最近解ったことだが、彼女はとても大食らいらしい。 元々男から生み出された生命体だからだろうか、いやしかしそれでもよく食べる。 「ジャイロのサンドイッチが美味しかったんです、また食べてみたいな」 食後のデザートを食べながら波子はいう。 彼女の記憶は元の人間の記憶で彼女自身の記憶ではない。 こうやって懐かしそうに話していながらも彼女は口にしたことなどないのだ。 それでもこうして語ってしまうのは寂しいからだ。 「どんなサンドイッチだ?」 「お肉とサラダがこう、ぎゅっと…」 「ふーん。」 身振り手振りで教えてくれるのだがさっぱりわからないパイレーツは適当な相槌を打つだけにした。 後日ナパームから聞き出せばいいことだ。 DWNは気に入らなかったパイレーツも今ではかなり心を許せるようになった。 波子の面倒をみるようになってからそれが表面にまで出て来ている。 波子の方もかなり穏やかになった。 こうして会話をしてくれるようになったのは諦めからなのかそれとも親しみからか。 (…前者だろうな) パイレーツは目を細める。 目の前の女を一生面倒見ると心に決めた。 いや、彼女の一生が費えるまで…といったほうがいいかもしれない。 彼女達、キングから生み出された生物たちの寿命はまだわかっていない。 人間と同等か、それ以下か――― キングにも解らない。 泡になって消えるだなんて人魚姫みてーな話だな、なんて笑ったがパイレーツ自身、内心では複雑であった。 キングの組織で生身なのは一部の人間だけだ。 あとはキングが実験的に生み出した生物たち。 「……」 波子は目を伏せてミルクを入れたコーヒーをスプーンでかき混ぜている。 「パイレーツ…貴方は私の何になりたいの?」 「……逆だろ。お前が俺のモンだ。キングの所有物じゃなく俺だけのモノ」 「キングから渡されたのではなくて?」 あぁ、目の前の女は人魚姫ではない。 裏で生きてきた男の記憶を持つ女だ。 パイレーツの右目右腕を奪っていたことを知っても「任務だった」と興味なさげに呟いた男から生まれた――― 「……この場で言って欲しいのか、公共の場で。まぁそれなりのレストランだ、そういうシチュエーションなんてざらにあるだろう」 「…!?」 ハッとする波子。 そしてカァーっと顔を赤くさせる。 「ちょっと、待ってください!!」 「いいや言うね。愛してるウェーブ」 「こ・こ・で・言・わ・な・い・で!!!」 思わず立ち上がる波子。 その勢いで椅子が倒れて周りの視線が集まる。 「お前は俺にとって輝く宝石だ、それなりに俺にとって価値がある。 解ったか?俺はお前を一生面倒見てやる、愛情を込めてな」 「うっ…うぅーーーー!!!」 「結婚指輪をご所望か?あるぞ?」 カラカラ笑いながらパイレーツはどこからとも無く指輪を出してくる。 「どうせ!盗品でしょ!?」 波子は涙ぐみながらそう叫ぶと飛び出して行く。 「えぇい面倒のかかる女だ」 パイレーツは息を吐きながら立ち上がった。 **** キングから何を吹き込まれたのかはわからない。 無理矢理抱かれたとき、恐かった。 しかしあれは、あの感じは…ただ私が憎かったわけではなく、きっとあれは――― 彼は私に居場所をくれようとしていたのだ 「いたいた」 パイレーツの声。 路地裏の塵置き場の横に隠れるように座り込んでいた波子に歩み寄る。 「お前なぁ、その服いくらすると思ってんだ」 「貴方が勝手に買ってきた服の値段なんか知りません。」 プイっとそっぽを向く波子。 「いっとくかテメェにやってるのはお古じゃねーからな?全部買ってんだ。 まぁ金はクリーンかどうか言われると困るがな…」 波子の頭にぐりぐりと指輪を入れた箱を押し付ける。 「やめてください」 「その指輪やるよ、コトバよりカタチがあったほうがすっきりするんだろ?」 「それは貴方じゃないんですか?」 「俺に口応えできるのは嫁の特権だからな?」 「……」 パイレーツは波子の左手を持ち上げて、薬指に指輪を通す。 「青い石…」 「海好きだろ?」 「貴方も…」 波子は顔を伏せる。 「私の面倒を見てどうするんですか。私のせいで貴方の人生はぐちゃぐちゃです。」 「何言ってんだ、海賊の人生なんぞ知れてる。 それに俺はキングに見せ付けたいんだ。お前と子供作って人生を全うして――― お前も、キングも俺と同じ普通の人間だってさ」 「…」 パイレーツに手を引かれ、波子は立ち上がる。 「服買い換えようか」 「洗えば十分です!前から思ってたんですが貴方の浪費癖どうにかならないんですか」 「そうか?普通だぜ?」 「感覚おかしいですよ!」 波子はパイレーツに寄り添う。 お互い右腕が義手だ、手を握り合う代わりに波子は左手でパイレーツの服を握る。 「パイレーツ」 「あぁ?」 「私の居場所になってください…」 「…よろこんで」 END |