注意
波子さんはウェーブさんを元に作られた子です。



 キングの住んでいる研究所は広い。

 機材置き場の部屋もいくつかある。

 部屋というよりは倉庫と表現した方がいいかもしれない。

「あ、あの…本当にこんなところでするんですか?」

 薄明かりの中、怯えた表情で呟く波子。

「お前、部屋でヤってみろ…絶対邪魔が入るだろうが。見られたいのか」

 パイレーツは答える。

「う、うぅ…それは、まぁ…でもここも人が…くる」

「こんな奥まで来ないだろ。」

「きゃうっ!」

 抱きしめられて悲鳴を上げる。

 彼女とこういう関係になったのはパイレーツが無理矢理抱いてからだ。

 ウェーブを蘇生するときに生体データを取った、つまり複製を生み出すことができる状況だったのだ。

 そしてキングは研究のために本人に黙って作り上げた。

 悲しいのはパイ子同様オリジナルの記憶を持っているということだ。

 彼女はあの傭兵団である意識と、自分が作りだされた生命体だという意識の二つを持っている、

 不安定な状態になってしまった。

 帰りたいのに帰れない。

 あまりにも可哀想に見えてしまったのだろうか、パイレーツは繋ぎとめようと思ってしまったのだ。

 彼女をここへ。

 キングに色々吹き込まれたせいもあるかもしれない、聞かなければよかったかもしれない。



 否。



 今思い返すと、自分が置いていかれそうに感じてしまったのかもしれない。

 彼らに置いていかれて自分だけが残るのは非常に、悲しい。

 手を伸ばして届く距離にいたのが彼女だけだった、ただそれだけなのかもしれない。

 自分のエゴを彼女にぶつけてしまっていることに少し罪悪感を感じている。

 彼女もきっと自分を嫌いに思っているに違いない。

 ただ自分は純粋な人間で彼女は作り物だからこうやって大人しくしたがっているだけなのかもしれない。

「あっ…んっ…あぁっ!!!」

 貫かれ声を上げる。

「もっと声出してもいいんだぜ?」

「や、ぁぁ…」

 首を振る。

 彼女の仕草はなかなか、気分をサディスティックにさせる。

 緊張で強張っている脚を掴んでより深く突きはじめる。

「ウェーブ…」

「ひぅっ!」

 キスをしてやる。

 あぁ全部奪いたい。

 心までもだ。

 形だけの繋がりよりもっと先へ―――



   *****



「はっ…はぁっ…」

 波子は顔を涙で濡らしながら息を切らしていた。

「ま、また奥にっ…出してっ…なんで…ぐす、も、抜いて…」

「わぁーったよ、泣くなチクショウ…ん?誰か来る」

「ひぃ!?」

 パイレーツは波子の口元を手で抑える。

(ぬ、ぬいてぇ!!)

 波子は訴えようとしたがもごもごと呻くことしか出来ない。

「グランド、大丈夫かい?」

 やってきたのはパイ子と大荷物を抱えたグランドだった。

「っ…!………!!」

(…うわ、こいつ感じてる)

 波子が目を閉じてガクガク震えているのだが、パイレーツのナニをくわえ込んでいる部分がきゅんきゅんしている。

 こういうのに弱いのだろうか。

 ただ見られたくないだけなのかもしれないが。

「さてどこに置こうかねぇ?まーどこに置いてもいいか、もう使わないだろうし」

 パイ子が周りを見回しながら呟いている。

 ちょっとイタズラ心が芽生えた。

「ッ!!?」

 腰を動かすと波子は目を見開く。

「ッ!!!!ッ!!!!!」

 腰の動きにあわせてビクッビクッと痙攣を起す。

 抵抗のつもりなのか波子は脚をパイレーツの腰へ絡ませ動きを封じようとする。

「孕んでもしらねーぞ」

 耳元で囁いてやると波子は耳まで赤くなってガクガク震えだす。

 腕を両手で握り締めてくるのだが、片方鋼鉄の義手だ、割と痛い。血が滲んでるかもしれない。

 子供が出来てもいいかなと思っているが、それは自分の勝手な思いだろうか。

 産むのは自分ではなく波子なのだし。

「おつかれグランド」

「あぁ、戻る」

「あいよ」

 出て行くグランドを見送るパイ子。

 そしてパイ子もここから出…るはずなのだが足音は大きくなる。

「何やってんだいアンタら」

 覗きこんでくる。

「見てわからねーか邪魔すんな」

「また強姦かい?」

「今度は合意の上だ。ほっとけ」

 パイレーツはパイ子が苦手だった。

 自分の記憶を持っているからだ、つまり自分の手の内を見通しているということになる。

 自分がどう自分自身を取り付くろうとその皮を破いてくるのが彼女だ。

 無論、自分自身なのでそんなことはしに来ないが…。

「んぅ…いや、あかちゃんできちゃうっ…!いや、いやぁ…!!」

 ウェーブから手を離すとそんなことをいう。

 そこまで嫌か。

「強姦じゃないか」

「ちげーよ!!!お前も嫌がってるならさっさと脚外せ!!」

「うっぅ…力、抜けない…」

「めんどくせーーーー!!」

 パイレーツは波子にキスをしながら愛撫を始める。

 落ち着いてきたのか波子は脚を緩め、パイレーツは身体を離した。

「うっうぅ…パイ子に見られた」

「気にしなくていいよ、あたしはコイツから出来てんだし」

「身も蓋もないな」

「ねぇウェーブ、アンタなんでこいつとヤってんの?」

「……」

 波子は眉を顰めて虚ろな目でパイ子を見る。

「…パイレーツが、するから」

「でもアンタならこいつの首でもなんでもヘシ折れるじゃないか」

「……わ、わたし…」

 波子は俯く。

「ナパームが好きだけど、あそこには戻れないし、戻ったってナパームとオリジナルを不幸にするだけ。

 ナパーム優しいから私に優しくする、けど、それじゃオリジナルがあんまりだ…。

 私、オリジナルの記憶もあるから…私…オリジナルとナパームの仲をぐちゃぐちゃにしたくない…。

 どうしたらいいんだろう、私って考えてたらいつもパイレーツが。

 パイレーツは…私のこと憎いだろうし…抵抗する理由が、ないよ……」

「えっ」

「………あー」

 パイレーツとパイ子は顔を見合わせる。

 彼女に蘇生後のウェーブの記憶はないのだ。

 迂闊だった。

 彼女はパイレーツを嫌っている以前より、「パイレーツに重傷を負わせてしまったから憎まれて当然だ」という考えしかないのだ。

 それは蘇生後にウェーブと和解したので解決したつもりでいたのだが、波子は違う。

 彼女はウェーブが一度死ぬまでの記憶しかないのだから。

「誤解してるよ、コイツはさぁ、アテツケに女を手篭めにするやつじゃないって。

 あとコイツとウェーブは一応決着ついてるし」

「えぇっ!?」

「んー、要は…アンタのことほっとけなかったんでしょ。ねぇー?」

「う、ウルサイ…ヤメロ…」

「いい人だったの?パイレーツ」

 噴出すパイ子。

「お、おまえっ…他人事みたいに笑いやがって!!!」

「あたしはアンタと違って割り切ってんだよ、あははははっ!!!!」



  *****



 夢だ、記憶の断片。記憶のツギハギ。

『―――メザメタ カイ』

 血まみれのキング。

 あぁ、重傷の俺を、処置したせいで白い服が汚れてる。

『ウデ ガ ―――』

 目が見難い、片目がなくなっていたのだそうだろう。



『君には話していいかもしれない。私は彼らと同様、試験管の中で育ってね』

 虚ろな目だった。

『オトウ サ ン コエ ラレ ル カ ナ ――――』

 キング?



『彼らの寿命は人間と同等なのかわからないね』

 一番聞きたくなかった言葉。



『肉体が残ればいいが、細胞組織が崩壊して泡となって消えたりするかもしれないね。ロマンティックかな?』

 やつらはお前の家族ではないのか。



 あぁ、そうだ、きっとキング自身もそうなる可能性があるから、そんな軽く言う―――



 置いていかれるこちらのことなどお構いナシだ。



 そんな余裕も、ないのか。





 目を開く。

「おはようございます」

 波子がいた。

「…なんでいるんだ?」

「パイ子さんが起せと…」

「あ、そう…」

 モリを片手に言う波子にそう返事を返すしかなかった。

 そうか、それで突いて起そうとしていたのか。

 危ないところだった。

 身を起すパイレーツ、そしてそのまま波子を抱き寄せる。

「あ、あのっ!?」

「お前、ココを居場所にしちまえよ、なぁ」

「えっ…」

「俺も、居場所なんてない生活だったけどココを居場所にして楽になったよ。

 めんどくさいこと多いけどな」

「……」

「一緒に暮らさないか?」

「順番が、逆ですよね」

 ムっとした表情でいう波子。

「何が?」

「普通、告白してから!愛を確かめあうでしょう!!?」

「はぁー?海賊にそんなこというかお前」

「とにかく考えさせてください!まだ、キモチの整理がついていないんです…」

「そうかよ」

「…」

 波子は目を閉じる。

 あぁ、殻に閉じこもられた。

 パイレーツはため息を吐きながら波子の頭を撫でる。少し意地悪で乱暴に。







END