唐突に話が始まります、パイさんと波が仮死状態になる話
まだDWN対KGNの時代




 薄暗い洞窟。

 空気が冷たい、どこからか流水の音がする。

 自然に作られた洞窟ではなく元々は廃坑であったがそれも崩れ、所々が広くなっている蟻の巣のような洞窟になっていた。

「ハァッ…ハァッ…!!」

 ウェーブはよろけながらも前に向かって進む。

 体中傷だらけだった。

 流水の音も今は聞こえない。

 パイレーツの扱う爆薬による爆発の衝撃で鼓膜がおかしくなってしまったためだ。

 そのパイレーツも今はいない。

 生きているのか死んでいるのか確認していない。

 とにかく撤収命令が出た今、仲間と合流し引揚げなくてはいけない。

 明かりが見えた。

 人影に見覚えがある。

 一人はクラッシュともう一人は―――

「ナパーム!」

 ウェーブは縋るような声で叫びながら痛む身体も忘れて駆け出した。



  ドッ!!



 衝撃が走る。

 身体がガクンっと止まり、ウェーブは思わずナパームに手を伸ばす。

「あ、ぅ…?」

 声の代わりに喉の奥から熱いものがこみ上げてきて溢れてくる。

 身体が項垂れる。

 自然と視界は自分の下方へ向く。

 血に濡れた自分の銛の刃が見えた。




 ―――そこで意識が途切れる。




「ざまぁ…!!!は、はははははァ!!!!」

 銛の柄から手を離しながら、パイレーツは渇いた笑いを上げながらそのまま倒れた。

「ウェーブ!!!!!」

 呆然としていたナパームはハッと我に返って駆け出すが地面が激しく揺れ始める。

 ウェーブたちを挟んで反対側の地面が盛り上がり巨大なドリルがついた機械が現れ中からグランドとコールドが出てくる。

 コールドが二人に向かって手を翳すと氷が現れ二人を包み込んでいった。

「牽制」

 グランドが呟きながら腕を振るう。

「!?」

 ナパーム付近の地中からムカデのような形をした無数の機械が飛び出してきた。

「くそ!」

「ナパーム防御!」

 クラッシュの声と同時にナパームは地に伏せると頭上で爆音が轟く。

 クラッシュが爆薬でムカデを払いのけたようだ。

「パイレーツは」

「死んでいます」

 グランドに簡素に答えながら、コールドは氷漬けにしたパイレーツを運び込む。

「お前たち、許さない」

 グランドはナパームたちに呟きながらコールドの後に続いて機械に乗り込むとそのまま地中へ引き返していく。

「ヤバいな、揺れが収まらない。あいつら俺ら埋めるつもりだな」

「ウェーブを!!!」

 ナパームは凍り付いているウェーブに触れる。

「よせ、持って帰るのは無理だ、乗り物があれば別だが」

「ウェーブを置いて行けない!俺はここに残る!!!」

「任務中は他人に情なんか沸かなかった癖に、ウェーブだけ特別扱いよくないぞ。

 あー…」

 濁流の音がする、どこかで決壊して水が流れ込み始めたのだろう。

 地盤も緩いこんな場所で窒息死はゴメンである。

「ナパーム!撤収命令!!」

「イヤだ!」

「えぇい面倒な!」

「!!!」

 クラッシュはドリルアームをパージしてナパームの肩を掴んで引き離す。

 多少手の皮が剥がれたようだが気にすることなくそのまま駆け出した。

 間一髪だった、その場の地面が崩れていく。

「ウェーブッ!!!!」



   ****



「命令違反を犯したそうだなナパーム。

 貴様のせいでクラッシュの『腕』が失われてしまった」

 メタルが淡々としゃべる。

 ナパームは項垂れたままだった。

 両手に巻かれた包帯が痛々しい。

「…すまない遅れた」

 エアーがやってくる。

「大人しいな、暴れていると聞いたが」

「あぁ、薬を打った。話が進まんからな。まったく人間とは面倒だ。」

「お前も博士が亡くなると悲しいだろう?」

「…」

 エアーの呟きにメタルは首をかしげて、苦笑する。

「まだその認識は無理か…。今はいい。

 ナパーム、災難だったな。しかしウェーブは良くやった。

 クラッシュからの報告だと側近の一人も死んだということじゃないか。」

「ウェーブを、守れなかった……」

「…しばらく休め」

 エアーはメタルの腕を掴んでそのまま部屋を出る。

「甘いなエアー」

「時間が必要だ、それよりもやつらの動きだ」

「あぁ、簡単に施設を自爆させたな。

 恐らくあそこは本拠地ではない。そしてこちらに見せたくないものもある。

 何か探している、それは地中にあるんだろう。

 だがあそこにはなかったからそのまま拠点地の一つとしていた」

「なんだか似ているな手口が」

「我々に?」

「あぁ、我々に探し物はないが」

「案外、博士と似た思考の持ち主がボスを勤めているのかもなぁ」

 メタルはクスクス笑う。

「おいエアー、『冗談』というものだぞ、笑え」

「笑えない…」

「真面目だな」



   ****



 その後、色々ありましてウェーブは発見されキングの技術で蘇生されることになりました。



   ****


「あたしの弟になるの??」

 バナ子は培養液に浸っているウェーブを指差しキングに問いかける。

「違うねぇ、怪我を治しているだけだから」

 バナ子を撫でながら答えるキング。

「じゃあ友達だね!」

「うーん、そうだねー」

 微妙な表情を浮べながら答えるキング。

 DWNと和解したものの…親しくしてやる気はないのだが。

 この蘇生治療も借りを与えるためである。

「あー、キング。マジックが呼んでたぞ」

 パイレーツとグランドがやってくる。

「おやそうかい。周りを弄らないでくれよ」

 キングは立ち上がりパイレーツたちと入れ替わるように出て行く。

「ほぅ、もう傷が塞がったんだな」

 パイレーツはウェーブを見ながら呟く。

「友達だよ!」

「はぁ?あー、そうかい良かったな。俺もコイツと友達になりてぇんだ」

 パイレーツはバナ子の頭を撫でながら答える。

「バーナーも頭弱いけどこいつのがもっとバカなのはなんでだ」

「我々はパイレーツたちと違う。」

 淡々と呟き始めるグランド。

「赤ん坊から育つわけではないから、脳の調整が難しい。

 言語障害が出る可能性、自我の形成不完全」

「ふーん。の割には俺の複製は普通だったな」

「運がいい。あと、技術は向上しつづけている」

「バケモンだなキング」

「天才だ。」

「おー!キング天才!」

 キャッキャとはしゃぐバナ子。

「……」

 パイレーツは何とも複雑な心境になる。

 家族だ、キングは家族が欲しかったに違いない。

 本人も気づかず求めていたに違いない。

 こうやって生物を生み出してしまうことになってしまったが、きっと家族を感じてみたかったに違いない。

 頭では理解できるのにこの嫌悪感は何だ。

 生物としての異質さ。

 違う、結局自分は―――

「お前は、正常だな。可哀想に」

「あぁ、ありがとう」

「パイレーツ、この男目覚めたら抱いてもいいのか?」

「なんでだよ!?」

 突然の話題切り替わりに叫ぶパイレーツ。

 グランドはウェーブの身体をまじまじと見つめながら

「引き締まっている、パイレーツより肉が多いな。締まり具合は良さそうだ」

「?? ねぇねぇ何の話???」

「知らなくていい…」








END