高揚感に浸る。 特に薬物はキメていない、脳が勝手にそういうものを出しているのだろう。 ただただ楽しい、恐怖心さえも楽しさに変わってしまう。 銃弾が飛んできても撃ち返せば爆音と静寂、この感覚が心地よい。 ―――お前、笑顔が怖いな そういったのは隊長だった気がする。 楽しそうに笑いやがって、と隊長も笑いながら言っていた。 この部隊に所属しているものは皆どこかおかしかっただろう、おかしいものの寄せ集めであった。 遊撃部隊と呼称されていたが。 特に大きな部隊に所属することのない前線送りのテストケースだった。 「ナパーム伍長、私とこないか」 顔と名前は知っていた、有名であったから。 唯一の行方不明のパイロットが何故ここにいるのか解らなかった。 「もうすぐこの戦争も終わる。だから次の戦が欲しいだろう?考えておいてくれないか」 エアーはただそれだけを言って立ち去っていったのだ。 そういった経緯で、ナパームは組織に入った。 **** 何度も何度も刺したような気はする。 随分と酔ってしまっていたので、よくは覚えていないのだけれど。 この独房に入ってやっと精神が落ち着いた。 殺した相手に恨みはない、ゴロツキ同士の喧嘩でうっかり殺すことはここではよくある話なのだ。 まさか自分がその当事者になるとは思わなかったが。 ウェーブはぼんやりした表情のまま壁を見つめていた。 『――薬で…今は…おとなしく…』 『定期的な…を……』 覗き窓が開閉する音と外から微かな話し声がするがウェーブは気にもならなかった。 ここが一番落ち着く。 誰もいないからだ。 何も考えなくていい。 心の平穏が取り戻せたのも束の間だった。 数日後か数週間後か、それとも数ヶ月後か。 時間の感覚が完全に狂っていたウェーブには判断ができなかったが、ある日独房に囚人が追加されてしまったのだ。 **** その男は怯えたように震えながら狭いこの空間の隅で蹲っていた。 素人目にも目の前の男が正気ではないのがわかる。 (収容所じゃなく病院が最適じゃろうに) なんとも荒れた街だとワイリーは呆れる。 ここの相部屋にされたのは嫌がらせなのだろう、目の前の男の気分が変わっていつ襲い掛かってきてもおかしくはない。 別に恐ろしくはなかったし、ただの障害物の一つにしか見えなかった。 『迎え』が来るまでの間、囚人気分を味わっていようという軽い気持ちしかない。 結果的にその男とともに脱獄してしまったが。 **** 「もー、違うよ。さっさとそのスカスカの脳みそに記憶してくれない?」 グラビティーは泣いてるウェーブにいう。 「キミの名前簡単なんだからスペルぐらいすぐに覚えて。まだまだ覚えることあるんだよ?」 「だって文字とか知らないし!!!!」 「よく今まで生きてこれたよね…僕さぁ科学者であって学校の先生じゃないんだけど」 「いいじゃない、この中で一番頭いいの君だもん」 スターがグラビティに答える。 「文字ぐらいなら誰でも教えられるでしょ?」 「私たち任務があるからねぇ」 「ぐぬぬ」 グラビティーは唸りながらウェーブを見る。 「…書いた」 「正解正解、えらいえらい」 ウェーブの頭をぐしゃぐしゃ撫で回す。 「もー疲れちゃったからウェーブ、コーヒー淹れて」 「うぅ…」 グラビティーに言われるがまま、ウェーブは立ち上がってコーヒーを淹れに行く。 「ウェーブも落ち着いてきたみたいで良かったよね。」 「ここはいつから病院になったの?」 「ヤク抜きが終わったら鍛え上げるってエアーさんが言ってたよ。可哀想に見込まれちゃってるよ」 「わー可哀想。エアーさんが直接?」 「んーん、ナパームにさせるみたいだね」 ふふふと笑いながらスターはいう。 「ふーん…僕ナパームよくしらないなぁ」 「君いつも引きこもってるからだよ…」 END |