慣れ始めの続き


「あ、おーいウェーブ」

 ナパームが手を振ってウェーブを呼び止め…ようとしたがウェーブは突然走り出して逃げていく。

「…?」

「どうしたんだろうねウェーブ。

 いつも変だけど、ここ最近ずっとナパームを避けてるじゃないか」

「あ、やっぱり俺避けられてる?」

「うん」

 ナパームに頷くスター。

「ど、どうしよう…嫌われることしちゃったのかな…いや、心アタリはあるけれど…」

 例のセックスだ。

 あの後はウェーブは気にしていない様子であったが、時間が経って逆に嫌な記憶になったのかもしれない。

 落ち込むナパームにスターはため息を吐いた。

「ウェーブのことよく友達扱いできるねぇ…」

「スターは友達じゃないのか?」

「まさか、ただの同僚、同居人だよ。嫌ってはいないけど」

 金色の巻き毛を指で弄りながら言う。

「というか、君たちは恋人同士じゃないのかい?」

「え!?」

「てっきりデキてるのだとばかり」

「なんで!!!!?」

 顔を真っ赤にして叫ぶナパーム。

「休暇の日にウェーブを部屋に連れ込んでるじゃないか」

「誤解だ!あれはいかがわしいことをしているわけじゃない!!」

「じゃあ何をしてたんだい…」

「俺は銃を弄ってる。ウェーブは適当に時間潰してる」

「……色気のない野郎たちだね」

 頭を抱えるスター。

「愛の言葉の一つでも囁きなよ」

「な!?ウェーブとは、友達なのに…」

「ウェーブはそう思ってないかもしれないだろ?」

「………」

 絶句し、ナパームは唸りながら手で顔を覆う。

「なんだい、コイビトはいらないのかい?」

「そういうわけでは…」

「ウェーブと話してみればいいよ、その方が手っ取り早い」

「むむ……」



   ****



(また逃げてしまった)

 ウェーブは部屋の隅で蹲って頭を抱えていた。

(ナパームに変だと思われてるよな、もしかすると愛想をつかれてるかもしれない…)

 涙が出てくるともう止めることも出来ず、ぐすぐすと泣き始めてしまう。

「…あのさ、他所で泣いて欲しい」

「ふぇ…?」

 天井を見上げるとグラビティーが張り付いていた。

 彼は重力を操作する装置を身に着けているのだが、それを私物化して個人使用ばかりしている。

「だってこの部屋誰も来ないし…ぐすっ」

「ボクも人が来ないからこの部屋で寛いでるんだけど!」

 極度の人嫌いと極度の人見知りの対立である。

「いいじゃん、お前上で俺が下で」

「ボクが嫌なんだ!何さっきから泣いてんの!?気分が悪くなる!!!」

「ナパームに嫌われたかもしれないと思ったら…」

「うっわ、ボクそういうの興味ない」

「なんだよ、じゃあ聞くなよ」

 ウェーブは腕で顔を隠しながらまたぐすぐす泣き出す。

「……」

 グラビティーは不機嫌そうな顔で床に下りた。

「ねー。ナパームってアレで結構優しいからウェーブのこと嫌いにはならないと思うよ」

 わしゃわしゃ髪を撫でながら言う。

「君が人を好きになるのってイイコトなんじゃないの。ボクがいうのもなんだけど。」

「あ…オレ、ナパームのこと…好きなの…?」

「違うの?」

「…なんか、ナパーム見てたら、あの時のこと思い出してきて…。

 最初のころは気にしてなかったのに最近ずっとそれで、頭の中おかしくなったのかなって」

「それは……ただの欲求不満じゃねーの…」

「……」

 ウェーブは顔を赤くして手で覆う。

「溜まってるんだよウェーブ…。ナパームに抜いてもらいなよ…」

「うぇぇぇぇぇぇ…」

「だから泣くの止めろってば。大丈夫大丈夫、ナパーム優しいからお前の言うこと聞いてくれるって」

「変態に思われるだろーがっ!!!!」

「言っとくけど、お前ちょっとどころかかなり変人だからね?」

「えぇぇぇぇぇぇ!!!?」

「当たり前だろ!すぐ泣くわ人見たら嫌いすぎて殺しにかかってくるわ!

 そんなお前がナパームに欲情したって別に皆おかしいとも思わないさ!もともと変だもの!」

「うわぁぁぁぁん!!!!」

「別に嫌ってないから安心しなよ。ついでに言うけどボク以外みんな変人だから気にすることもないし」

「そうかなぁ…お前もかなり変……ぐすっ…」

「……」



   ビターンッ



 重力操作で天井に貼り付けられるウェーブ。

「痛ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

「口を慎みたまえ…」

「ご、ごめんなさいぃぃぃ!!!!」



    *****



「ウェーブ!捕まえた!!!」

「ふぇう!!!?」

 ものすごい勢いで走りこんできたナパームにウェーブは抱きしめられる。

「話がある、ウェーブ」

「ひっ…お、オレも話が…あるん、だけど…」

 ビクビクしながらナパームに答える。

「さっさと連れて行ってよナパーム」

 シッシッと手で払う仕草をしながらグラビティーは言う。

「俺の部屋でいいか?ウェーブ」

「うん」

 頷くウェーブを抱きしめたままナパームは移動し始めた。






 そしてナパームの部屋にて。

 二人はいつもどおりにソファに座っていた。

「逃げていた理由を教えて欲しいんだ…。

 言いたくないならいい…しかし俺に悪い所があったんだったら治したいと思っている。」

 俯いているウェーブに話しかけるナパーム。

「う、うぅ…」

「ウェーブ」

「あの、オレ…ナパームのことで頭がいっぱいになって…。

 お前を見たら思わず逃げちゃって…」

 ウェーブは涙目になりながらナパームを見上げた。

「変だろ、オレ…」

「いや、変じゃないと思う…俺も、その…ウェーブのことは気になる方だ」

「…じゃ、じゃあさ…キスとか…したいって…おもったりとか…」

 ウェーブは耳まで真っ赤になり、そのままナパームからジリジリ離れようとする。

 ナパームはウェーブの腕を掴んで引き寄せ直す。

「やはり、ウェーブは俺のことが好きだったのか…ごめん、気づかなくて。

 俺たち友達だとばかり…」

「ひぁぁぁ!!!?好き!!?うん!!!????友達!!!!!!?

 うあぁぁぁオレ気持ち悪いだろ、こんなオレがお前のこと好きとか、そういうの考えるの!!!!」

「いや別に気持ち悪いとは思わないが。

 むしろ俺でいいのか?こんな俺だぞ?銃しか知らない男だぞ?」

「ナパーム、優しいから…いい……」

 ぼろぼろと涙を零し始める。

 ナパームはそれをぐしぐしと手で拭ってやりながらそのまま顔を引き寄せてキスをする。

「っ…」

 ビクつくウェーブのその手を掴む。

 ナパームの素手は銃を握るせいでごつごつしていて柔らかさはない。

 手は硬いのに、舌は柔らかくて―――

 脳の芯が痺れるような感覚。

 前のときはクスリのせいでぼんやりとしか感じなかったのに今は鮮烈に痛いほど感じる。

「ぅぁ…ぁぁ……ナパーム…」

 ウェーブはナパームを押しのけて体を離す。

「う、ウェーブ?」

 焦るナパームだが、ウェーブの顔を見て動きを止める。

 顔を真っ赤にし息を荒げるその表情、あの時の…最中に浮べていた表情にそっくりだ。

「かわいい…」

「か!?かわいい!!!?オレが!!!?」

「ごめん、思わず…。」

「ナパームの方がオレなんかよりずっと綺麗だし強いし何でもできるし…」

「なんで俺と比べるんだよ。俺はお前が可愛いと思うんだ、誰と比べてとかじゃなくてな」

 ナパームは微笑んでウェーブの頭を撫でる。

「…ナパーム、あの、あのな…」

「ん?」

「これから、キスとか…してもらっても……いいかな……たまにでいいんだ……」

「構わないぞ。好きなときに言え。キスぐらい何回でもしてやるよ」

「うん…」



   ****



「ナパーム、彼氏が貴方を見ていますが」

 クリスタルはナパームに声をかける。

 ナパームが振り返ると物影からウェーブが覗いていた。

「なんだウェーブ、声かけてくれてもいいのに」

 ナパームはウェーブのもとへ歩み寄る。

「あ、あぁ…その…がんばる…」

 顔を赤らめながらしどろもどろ呟くウェーブ。

「ナパーム…ご飯は食べたか?あのさ…まだならさ…オレと…食べたりとか…」

「いい!いいぞ!作戦以外で他人とご飯食べるの初めて!!!!!」

「よ、良かった……」

 めちゃくちゃ喜んでいるナパームに少し安心するウェーブ。

 自分でも大変勇気のいることだったから余計に緊張したのだ。

「片付けてくるからちょっと待っててくれ!!」

「うん…」





「……まどろっこしいやつらですね」

「いいんじゃないの、彼ららしくて…。

 あの微妙な距離感とズレは彼ららしいよ。とっても」

「もっとくっつけたくなるじゃないですか。

 ナパームに色々教え込みましょうか」

「ナパームは物覚えが早いからねぇ。ウェーブ死んじゃわない?」

「絶頂の果てに死亡?なにそれ恐い」

「やりかねない。君もやりそうだけど」

「私は加減しますよ…」

 クリスタルとスターは二人を眺めながら言いたい放題だった。




END