「スカル、お皿取って」

「……」

 カリンカの声に返事を返すことなく静かにスカルは棚から皿を取り出して人数分並べる。

 カリンカと自分自身の分を。

「おとうさま、早く帰ってこないかしら…折角スカルと一緒にご飯作ったのに」

「夜まで帰ってこない。さっさと食べて寝な」

「まあ!スカルってばいつも冷たいんだから!私が寝るまでずっと横にいなさいよ?」

「……」



  *****



「…以上がスカルのデータです」

 コサック博士は説明を終え、息をつく。

 果たして満足してくれているだろうか…日に日に不安になっていく。

 軍の上層部に所属しているであろう、目の前の軍人たちは何やら話しこんでいるようであった。

 その軍を冷めた目で見ている人物もいた。

 軍とは別機関に所属しているリングだ。

 冷めた目でコサックの報告を聞いていた、そして今は軍部のやり取りを見ている。

 彼とコサックは知った仲であった。

 ファラオの友人であったリングと何回か接触して親しくなったのだ。

 そのときの彼はこんな目をしていなかった。もっと人間らしかった。

 今はどうだ、何かに取り付かれているかのように暗い目だ。

 しかしそれは自分にも言えることだろう…。

 彼とはまた別のものに取り付かれている自分がいる、そう自覚してしまう。



 科学者として―――



「博士、報告は済んだんですし帰りませんか」

 リングがタバコに火をつけながら声を掛けてきた。

「え、しかし…」

「話がまとまる気配がないですし、時間の無駄はイヤなタチなのでね俺は」

 コサック博士の背を押しながらリングが強引に部屋の外へ連れ出してしまう。

「リングくん、不味くないのかい?」

「俺は軍部に所属してるわけじゃないんで。一応手は組んでますけど軍の下についたつもりもないですから。

 俺は俺の上司の命令を聞きます、上司は俺に状況の判断は任せると命令しました。」

「詭弁じゃないかね」

「物は言いようなんですよ。食事ご一緒にどうですか?」

「あぁ、構わないよ…」



   *****



「行きつけの店です。盗聴などの心配はないですから気兼ねなく話をしましょう。

 スカルは実戦投入できそうなんですか?生憎俺はデータを見ても解らないものでしたので」

「できるレベルだよ。ただ、軍が望む量産へ移せるかという話になるとまだそこまでは―――」

 リングの表情が歪む。

 それは不満ではなく、嫌悪感の現れであった。

 明らかにリングはスカルに対して嫌悪を抱いている。

「リングくん…その、君は昔の君とは随分と変わってしまった気がする…。

 何があったんだ?」

「職業柄、色々知ってしまっただけです博士。

 貴方なら多分喜ぶと思う。でも俺は普通の人間だ、ただでさえ貴方の作ったスカルが恐ろしく感じるのに…」

「スカルが?怖い?確かに彼は戦闘用だが―――」

「貴方にはわからないでしょう」

 静かにリングは言う。

「カリンカお嬢ちゃんにはスカルのことは?」

「黙っている…」

「ふん、でしょうね」

 リングは新しいタバコを取り出し火をつける。

「君は何を知っているんだ?スカル以外のアンドロイドはもっと高性能なのだろうか?

 私は…自信がないんだ、スカルは『あの人』の作ったアンドロイドのコピーのようなものだ…」

「…戦わせてみればいいでしょう?おびき出すのは簡単だ、俺がそう仕向けることもできますよ。

 ただ、俺は人間同士がおもちゃを使って遊んでる場合じゃないと…」

 そこまで言って、口ごもるリング。

「話はここまでにしましょう博士。料理が来ました」



   *****



『彼は甘いものが好きでね、子供の相手に丁度いいのですよ』

『ガキは嫌いだ!!!!』

『やーやー!リングのドーナッツがいい!こうかんしてー!』

『なんでだよ!我侭お嬢様か貴様ァ!!!』

『ほら、もう知能が子供レベルでしょう?丁度いいんですよ』

『あはは…ほどほどに頼むよ…』

 幼いカリンカとやり取りをするリングを眺めるファラオとコサック。

 この後カリンカが泣き喚いてしまってダストがあやしに駆け込んできたのを思い出す。

「カリンカ…」

 カリンカの部屋のドアを静かに開くと、ベッドに眠るカリンカと、そのカリンカの頭を優しく撫でているスカルがいた。

「あぁ、帰ってきたか。」

 スカルはカリンカから離れてコサックに歩み寄る。

「ちゃんと子守をしてやっているぞ」

 ドアを静かに閉じながらスカルはいう。

「君は凄いな…人間のようだ」

「製作者がそんなことをいうのか」

「いや、意外で…」

「……見よう見真似だよ、アンタの。だいたい同じことをしていれば問題がない。

 食事、してきたのか。あの男の匂いがする」

「あぁ、リングくんのタバコの匂いか?すまない用意してくれてたのかな」

「うん」

 スカルは特に表情を変えることもなく頷く。

「料理まで手伝わされた、どんどん余計なことを学習していってるがいいのだろうか。

 俺は兵器なのに」

「それは……」

 スカルを軍部に渡したくなかったのが第一だった。

 自分のものにしてしまいたいという科学者としての想いが強かった。

 彼は素晴らしい技術の結晶なのだから、軍部にそのままあげてしまうのは大変惜しい。

 とても、惜しいのだ…

「君は、わたしの側に置いておきたいんだ。まだ色々と不安なところがある。

 多少家庭的なことを覚えても問題ないだろう。より思考が人間寄りになったほうが…いいと思う」

「…」

 スカルはコサックを見つめていたが、視線を外して背を向ける。

「おやすみ博士。俺も休む」

「あぁ、おやすみスカル…」



   *****



 ワイリー博士の戦闘用アンドロイドのデータを流用し

 地中より出土した金属片(※)を加工したものを武装部分に使用。

 対アンノウン捕獲もしくは破壊用アンドロイドの製作を目的とする。

 ※この金属はアンノウンの一部と断定、地球外物質であると推定される。










END