宇宙船、それも巨大な宇宙船。 構造的に宇宙船とは言いづらい、いうなれば「兵器の中」だろう。 実際そうなのだから間違ってはいない。 マグネットとグラビティーは道なき道を進んでいる。 グラビティーは自慢の重力操作で天井や壁を走り、マグネットは磁力を操り壁や天井、配管へ綱渡りのように張り付きながら前へ進む。 「次のブロックが目的地だグラビティー!」 「解っているよ、君は方向音痴なのによく間違えないものだね」 「一直線だしグラビティーが前を進んでいるからな!」 「君ねぇ…」 呆れながらグラビティーは前を塞ぐ壁に張り付くとそこへ爆弾を仕掛けて破壊する。 開いた穴を通り抜けると足場があったのでそこへ立った。 周りを見回すグラビティー。 「ここだね、制御室…って言えばいいのか…巨大な制御回路の一部というのか…」 呟きながら弄り始める。 「急所はあの装置だろうね、マグネットくん、破壊してしまって」 「そこか、よーし!」 手を翳すマグネット。 バツンッ!!と大きな音と閃光が走る。 それに連動するように周りから火花と電流が飛び散りはじめた。 「作戦成功かな!?」 しかしその瞬間、よくわからない音声とともに周りが揺れ動き始める。 「脱出するよ!」 「お、おう!なんだ周りが暗く……」 「このブロックを切り離すつもりかも、もしかするとここを破壊しても別の場所が代わりの役目をするのかもしれない」 「えぇ!?じゃあ俺たちの作戦失敗!!?」 「そういうことだね…」 **** 「正気に戻ったかエンカー…」 「…!?」 エンカーは驚愕する。 目の前に、スピアに貫かれたバラードがいる。 そして自分はそのスピアをしっかりと握っていた。 意識はハッキリしていた。 だた頭の中がボンヤリして…仲間を殺さねばならないと確信していた。 なぜそういう思考に陥ったのか混乱する。 そうだ、あの異星人に手を翳された瞬間に思考がずれた。 殺す相手は異星人ではなく仲間だと――― 自然とそういう考えになっていた。 いや、そう考えさせられたのだろう…思考を操作されたのだ。 「エンカー」 パンクがエンカーの肩を掴むので、エンカーは自然とスピアから手を放した。 バラードはスピアを引き抜く。 赤い血が溢れたが、そんなに量は流れなかった。 「いいかエンカー、恐らく、あれを止められるのは俺たちだけだろう…」 「…あぁ、解る。あの異星人とまだ、繋がっているようだな。解るよ」 「ならいい。いくぞ」 **** キラーズたちがコアの部分にたどり着く。 無数のコードが黒い球体へ向かっている。 恐らく、あそこが制御装置でありアースがいるのだろう。 瞬時に空気中の熱量が上がる。 「ヤアアアアッ!!!!」 エンカーが声を上げながらスピアを振り上げ、一斉に放たれるレーザーの群を吸収していく。 「いくぞバラード」 「あぁ!」 パンクとバラードが球体へ向かいパンクが勢いに任せてタックルをし、ひしゃげた装甲、その隙間をバラードは掴み力任せに開いた。 『き・さ・ま・ら・・・!!!』 目から赤い液体を流しながら顔を歪ませるアースがいた。 『人形が、人形ごときが! この、この星を潰さないと気が済まぬ…!私がサンゴッドさまに成り代わってこの星を…』 「お前の勝手でこの星を壊させてなるものか!」 『アァァァァァァ…!!!』 エンカーのスピアがアースの胸に深々と突き刺さり、そのままエネルギーを流し込まれ 逆流したエネルギーのせいか周りにプラズマが走る。 「パンク、このまま引きずり出せ!バラード、お前がコントロールするんだ!」 「おう!」 パンクはアースを掴むとエンカーとともに外へ引きずり出す。 ブチブチと嫌な音を立ててアースに繋がっていたコードが外れ赤い液体が飛び散る。 (俺たちにも同じものが流れている血か…) 「うぐっ!」 アースのいた場所に代わって乗り込むと背後から無数のコードが連結していく。 血が流れていく、この巨大な破壊兵器に自分の血が。 意識が持っていかれそうになる。 この兵器と一体化していくような感覚は個人の意識を狂わせるほど情報量が多い。 バラードはただただ念じるように意識を集中した。 ―――自壊しろ ***** 青い空が見える。 「…なぜ生きている」 ぽつりと呟いたのはアースだった。 「お互い…運がいいんだろう。いや、もしかしたら誰かに助けてもらったのかもな…」 身を起していたバラードはそう呟いてアースを見た。 アースの胸にはまだエンカーのスピアが突き刺さったままだ。 その状態で倒れている。 緑の髪は風に揺れ、流れている。 「パンク、エンカーの様子は?」 「問題ねぇーな。そのうち目が覚めるだろ」 「そうか…。そういうわけで俺らの勝ちだ。」 「…そのようだな」 無表情だったアースの顔が歪む。 怒りの形相ではない、悲しみだった。 「サンゴッド様より生まれた人形どもにやられた…あぁ…『心』か…人形に『心』があったせいか…」 「…」 本人は気づいているだろうか、涙を流していることに。 「私たちは兵器を生み出しても心は作らない。 作らなかった、恐れていたんだろうな…」 自分達が兵器として生み出されたこと 心があったせいで創造主たちを殺してしまったこと キラーズにとっては遠い世界の話をぽつりぽつりとアースは語る。 アースは自分達と何も変わらない。 ただ悲劇だったとすれば、それは兵器として完成しすぎていたことだろう。 あまりにも彼らは、兵器ではなく生物に近かった。 「…生きてる」 「エンカー、大丈夫か?」 バラードがエンカーを抱き上げる。 「…あいつも生きているのか、奇跡だな」 フフっと笑ってエンカーはバラードの肩を借りて立ち上がるとアースに歩み寄る。 「仲間がいきていれば彼らと話し合って今後を考えるといい。 我々は正義のヒーローではないから罪滅ぼしをしろなんて言わん。 お前たちが路頭に迷うというのなら衣食住を提供してやろう。無料ではないが」 スピアを引き抜きエンカーはアースを起こしながら言う。 「勝手にそんなこと言っていいのかエンカー?」 「我々と兄弟のようなモノだろう?問題はない。まぁまずはこのガレキの撤去を手伝ってもらうかもしれないな。 お前たちの技術はワイリー博士が独り占めにするんだ。誰にも渡さない」 手を差し出す。 「…それは安心する」 アースは応えながらその手を握った。 END |