで何を…あ、カリンカちゃんが言ってましたね

 コアの調整をしているとかなんとか…順調ですか?」

「あぁ」

「登ってもいいですか?」

「気をつけて」

「はい!」

 ロールは梯子をよじ登りデューオの横へ座る。

「これ、ルーラーズの人たちが言ってた生命維持装置ですよね?」

「…私のは少し違う。あいつらは生物の部分があるから生命維持の機能が必須だが、

 私のこれはただの保存装置だ。この身体の」

「あ、そっか…デューオさんは私と同じ、機械の身体でしたっけ」

「そう」

「不思議…未知の製法でしたっけ、すごいですよ人間と変わらないんですもの」

 微笑むロール。

「望むのなら、私と同じ身体に作り変えることもできるが」

 そこまで言って、自分は何を言っているのかと眉を顰める。

「いえ、このカラダのデータもまだまだ取らないといけないらしいですから。

 それが終わったらお願いしますね」

「…え、いいの?」

「はい、ちょっと憧れてます。柔らかい身体とか、柔らかい髪とか。

 これも結構本物に近いですけどやっぱりカリンカちゃんには敵いません」

「そう…」

「この装置、広さはどのくらい…あっ」

 覗きこんだロールがバランスを崩す。

 咄嗟にデューオは彼女を抱くがそのまま共にコアの中へ落ちた。

「け、結構広いんですね、中…。

 あの、すみません…」

 デューオを下敷きにしてしまい、ロールは申し訳なさそうな顔をする。

 しかしデューオはロールを抱いた腕を外そうとせず、逆に力を篭めてきた。

「あ、あの?デューオさん?」

「心が…欠けているのか、枯れたのか…。君は永遠に生きる自信はあるか?」

「え、と…すみません、解らないです。」

「私は、『物心』ついたときから戦っていた。己の半神のような存在と…。

 その合間に、知的生命体からは神と崇められていたときもある…。

 でもみんな死んでいく…私には関係のないことだと思っていた。

 そのころから私の心は欠けていたのだろうか。

 私の存在は、ただ機械の思い出のようさえ思えてくる。」

「デューオさんが起きたときは、怖い人だなぁって思ってました。

 容赦なくルーラーズの人たちをやっつけていくの、無機質で怖かったんですけど…。

 今は別に、怖くないというか…辛そう?」

「…辛そう?」

「はい、不安があるのかな?って…。

 未来に不安を持つのは誰だってあります。

 だからそんなに不安がらなくてもいいと思いますよ。

 永遠は無理かと思いますけど、しばらくは私がいますし、安心してください!」

「…君は本当、落ち着く」

「わわっ」

 ぎゅうっと抱きしめられてロールは顔を紅くする。

「お、男の人に抱きしめられるの慣れてないんですけど!」

「うん?女の身体に書き換えようか?いや、生殖機能はないから性別の概念は精神的なもので判断するべきか…」

「いやいやそういうことではなく!ただ恥ずかしいだけです!」

「…よくわからない概念だな。経験がなくて。すまない」

「いえ、いいんですけど…。はぁ、まぁ、デューオさんが落ち着くのならしばらくこうしててください」

 ロールはそう呟いてデューオに寄り添う。

「それではしばらく君を借りる」

 バタンとハッチが閉まり、中が真っ暗になる。

(めちゃくちゃ恥ずかしいよぉ…)

 真っ暗ではあるが、視界モードを切り替えればデューオの顔を認識できる。

 デューオも切り替えているらしく、ロールを見ていた。

「…君を見ていると考え方も変わりそうだな」

「そうですか?」

「たとえ私が機械の思い出であっても…今の私は私だと」

「そうですね。デューオさんはデューオさんです」

「ありがとう」

 デューオが微笑む。

 ドキっとするロール。

 微笑んだ顔をこうやって近くで見るのは初めてだ。

「少しお昼寝します?」

「睡眠は十分とっている」

「うう…じゃあ何かお話でもしましょう…何でもいいですから」

「あぁ―――」



   ****



 アースはハッチを開く。

 中で眠っている二人を見つけて舌打ちする。

「デューオは私の…うぅ」

 頭を振るアース。

「私のじゃ、ない。ひっこめ」

 内側から溢れてくる感情を押さえ込むと、アースは息を吐きながら視線を二人に戻した。

「地球の娘にもう手を出しているじゃないか…。しばらくここで住む気になったかな」

 座り、フフっと笑うアース。

「…《棺》か、ここで私も眠ることになるのか。

 お前と一緒だと飽きないだろう。まぁ、当分先の話だろうな…この星が壊れる頃になるか…」










END