「納得いかねーよ教授ぅ」

 スネークはテーブルに突っ伏しながら目の前の席に座るファラオに呟く。

「折角遺跡見つけたのに追い出されるとかさー!」

「仕方あるまい。我々は異国の者だしクライアントが調査をやめろと言ってきたんだ、従うしかない。

 だいたい無理を言って掘らせてもらっていたしな」

 ふぅ、と小さくため息をつくファラオ。

「もともとの遺跡のさらに下を掘らせろ、なんてまぁ確かに無茶でしたが…。

 実際見つけたんですよ俺たち」

「見つけてしまったからこうなったんだろうなぁ」

「納得いかない!」



 スネークとファラオは世界を回りながら遺跡の調査をしている。

 既に発見されている遺跡の劣化具合を調べたり、また文献を見直して再発掘を行ったりと時間の掛かる忙しい日々だ。

 今回はその再発掘の際、新たな遺跡を発見したのだが強制的に止められてしまった。

 あとは国が受け持つと、こうである。



「…さてスネーク。あの遺跡、どうも変だとは思わなかったか?」

「…」

 スネークは真面目な表情になって身を起す。

「まるで下にある遺跡を隠すように上に祭壇を建てたかのようだった。

 いや実際そうなのかもしれない。」

「…教授、大学でこれ調べてもらってもいいっすか?」

 スネークは懐から小さな包みを取り出す。

 包まれていたのはビニール袋に入っている砂と何かの欠片。

「これは?」

「下の遺跡の一部です。遺跡は上の遺跡と同じく石と砂で構成されているように見せかけられていました。

 不自然だったんです。スコップで思いっきり削ってやろうとしたら石は砕けたがその次は硬かった。

 スコップが欠けましたよ。でも劣化してたようで一部分が取れたんです。

 金属のような気もするし…何か別のもののような気もするし…」

「隠そうとしていたわけだ、入念に」

 ファラオはそれを包みなおすと鞄へ仕舞う。

「これは大学より…そうだな知り合いに金属に詳しい博士がいる、依頼してみよう。

 私の先生で信用できる人物だ」

「へぇ、教授の先生!」

「とはいっても博士の授業を受けていたわけではないがね。

 しかしあの人は天才なのだろうな、と敬意を込めて『先生』だ。嫌がるがっているが…」

 フフっと笑顔を浮べるファラオ。

 なかなかミステリアスな教授である。

 交友関係もよくわからないのが多い。

 世界を回っているからだと本人は言っていたが。

「早速コレを届けにロシアに行こうか」

「今からロシア!?」

「うむ。予定が繰り上がってしまったからな。ロシアに寄ってもいいだろう」



    ****



 遺跡の最深部。

 そこは空洞になっており、中央に棺のようなものが設置されていた。

「今回は丁寧に囲ってあるな。そんなに恐れたか」

 キングは口元に笑みを歪ませて後ろに控えていた兵士に指示をだす。

 棺の石を慎重に砕くと中から金属が覗く。

 ある程度囲いを取り除き、別の兵士が装置を運んでくる。

「ポットとの接続完了」

「擬似エネルギー流せ」

「流します」

 装置の音が遺跡内を反響し大きな音になる。

 バシュっと空気が抜ける音がして、それは開いた。

 中に男が眠っていた。

「サターンか」

「!!」

 キングの後ろにいつの間にかアースが立っていた―――かと思えば姿が消え、足音に目を向ければ棺の前に立っている。

「そうだった…サターン、お前は一番最初に眠ってしまったな。外傷がないわけだ。」

 アースは懐かしそうにつぶやきながら眠ったままのサターンの頭を掴むとそのまま引きずり出す。

 ブチブチブチと嫌な音を上げながら。

 サターンの体に繋がった無数のコードが千切れて赤い液体を撒き散らす。

 この赤い液体は血ではない、彼らのエネルギーを巡らせる特殊な液体らしいのだが見ていて痛々しく思える。

 しかし扱いが荒々しく見えるのはキングの気のせいだろうか?

 いやアースが感情的になっているのだ、と確信できる。

 過去にその男と何が合ったのかはしらないがアースは確実に何かしらの感情をサターンに向けているのを感じる。

「早く目が覚めた姿を見たいものだな、頼むぞ」

 アースは笑顔を浮べながら地へサターンを投げ出すと姿を消す。

「…回収」

「はっ」

 キングの指示に兵士がワンテンポ遅れて答え、作業の続きが始まった。



   ****



『ぎゃあああああああ!!!』

 無表情でのたうちまうサターンを見つめていた。

 アースは何の感情も出さずに見下ろしていた。

 サターンは右目を抑えていたが黒い血は地を汚す。

 そのときの自分は屈辱感しかなかった。

 この自分がこの男に助けられるなど―――

 生まれて初めて感情が爆発した。

 気づけば右手に彼の眼球があった。



 嗚呼―――これが感情か。



 他人の感情しかわからなかった、他人の感情は読み取れるが自分の感情が読み取れなかった

 だからないものだとばかり思っていた。

『勝手な真似をした罰が目玉一つで済んでよかったなサターン』

『ッ…』

 嗚呼、なんて酷い表情をするんだ。

 もっともっと見たくなってしまうだろう、今のお前は酷く滑稽だ。

『コレは返さないぞ』

 言って、アースはサターンの前で―――







「治ってしまったか」

「はい治ってしまいました」

 アースの呟きにサターンが答える。

 それっきりだった、それっきりアースは忘れてしまったかのように右目について触れなくなった。

 それよりもサターンは自分の体が気持ち悪く思えていた。

 自分の血液の色が赤になってしまった。

 アースもそうらしい。

 まるで全身が機械になってしまったかのような気分だ。

 しかし地球人の血は皆赤いという、あぁなんだか気分が悪い。

 慣れるしかないのか、仲間が全員揃うまで。



 揃った後、どうするのかは解らない―――








END