「腕はもういいのかリング」

「動かせるようにはなった」

「ほう、良かったじゃないか。」

 ファラオは微笑みながらベッドに歩み寄る。

 ベッドの上で寝ていたリングは身を起こしてサイドテーブルに無造作に置いていたタバコを手に取り火をつける。

「…すまないリング。お前なりに私たちのことを気にかけていたのだな。

 まったく伝わっていなかったぞ、お前はどうしてそうなんだ!」

「伝わったら俺の仕事にならないだろ!」

「その結果がいい歳して泣くという結果になったのだぞ。

 …お前はもう少し私たちを頼っていい」

 リングの片手を握りながらファラオは言う。

「お前は良い友だ。失いたくない」

「ファラオ…」

「時間だな、そろそろ行く。また会えなくなるが電波が届くところなら連絡し合おうじゃないか」

「お前ほとんど地下か洞窟の中だろ…」

「たまに地上にいるよ」

 クスクス笑いながらファラオはリングの部屋を後にする。

 くしゅり、と吸いかけのタバコを灰皿へ押し潰すとリングは再び横になる。

 結果的にファラオもダイブも、博士も皆死なずに済んだ。

 それは幸運が重なったからだとリングは思う。

 ファラオの助手であるスネークの兄が傭兵団を雇っていなかったら?

 ダイブがパイレーツと手を組まなかったら?

 スカルが人間を愛していなかったら?

 自分一人ではどうしようもなかった。

 かといって、もし自分が皆に打ち明けて強力を仰いだとしても、それは巻き込んでしまうということだ。

 それだけは出来なかった、決して。

 不運にも巻き込まれてしまう形になり、自分は後ろ手へ回ってしまったが。

 目を閉じるとファラオのことばかり考えてしまう。

 そういえば、会話をしても短時間で終わってしまっているな…と気づいた。



     ****



「教授!リングさんが来てるぜ」

 スネークに声をかけられファラオはキョトンとした顔をする。

「リングが?」

 地上に上がるとリングが立っていた。

「久しぶりだなリング。どうしたお前から来るなんて珍しいこともあるものだ」

「まったく連絡が取れないから来てやったんだ」

「ほう、ありがたいことだな。電話代が浮く。

 スネーク、あとは任せても大丈夫か?」

「いいっスよ、朝までごゆっくり」

「我々はそういう仲ではないぞ」

 ファラオは服についた砂を払いながらいう。

「ゆっくり飲もう。お前の休みは貴重だろう?」

「一応仕事中だ」

「ほう?」

 二人は近くの村の酒場へ行く。

 夕暮れ時であるからか、客はぽつぽつとしかいないがこれから混んでくるだろう。

 酒と料理を適当に頼み、乾杯をしてから本題にはいった。

「まだSRNがいるのか?」

「いや、それに属する兵器か、欠片かがどこかに埋まっている可能性がある。

 文献の一つにそれを示唆する記述があるんだ」

 リングは懐から端末を取り出して画像をファラオに見せる。

「これはどこで?」

「『テラの遺跡』の近くにある教会でな、古書の中から出てきた」

「テラということはアースか、アースに聞けばいいじゃないか。

 聞けないならスネークに頼んでもらおうか?ジェミニの兄は色々教えてくれそうだぞ」

「結構だ。それにこれはアースにも聞いたが「解らない」と言われた」

「解らない?覚えていないわけじゃないのか?」

「地球に落ちたのが何なのかまでは解らないそうだ。

 どういう原理か知らないがソレが目覚めれば解るらしい」

「つまりまだどこかで眠っているというわけか」

「そうだ、それをお前が掘り当てたらまた同じことになる」

「確かに。しかしその文献は初見だ。心配には及ばん、今の発掘している遺跡のことではないだろう」

 文献の画像をじっくり読みながらファラオは答える。

「ファラオ、今の仕事が済んだら俺の仕事を手伝ってくれ」

「あぁ、構わない。今度はちゃんと守ってくれるんだろう?」

「…無論だ」



   ****



 遅くまで飲んだあと、リングはファラオを部屋まで連れて帰った。

「んん…久しぶりにお前と飲むと楽しいな、なぁリング?」

「そうだな」

 ファラオをベッドに寝かせる。

「リング…まだいいだろう?」

「……」

 リングはファラオの黒髪を撫でる。

 その手をファラオは掴み、キスをする。

「お前、私が好きなんだろう?」

「友人として」

「本当に?」

「なんだ、お前は…女好きの癖に。俺は女じゃないぞ」

「女を女として扱うのは礼儀みたいなものだ。」

「最低な発言だな」

「…黙っておこうと思っていたが、その…お前、嫉妬した目で私をみていたぞ」

「………まさか。気のせいだろう」

「自覚がないだけじゃないか?私は構わないぞ、経験したことがないからな。

 こういう経験もいいだろう」

「……」

 リングはムっとした表情でファラオに覆い被さるとそのままキスをする。

 ファラオの手が首に回る。

「っ…ん、ぅ…あ」

 糸が引く。

 これ以上やると止められないと理性が訴える。

 リングは跳ねるようにファラオから離れ背を向けながらタバコを取り出す。

「リング?」

「……」

「雰囲気が悪かったか?たしかにベッドは小さいし壁は薄いしシャワーも自由に浴びれないしな」

「ほ、ほざいてろ…」

「無理してるだろう?」

 ファラオが背中から抱きついてくる。

「リング、私はお前のこと好きだよ」

「ファラオ…」

「そうだ、ずっと言いそびれていた…。お前血まみれだったからな」

「何を…?」

「おかえり、リング。」

「…今更だな」

「いいじゃないか、言わせてくれ」

 リングの背に頬を寄せる。

「もうどこにも行かないのだから」









END