ヘリポートに向かうと、見知った男がいた。 「久しいなジャイロ中尉」 「エアー少佐」 別部隊だが名の知れた軍人エアーであった。 ただ何かしら問題を起して軍を抜けたときく。 なぜここ…基地にいるのか。 「合同任務、我々と行う。よろしく頼む」 「民間軍にエアー少佐は所属しているのですか?」 眉を顰めるジャイロ。 状況がまったく飲み込めなかった。 軍を抜けて傭兵もどきをする者は稀にいる。 それはそれ、ジャイロは今回の任務自体納得できていなかった。私兵団との合同任務などと。 無論極秘裏であろうが。 「諸事情…で。」 目を細めるエアー。 「君も来てくれると、楽しくなるかもしれないな……考えておいてくれないか。 君の技術は素晴らしいからな…」 「はぁ…」 **** 「あー、俺何やってんだかなぁ」 ジャイロはベンチに腰掛けながら呟く。 人生の機転である出会いを思い返して、思わず声に出してしまった。 今いる場所は有名な高層ビルの屋上にある空中庭園フロア。 ジャイロはバイトで空中庭園のフロア担当になっていた。 (まぁナパームみたいに戦闘してないと死ぬっていうわけじゃないし、いいんだけど…) 自分は根っからの職業軍人ではない。 手に持っていた風車を指で突付いてくるくる回す。 自分のヘリに関する操縦技術を買われたのが嬉しかった。 「ジャイロさん」 「!」 黄色い作業服をきた金髪の男がやってくる。 空中庭園の植物の管理を任せている業者のホーネットだ。 「植物の手入れ終わりました」 「あぁ、お疲れさま」 立ち上がるジャイロ。 「また来週よろしく」 「えぇ、それではまた。失礼します」 一礼してスタッフ用の出入り口へ向かっていく。 「メンテ終わったし俺も帰ろうかなぁ」 「えー!折角俺が来てやったのにかえんのかよ!」 背後から聞こえたその声にジャイロは迷うことなく回し蹴りをした。 **** 焦げ臭い匂いが鼻につく。 「――――!!!!」 それは聞いた事のない言葉…言葉なのかただの呻きなのか、理解しがたい声を発していた。 「イマハ、イツ、テキハ、 ――― コトバ、ガ、……」 頭を抱えながら不思議な姿をした男は呻く。 ジャイロはヘリから抜け出す。 周りには火がついていた、目の前の男が落雷を落としたのだ。 (ダメだ、通信機器がさっきの雷で全部壊れてる) 銃の弾薬を確認しながらジャイロは舌を打つ。 とんだ災難だ、支援ために飛んでいたら狙われるとは。 相手は話しにあった「宇宙人」というやつであろう。 ジャイロは迷うことなくその場から逃げる。 マトモにやり合うわけにはいかないし自分の任務は続行不可能だ、退避するしかない。 ヘリの仇は討ちたいがこの装備では勝てないだろうと判断した。 コゥッ…!! 妙な風を切る音にジャイロは思わず空を見上げた。 さっきの男が飛んでいた。 どういう原理で飛行しているのかはわからない、背から肩の模様と同じ模様の光を発しているのが気持ち悪く感じられた。 男が手を振るう。 ジャイロは真っ青になりながら銃を投げ捨てた。 ドン!という音と衝撃。 身体が投げ出され全身を打つ。 「うぐっ…うっ…」 「……」 男が近くに降り立ち歩み寄ってくる。 帽子の影から覗く目はギョロリとしていた。 「…? あ…?」 「……??」 急に呆けたような表情になって膝を突くのでジャイロは戸惑った。 「な、なんだ…?急に動かなくなったぞ…」 「俺は何をすればいいんだっけ…」 「はぁ?」 「お、思い出せない…お前は誰だ、研究員か?研究員?いつの時代の話だ?今はいつだ、ここはどこだった?」 「…お前は俺に殺されるべきだ」 「なんで!?」 ジャイロはナイフを取り出して男を取り押さえる。 「俺を殺そうとしたからだ!死んで詫びろ!!!!」 「つまり、お前は俺の敵!?」 「知るか!!!うわぁ!?」 軽々とジャイロは男に掴み上げられる。 「間違って仲間を殺してしまったら怒られるからな、安心しろ俺の電流は一瞬でお前の水分を蒸発させるから痛くないさ」 パンッ 男はよろけ、ジャイロはそのまま解放されると男から離れる。 パンパンと銃声が響く。 男はそのままぐらりと倒れた。 「ジャイロ中尉、こちらであります!」 サーチが草陰から身を出して手招きする。 「助かった」 「良かったです。ご無事で」 サーチは男に向かってロケットランチャーを打ち込むと踵を返して駆け出す。 「や、やりすぎじゃないか今の」 「いえそれが、あれだけやってもあいつら死なないみたいなのであります。 肉片になっても甦る技術があるのか、それとも同じモノが何体もいるのか…」 **** 「どうしたんだよジャイロ、黙りこくって」 「お前との初めての出会いを思い出してたんだよ」 「思い出せていいなー、俺思いだせないんだよ」 突然の来訪者ジュピターはそういいながら缶ジュースを飲む。 「夜空って綺麗だなー」 「お前の星はどうだったんだ」 「思い出せない…」 「鳥頭」 ジャイロは地球に落ちたときの損傷が原因で記憶障害を起していた。 当初はそれが酷く、ルーラーズも手を焼いていたのだがキングが脳を弄くって記憶の補助装置を取り付けた。 これで必要最低限のことを思い起すことが出来るようになったのが、たまに全てを忘れて呆けていることがある。 時間が経てばまた思い出してくるのだが。 「平和になってよかったよなぁ、俺お前とこうやって話ができるとは思わなかったぜ」 「出来ればしたくないんだが」 「なんだよまだ根に持ってるのかよ。仕方ないじゃん敵同士だったんだからさ」 「俺は馴れ合いが嫌いなんだ」 「ふーん、お前アース隊長にそっくりだな。」 「どこがだ…」 地球を滅ぼそうとした宇宙人そっくりと言われても嬉しくはない。 「なぁ今度お前のヘリに乗せてくれよ」 「お前、遅い乗り物嫌いなんだろ…」 「でも乗ってみたくてさ。お前の世界を見てみたい」 「?」 ジャイロはキョトンとした表情を浮かべる。 「凄い、俺どんどん地球人みたいになってきてる、あはは皆いうんだよ、地球人みたいになってきたってさ! 俺はどっちでもいいんだけどな。スタードロイドでも地球人でもどっちでも。俺は俺だしってね」 コゥッ…と音を立てて空へ浮ぶ。 「じゃあなジャイロ、今度乗せてくれよ!」 言って飛んでいく。 「人の話をまったく聞かないヤツだな…」 ジャイロはため息をつきながら呟き、立ち上がった。 END |