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「ダスト姉さん!」
        
         スーツ姿の男が修道女に駆け寄る。
        
        「駅員に聞いてきたが貨物列車の脱線事故で運転が止まってるらしい」
        
        「コサックさんの所へは行けないわね…」
        
        「車を手配しよう。ここは冷えるから近くのカフェに移動しようか」
        
         ダストの手を引く。
        
        「ありがとうダイブ。貴方も忙しいでしょうに」
        
        「姉さんほどでもないさ。」
        
         ダイブはダストとカフェの前で別れ、車を用意するために連絡をし、そして―――
        
         思わず身を硬直させてしまった。
        
         目の前に見知った顔がいたからだ。
        
         金髪の男と青い髪の女…その横にボサっとした茶髪の隻眼の男―――
        
        「パイレーツ!!!!」
        
         名を叫ぶ。
        
         隻眼の男も気づいて目を見開いた。
        
        「ダイブ!?なんで陸にいやがる!!!?」
        
        「それはこちらのセリフだ!行方不明とは聞いていたが生きているのならば」
        
         掴みかかろうと駆け寄るが間に女が入り込む。
        
        「失礼。私たちの連れをどうするおつもりです?」
        
        「どうって、こいつは指名手配犯だ、しかるべき所へ―――」
        
        「―――ふふ、しかるべき所へ連れて行かれても。保釈金を払ってしまおう」
        
         楽しそうな口調で金髪の男が言う。
        
         バイザーの奥にある瞳は鋭い。
        
         パイレーツを下に置いているということは解ったが、しかしマフィアのような気配はしないためダイブは戸惑った。
        
         何者なのか判断がつかない。
        
        「ま、そういうこった。大人しくしてろよ。俺のリモートマインが海中の中だけだと思うか?」
        
        「!?」
        
        「見逃せってことだよ、俺は最近海賊行為はしてないんだぜ?」
        
        「…あ」
        
         ダイブはパイレーツの腕に気づいて眉を顰めた。
        
        「お前、腕はどうした…?」
        
         やはりパイレーツの船は撃沈されたのだ、と確信を持つダイブ。
        
         その現場を見たわけではないが海上で起こった謎の戦闘、そこに偶然居合わせた民間の船や―――パイレーツの海賊船が沈んだ。
        
         だからパイレーツは死んでしまったかもしれないと半分諦めていたのだ。
        
        「無くなった、この右目もな。だから海賊を辞めたわけじゃねーけど俺は今別の仕事してんだよ」
        
        「別の仕事だと?」
        
        「今、彼は私に雇われているんですよ。えぇっと、警察の方かな?沿岸警備隊?」
        
        「一応軍人だな。」
        
         パイレーツが目を細めて言う。
        
        「……」
        
         ダイブは身分証を見せる。
        
        「ふぅん、まぁ一応こちらも身分を明かしておくよ」
        
        「キング=ワイリー?…どこかで」
        
         身分証に書かれた名前を見てダイブは首をかしげた。
        
         どこかで聞いた名前だ、「ワイリー」という名前、どこかで。
        
        「こちらは妻のマジック。パイレーツは私たちの護衛として雇わせてもらっているのだよ。
        
         この街には用事があって来てね。何、用事が済めばすぐ出て行くさ」
        
        「用事?」
        
        「孤児院へいって子供を引き取りにね。二人の間に子供が生まれなくて寂しいんだ。
        
         ならば、と」
        
         悲しそうな素振りでいうキング。
        
         しかし、違和感を感じてならない。
        
        「ふふ、警戒されているようだね。無理も無い。まぁパイレーツくんの罪はまだ償えていないから仕方が無いだろうけどね。
        
         パイレーツ、一度捕まったらどうだい?」
        
        「おい!!!!俺は全力で逃げるぞ!!」
        
        「…そうだな、俺はお前の脅しに屈するわけにはいない、大人しく―――」
        
         瞬間、遠くの方で爆発音が聞こえた。
        
        「!?」
        
         パイレーツは目を細めてダイブを見る。
        
         笑顔だ、嘲笑うような―――
        
        「お前か…?」
        
        「さぁ?俺かもしれないし俺じゃないかもしれないぜ?いって確認してみろよ。」
        
        「ッ…くそ!」
        
         ダイブは爆発のあった方向へ走り出す。
        
        「本当にリモードマインしかけてたんだ?」
        
        「ハン、俺はアンタみたいに用意周到じゃねーよ。とにかく今のうちに済ませようぜ」
        
        「なんとも運の良い男だ、雇った介がある」
        
         クスクス笑うキング。
        
        「何でもいいです。いつまでもスカートなんて履いてられません」
        
         マジックが歩き出す。
        
        「似合ってるぜ女役」
        
         ケタケタ笑いながら言うパイレーツ。
        
        「私は男ですッ!」
        
        「美人なのに…世の中って不思議だよ」
        
        「だよな、もったいねぇ。これで性格が良けりゃ男だろうが抱いてやってた」
        
         ギロリと睨まれる。
        
         肩を竦めてパイレーツとキングも歩みを進めた。
   ****
 新しいお父さんとお母さんは少し変わった印象を受けた。
        
         周りの大人のような愛情を感じない。
        
         『お母さん』の方は優しく微笑んできて、きっとこの人は本当に優しい人なのだろうと思った。
        
         だけどやっぱり違うのだ。
        
         ダイナモは今日で今まで住んでいた孤児院から出る。
        
         新しい家族とともに暮らすことになった。
        
         孤児院だろうが新しい家だろうが、どこでもよかった、自分には居場所などないのだ。
        
         お父さんとお母さんに車の元へ連れられていくと車の横に柄の悪い男が立っていた。
        
        「パイレーツおまたせ」
        
         お父さんがその男に声をかける。
        
        「列車が止まってる。貨物列車の横転らしいぜ。すぐにでも俺はこの街から出るぞ、距離を稼ぎたい」
        
        「解ったよ。どうぞ、レディーファースト」
        
        「キング…」
        
         後部ドアを開くキングにうんざりした顔を向けながら、マジックはダイナモの肩を押しながら一緒に乗り込む。
        
         パイレーツも乗り込み、運転席にキングも乗り込むと車が発進する。
        
        「さてダイナモくん、君に一つ嘘をついてしまったことを謝らなければならない」
        
        「…」
        
        「私たちの養子として君を引き取りたくて接触したわけではないんだ。
        
         君の能力のために、君を引き取った」
        
         ダイナモは目を見開いてキングを見上げる。
        
        「ぼ、僕のこと…知ってたの!?どうする気!?」
        
        「私は君のような能力者を探して保護しているんだ。そして能力を取り除く研究をしている。
        
         どうだいダイナモくん?協力してくれれば、君のその能力を消せるかもしれない」
        
        「…いいよ、どうせ断ったってこのまま連れて行くんでしょう?」
        
        「まぁね。乱暴はしないけど…君の能力を使われると困るな、皆死んでしまう。
        
         つまり君は自分で生き方を選べるのだよ」
        
        「気に入らなかったら逃げ出すよ」
        
        「OK」
        
         ニッコリ微笑むキング。
        
        「何かあればマジックにいうといい、彼は子供の扱いに慣れているからね」
        
        「…『彼』?」
        
        「ごめんなさい、こういう趣味はないのですが貴方を引き取るためにやむなく…男なんです。
        
         ホントに趣味じゃないですよ!?趣味はこれです」
        
         ポンッと花を出してダイナモに差し出す。
        
        「手品?」
        
        「そうです、本職でもありましたが、今はキングの秘書をやっていますので」
        
         微笑むマジックにつられてダイナモも微笑んでしまう。
        
        「それでは帰ってクリスマスパーティをしようね。君のために準備してあるんだよ」
        
        「是非私の手品も披露したく!!!」
        
        「うん、見たい」
        
        「良い子良い子!!!」
        
         ダイナモを抱きしめて頭を撫でるマジックだった。
    ****
「遅れてすみませんコサックさん。ダイブはこれないそうで…」
        
         ダストはコサックに一礼して挨拶を済ますとそう呟く。
        
        「そうか、それは残念だ。みんなと会いたがっていたんだが…ともあれ奥の部屋に行こう」
        
         コサックとダストは奥の広間に行くと、温かみのある空間が広がっていた。
        
         カリンカを中心に談笑している旧友たち。
        
         毎年行うクリスマスパーティだ。
        
         カリンカを楽しませるためにコサックと、親しい者達が集まって行う。
        
         いつも全員が揃うわけではないのだが、見渡すと今年はダイブとリングが欠席のようであった。
        
         ファラオがダストに気づいて歩み寄ってくる。
        
        「ダスト、久しぶりだ。いつも麗しい」
        
        「はぁ…」
        
         ファラオはダストの手をすくい上げるとキスをする。
        
         いつもの挨拶なのでダストは適当に流す。
        
        「いつもゴミを拾っている手とは思えないほど美しい」
        
        「ダイブがまた何か言ってたの?」
        
        「姉が危険なスクラップ置き場に行くので気が休まらないと…確かに足場が悪い、ほどほどにされたほうが…」
        
        「止めませんので無駄な気遣い」
        
        「ふふふ、そういうところ嫌いじゃない。カリンカお嬢様にはまだ挨拶していなかったかな?」
        
        「えぇ…」
        
        
   ****
「カァー!!!だから俺の運転ミスじゃねぇよ!」
        
         チャージがクリスタルに叫ぶ。
        
        「積荷の探索…は少し時間を置こう」
        
         エアーが呟く。
        
        「まさか積荷が逃げ出すとは思わないだろ!!
        
         こっちは偽装してんだホイホイ追いかけられネェしよぉ!!!」
        
        「落ち着け。仕方ないことだ。彼…ジャンクは我々と違って軍人でもなければ戦うことしか考えられない者でもない。
        
         自分の身を案じて逃げ出したくなったのだろう。
        
         彼の身体能力は未知数だ、どこまで逃げたかはわからない…が、国が国だ。我々も長く干渉はできん。
        
         詮索能力に長けているお前たちに引き続き任務を続行させる」
        
        「了解です」
        
        「先に回収できればいいのだがな…」
        
         マフラーの下で小さくため息をつきながらエアーは呟いた。
        
        
        
        END        
        
  
 
 
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