ジュピターは地球に落ちた衝撃でバックアップメモリーが損傷し記憶障害に陥りました。
思い出せない状態が続いてましたが現在はキングさんお手製の補助器を脳に埋め込んでいるため生活に支障がない程度に回復。
しかし突発的に記憶が飛んでしまう状態に陥ります(時間が経過すると記憶が戻ります)



 世界が赤い、空が赤い、熱い。


 身体が熱い、頭に手を当てるとぬるりとした、手が赤い。


 通信機はイカれて何も音がしない。


 墜落したヘリは、辛うじて原型を留めていたがプロペラは拉げている。


 光が上がっている方へ目を向ける。


 爆発による雲が上がり爆発による風で灰や塵が舞っている。


 よろりよろりと歩くが足が地面についているのかわからない。


 遠くの方から子供の笑い声が聞こえる。


 楽しいのかな、という疑問ほどでもない思い付きが浮かぶ。


 ―――この世界は楽しい?



    ****



「うー…」

 ジャイロは唸りながら目を覚まし時計を見た。

 まだ深夜だ。

 頭に手を当てる。ちゃんと皮膚があるし出血などしていない。

「夢か…」

 悲惨な夢は何度も見る。

 そしてすぐに忘れてしまうだろう。

 ジャイロは身を起こしてシャツを羽織ると部屋を出て休息室へ向かいはじめる。

 喉が渇いたので水を飲みに行こう―――というのは建前で酒が残っていればそれを頂く。

 休息室には先客がいた。

「なんだウェーブも眠れないのか?」

「う、うぅ…」

 コクコク頷きながらウェーブは視線を落とす。

 手には酒の入ったグラス。

「まだ酒はあるだろうな?」

「ん…」

 ウェーブの視線の先を追うとまだ数本残っていた。

 ジャイロはその一本を拾ってウェーブの横に座った。

「注いでやるよ」

「あ、ありがと…機嫌、よくない?変な夢みたのか?」

「…まぁな」

「そうか」

 そこで会話が途切れる。

 ウェーブにしてみれば頑張ったほうであろう。

 頭を撫でてやりたいところである。

 ウェーブはだいぶ丸くなったように思う。ナパームのお陰だろうか。

 ココに来たときは完全に他人との接触を拒絶して淡々と任務をこなしているだけであったが、

 それでもクセのあるやつらに揉まれ、ナパームとの一件もあって人並みになった気がする。

「なぁ、お前は楽しいか?」

「ん?なにが?」

「この生活…かな。楽しいか?」

「え、解らない…」

 ウェーブは質問の意図をぐるぐる考えているのだろう。しどろもどろしながら答える。

「楽しい、かどうか…知らないけど。昔よりはいいよ…」

「そうか…」

「ジャイロは?楽しくないのか?」

「わからん。

 お前は過去と比べて今の現状に不満は無いんだよな…。

 俺は過去も今の現状にも対して不満はないんだ、ただ流れる日々を暮らすだけだ」

 ジャイロは目を細めて遠くを見る。

「比べる過去のないヤツはとてもとても楽しそうに生きてやがる」

「それは…」

 ウェーブはジャイロが思い浮かべている人物を察して口を開く。

「あいつら、もとから楽しそうだよ」

「そうか?」

「うん…ネプチューン、そうだから」

「あいつはお前と出会えて喜んでるんだろ?毎日会えて嬉しいってやつだよ」

「じゃあジュピターもネプチューンと同じじゃないか」

「…はぁ?」

 ジェイロは目を見開く。

「俺に会って何が楽しいんだあいつ!意味がわからないな!!

 第一あいつは記憶が飛ぶから俺に会いに来るんだぞ。

 別にこなくてもいい!忘れればいいんだ俺のことなど!」

「今日は随分と噛み付くな。ジュピターがそんなに心配か?」

「ッ……」

 酒を一気に飲み干すジャイロ。

 心配している自分を認めたくない。

 ジュピターを可愛がってやる義理もない。

 ただ向こうがアプローチをかけてきているだけなのだ。

 自分は―――

 ウェーブを見る。

 ビクリと震えるウェーブ。




 ―――それこそこの感情、ジュピターと同じことではないか




「寝なおす!」

 ジャイロはそういって部屋へと戻った。



    *****



「よぅ!」

 部屋に戻るとジュピターが不法侵入していた。

 初めてではない、何度もこの手を使われている。

 サターンの空間移動でここまで運んでもらい、帰りは自力で帰りやがるのだ。

 しかし今日は珍しいことに酔っているようで頬は赤く染まりふわふわした雰囲気だった。

「酔ってるのか?」

「いっぱい皆と飲んだぞー。お前も呼べばよかったか?」

「遠慮する。どけ、俺は寝るんだ」

「えー…」

 ジュピターはベッドの上でごろりと寝転ぶ。

「シてくれよぉ…」

「…」






 不本意ながら…というのは言い訳がましいだろうか。

 これまでに数回身体を重ねた。

 愛を確かめ合うというより相手の発情を静めるためといったほうがいいだろう。

「はふっ…ん…ふぅ……」

 ジュピターはジャイロのナニを口で奉仕する。

 最初はぎこちなかったが記憶が飛んでも身体が覚えているのだろうか、今ではなれたものである。

「…」

「んうっ!!」

 ジャイロはジュピターの頭を掴んで押さえつける。

「んぐっ…うっ…んんっ……」

 口の中に出された熱をジュピターは震えながら飲み込んでいく。

「っ…じゃぃろ…」

 強請るような声色でジュピターはジャイロの名を呼びながら下半身をジャイロの脚にこすりつけ始める。

「は、やく…ジャイロ…俺、いつ飛んじゃうかわかんねぇから…」

「飛んでも犯してやる」

「いやだ、俺が意識ある間にシてくれよぉ!」

「飛んでる間も意識があるだろう」

「覚えてないから嫌なんだ…ジャイロぉ!!」

 恐怖の色。

 ジュピターのこの恐怖に染まっている顔を見るのが堪らなく好きだ。

 自分でも悪趣味だと思う。

 本人は至って真剣なのだから。

 ジャイロはジュピターを突き飛ばすようにベッドに寝かせた。

 ジュピターは嬉しそうな表情を浮かべて脚を開き、ビリリッ…と音を立てながら密着している自分のズボンの

 局部部分を裂いた。

 そうするように命じたのはジャイロである。

 露になったジュピターのそれは既に興奮による勃起状態であり、秘所も濡れていた。

 挿入しやすいように身体を調整したらしい。

 それならば女性器をつければいいだろうに…とも思ったが、相手が男だからこそ踏みとどまれることもある。

 ジュピター自身は性別の違いについてよくわかっていないようなのでこのままでいいのだ。

「相変わらず便利な身体だよなお前」

「うあっ…」

 ジャイロの指がジュピターの中にもぐりこむ。

 解さなくとも彼の中は柔らかくなっていた。

「待ってッ…いい、もう、いじらなくて、いいからっ…はやくっ…!!」

「…記憶が飛ぶのが嫌なんじゃなくて我慢できないだけだろう?」

「違ッ…」

 ジュピターは顔を耳まで赤くする。

「どうして欲しいんだったかな?」

 ジャイロは喉の奥で笑いながらジュピターを見る。

「ぐっ…お、お前の、それ…が、欲しいッ…」

「全然ダメだな」

「んだとっ…アァァァ!!!?」

 仰け反るジュピターの腰をしっかりと掴みながらジャイロはナニを挿入する。

 ジュピターの中は熱く、絡み付いてくるような締り具合であった。

 今すぐにでも激しく犯して堪能してやりたいところだがジャイロは我慢してゆっくりと抜き差しをしはじめる。

「や、やっ…やめっ…」

 涙を零しながら首を振り、ジュピターは脚をジャイロの腰に絡めてホールドしようとする。

「も、そこっ…じゃな、いっ……!!」

 腰を揺らし始めるがジャイロが押さえつけるので思うように動くことも出来ない。

「ジャイロォ!!」

 切なげに声を上げるジュピター。

「そんなに俺が欲しいのか」

「ほしいっ…ほしいんだよっ…」

「俺以外でも…いいんじゃないか?」

「なに、言って…」

「誰でも代わりになれるだろう?」

 思わず呟いていた。

 それは最初から思っていたことだった。

 しかしそれを口に出した今、どうして胸が苦しいのだろうか。

「なに、わかんねぇよ…お前じゃないといやだ、いやっ…」

「なぜ俺だ!」

「ひぃ!!」

 いきなり激しく突かれ始めてジュピターは身悶える。

「アッ…アァァァァッ!ッひ、あぁぁ・・・!!!」

 涙と溢れさせ、開きっぱなしの口から唾液を流しジュピターは乱れる。

 刺激を与えれば与えるほど体液が分泌されるのか、ナニの先端からは透明な先走りで濡れ、

 すでに結合部分はとろとろになっていた。

「う、ア…」

 ガクンッとジュピターの身体から力が抜ける。

「ジュピター?」

 ジャイロは動きを止めてジュピターの顔を掴む。

「あ…ぁ…」

 その目は虚ろで何も映していなかった。

 これが、記憶が飛んでいる状態…痴呆のような状態だ。

「ジュピター…」

 ジャイロは名を呼びながらキスをする。

 舌を入れて口内を掻き回そうが反応はない。

 キスをしながら手を握り締めて、再び腰を動かし始める。

「んっ…う、んんっ…」

 ピクッとジュピターの指先が震える。

「んぅ、うう!?んっ…ッナニ、コレハ…ナンダ…」

 ジュピターの虚ろな目がジャイロを映す。

「ダレ、ダ…」

「ジャイロだ、忘れるな。俺はジャイロだジュピター」

 何度も何度も繰り返すこのやり取り。

 初めてのセックスから何度も繰り返している。

 何度も名乗らなくてはならない。

「絶対に忘れるな、ジュピター!!解っているのか!」

「!? ウ、アァッ!!??」

 奥にたっぷりと熱を注ぎ込む。

 身体は覚えているらしい、それを受け入れるかのごとく内部が痙攣を起こしている。

「ヤメ…ハナ、セッ…」

「ジュピター…忘れなくなるまで続けてやるからな」

「ナニ、ヲ…」

「お前がそう望んだからだ!」

「オレガ!?オレが、コンナ…お前は、ダレだ…お前は…お前は…」

 頭を抱えるジュピター。

 せめて身体に刻み付けてやろうと。

 快楽を刻み付けて、ジャイロという存在を刷り込ませて



 ―――自分でも、悪趣味だと思う



    *****



 ジャイロと名乗る男は記憶の中にいない。

 しかしその記憶というのもチグハグで、今自分がどうしてここにいるのかということさえ思い出せない。

 意味の無いバラバラの記憶、まったく繋がってくれない記憶。

 その不安を塗りつぶすかのごとく目の前の男は強く抱きしめてくる。

 声が勝手に出てしまう。

 無意識に身体が反応する。

 知っている気はするのだ、この感覚、知っている。

 しかし思い出せないのだ。

 それが悲しくて悲しくて涙が溢れてくる、止まらない。

「ジャ、イロ…」

 名を呼ぶと落ち着く気がした。

「ジャイロ…ジャイロ…」

 求めるように何度も何度も呼ぶ。



    *****



「人生?楽しいけど?」

 ジュピターは首をかしげながらジャイロに答える。

「記憶が飛ぶのにか?」

「あー、まぁ面倒だけどお前いるもん」

 微笑むジュピターだがジャイロは納得いかない表情を浮かべていた。

「お前マーキュリーみたいだな、そうやって生き方を考えてても仕方ないぜ。

 どうせみんなの行き着く先は死だ。無に返るんだよ」

 その目は猛禽類の目のよう―――

「それまでの人生は、そりゃあ楽しい方がいいと思うがね、俺はそういうのどうでもいい」

 ベッドに転がるジュピター。

「……お前、俺と付き合うのしんどいのか?」

「いや、別に…ただ、なんとなく疑問が浮かぶだけだ」

「ふーん」

「ところでお前のその記憶障害は直らないのか」

「コアとのバックアップの兼ね合いでなおらねぇな…」

「そのバックアップというのは絶対しなくてはいけないのか?」

「一応肉体のメンテナンスに含まれてるから…別にしなくても死ぬわけじゃないぜ?

 肉体が老化していくだけだ、そうだな…調整しなければマシにはなるかもな…やってみないとわからねぇけど」

「…他の方法は」

「他の方法ねぇ…」

 ジュピターは目を細める。

「地球人の脳みそを取り込めば、多分損傷箇所を再構築できる、と思うけど…

 別人になったら嫌だからしない」

「だったら俺の脳みそ使えばいいんじゃないか」

「え」

「俺の記憶が混じっちゃ嫌か?」

「……」

 ジャイロはジュピターの手を握る。

「最終手段にしとくよ。」

「そうか」

 ジュピターはジャイロの手を握り返しながら額を押し当てる。

「俺は絶対にお前を忘れないから」

「あぁ…」

「絶対にだ、絶対に」

「あぁ、忘れないよう俺もがんばるよ、苛め抜いてやるからな」

「それはいらねーーー!!!!!」








END