「ふん、技術は我々のほうが上なんだ、ハッキングなど造作もない」

 アースはぶつぶつ言いながら端末と処々パーツを取り出し床に並べていた。

 目の前にはデューオ専用の調整カプセル。

 培養液に満ちたその中にデューオが眠っていた。

(不可視レーザーで直接接続できないのが忌々しい)

 アースの能力の一つである目に見えないレーザーは脳に直接繋がり、思考を書き換える能力がある。

 しかしなぜかデューオに繋がろうとすると弾かれるか、精神感応を起こしてこちらがトランス状態になってしまうのだ。

 なので地球で学んだこの技術「アナログ接続」を行おうとしていた。

 彼はデューオと接続しなにをしようとしているのか…興味の沸く話題であるが、実際のところ今からただの

 嫌がらせをするだけである。



     ****



「ここは…?」

 デューオの意識は何もない空間で覚醒する。

「違和感を感じる…?自分の領域が自分のものでないような…」

 ぞわり、と全身に悪寒が走った。

 その瞬間、身体が拘束されるように硬直し動かなくなる。

「うあ!?」

 そして『何か』が撫で回すように全身を這い始める。

「な、んっ…!?」

 知らない感覚だ。

 今まで味わったことなんかない。

 そして不快感を感じないことに焦りを覚えた。

『構築完了』

 聞き覚えのある声とともに空間の雰囲気が変わる。

 歪み、色がついていく―――

「!?」

 見知らぬ部屋のベッドの上にデューオは両手両足を拘束されて大の字に縛り付けられていた。

 そんなデューオを浮かびながら見下ろしているのがアースだった。さっきの声の主もこの男だ。

「何の真似だ…?」

「随分だな。まずは挨拶からだろう?折角部屋を作ってやったのに」

 見ろこの装飾品にの細部まで拘ったデザインを…とぶつぶつ言っている。

 ただのデータなのにそこまで拘ることに意味があるのかとつっこみたかったが言葉を飲み込む。

 自分の領域であるはずのこの場所をヤツは「作った」といった、つまりデータを書き換えるか何かしてきているのだ。

「…目的はなんだ?私を洗脳する気か?」

「それも面白いな。しかし貴様の神経を弄ることしか出来んよ」

「そこまでは出来るのか…この空間で私を弄る、と?」

「あぁ、神経を切ることは出来ないぞ、私が全て掌握している」

「くだらない。痛みで屈すると思っているのか…」

「あん?」

 アースは眉をしかめ首をかしげる。

「痛み…?あぁ、認識が違うのか。セックスするだけなんだけど」

「…は?」

「まぁ最初は痛いかもしれんな、はっはっは」

「酔っているのか?」

「酔ってない!!!貴様のだらしない表情を見て嘲笑いたいだけだ!」

「酷い趣味だ…どっちみち酔っている」

「うるさい!君はいちいち私の神経を逆なでしてくるなぁ!」

 アースは何もない空間にあるパネルをタッチでもするかのような動きをする。

「うっ…!?」

 再び全身に悪寒が走る。

「どうも快楽を君の脳はまだ快楽と飲み込めていないようだな…

 もう少し…あ、そうか私のデータも混ぜれば…どう?」

「ひぅっ…!!!?」

 ガクガクと四肢を震わせ仰け反るように跳ね始める。

 電流が走り抜けるような感覚。

 全身、ではないが、何かしらのポイントからの刺激に身体が耐え切れず跳ね上がり、そして声が漏れる。

「いい反応をするじゃないかデューオ」

「や、やめっ…!」

「耐え切ってみせろよ」

「うぐっ…うぅぅ…!!」

 デューオは拳を握り締め、歯を食いしばる。

「あははは、ねぇねぇこれはどう?」

 ぞくり、と強い刺激が全身を襲う。

 下半身が疼く感覚がもどかしい。

 もどかしさと刺激が混じって涙が溢れてくる。

「あ、あっ!?あぁぁ…!!?」

 目を見開いて悲鳴を上げてしまう。

「そして、こうだ…」

「んぅっ…あ、うぁっ…あ、あっ…」

 見えない何かが、口内に挿入されるような感覚。

 これは『舌』だと認識すると、ぬるぬるとした感覚と暖かさも感じ始める。

「あっ…おっ…んぁ…ぁっ…ぉぉっ…」

「ふーん、口塞がれて無いとそんな感じになるんだな」

 気づかぬ間にデューオに覆いかぶさっていたアースは彼の顔を掴み、呟く。

 デューオの表情はまるで泣きそうな表情そのもので、自由が利かないらしいその舌はだらしなく口から出て、

 何も無い空間で『何かに』蹂躙されているかのごとくピクピクと控えめに震えていた。

「ちなみに舌の長い…ネプチューンタイプの舌だとこうなる」

「ッ!!ぉごお…!!!!」

「あはは、喉の奥まで気持ちいいだろう?」

 はぁっはぁっ と荒い息遣いをして空気を求めながらも、

 おそらく『喉の奥まで犯される快感』と『息苦しい苦痛』というデータに襲われていことだろう。

「っ…」

 ガクン、と力が抜けるデューオ。

「キスでギブアップか?あはは、終わらせないけどな」

「んぅ…」

 今度はアースがデューオの唇をキスで塞ぐ。

 デューオの目は熱で虚ろいで、普段の彼の面影は無い。

 舌が触れ合うだけでデューオは呻き、体を震わせる。

「ダイレクトに快感を得ているもんな…実際の身体にこんなことしても反応ないだろうなぁ」

 いいながら胸に指を這わせ、突起したそれをぎゅっと摘む。

「ひぃっ!」

 顔を歪ませ悲鳴を上げるデューオ。

「痛い?キモチイイ?片方でこれだけの反応、面白い」

「やめっ…アース、やめろっ…!知らない、知らない感覚が!知らない…!!!」

 涙を流しながら訴えるデューオ。

 それもそうだろう、他人のデータを直接脳に流して自分の感覚のように感じさせているのだから。

「お前も泣けるんだなぁ!あははは!面白〜い!!!

 わたしさぁ、お前って感情が欠落してる作り物だと思ってるんだけど実際どうなんだ?

 哀しかったり怒ったり楽しかったり気持ちよくなったりするの?なぁ、神サマだったからそういうの必要なかった?」

「…」

 キッとデューオはアースを睨む。

「おお、そういうところが気に入らない。

 まぁいいよ…オモチャにさせてもらうから」

 アースは身を起こして悪い笑みを浮かべる。

 視界が暗転する。

 身体もさっきの状態から動かされている。

 目隠しをされていることをまず認識した。

 そして両腕はそのままで両足が持ち上げられ大きく広げられて棒を挟まれベルトで固定されている。

「まぁ今日はデータのやり取りだから視覚情報は重要ではないんだが雰囲気大切だよな」

「んぅ!?」

 腰を震わす。

 ぬるぬるしたものを秘所にかけられ、指が(誰のものなのか)中に潜り込んでくる感覚。

 さきほどのもどかしさの感覚も手伝って、腰が浮く。

「いい反応」

「ッ…」

「どう?キモチいいか?なかなかいい反応をするヤツのデータを使っているんだが…

 ね、気持ちいい?」

「ひっ!?」

 ある場所を触れられたと認識した瞬間、デューオは声を漏らしてしまった。

「あ、ん!? いや、ひぅッ…いやっ…!!!そこ、やめ、アース…!アース!!!

 とまら、ないっやめ、これ、とまらない…!」

「そうそう、入念に弄って遊んだときのデータだな。あいつもそうやって悦んでいたな」



 ―――こわい



 デューオの感情にふっと浮かんでくる。

「こ、わい…これっはぁ…こわいっ…」

「え、ホント!?」

 嬉しそうに食いつくアース。

「おね、がいっ…やめて、くれ…っ!データが、あわな、いっ…!」

「感じすぎてるだけだろう、うふふ…そっかー怖いかぁ…」

 悪い笑顔をしているのだが、視界を塞がれているデューオにそれはわかるはずもなく。

「あっあぁっ!?あひっ……で、でる…?なにか、出て……」

「あぁ、射精だろう?あぁお前まだそれつけてなかったな…また今度つけてやるから」

「うっぁぁ…!」

 身を震わせながらデューオはベッドに沈む。

「はぁ…はぁ…」

「デューオ、まだまだ終わらないのにそんなにへばってて大丈夫か?」

 手錠の拘束を解き、アースは息の荒いデューオを抱き起こして後ろから抱き込むように身体を支える。

「ひっ!?」

 アースの腕の中でデューオは息を呑む。

「や、あっ!?なに、うあ、ぁぁぁ!!?」

 指とは違う質量のモノが潜り込んでくる。

「あぁぁぁぁ!!?アース、アースぅぅっ!!!!」

「わたしに犯されているデータの味、気に入ってくれてるかな?」

 目隠しを外す。

 耳まで赤くなり、泣きじゃくりながら身悶える彼を可愛く思える。

 こうしてみると、我々と変わらないような気もして―――

「ハッ…ハァッ…!あぁっ…んぁぁ…」

 また見えない何かにキスをされているのか、口を開いて舌を垂らしはじめる。

 過去経験したデータをトレースさせているわけだが、少しムっとしてしまう。

 アースはデューオのその長い耳の先端に軽く歯を立てる。

「!!?」

 デューオの視線が後ろのアースへ向けられるが、身体が硬直してしまっている彼はそれ以上の動きが出来ない。

 腕は見えない相手を掴もうと勝手に宙を彷徨い言うことをちっとも聞かない。

 脚は拘束具に痛いほど食い込み振るえる。

 はむ、はむ…と甘噛みをし始めるアース。

「…ッ…〜〜ッ!!」

 声にならない悲鳴を上げるデューオ。

 流れる涙の量は増え、口端から垂れる唾液も同じく量を増す。

「気持ちいい…?デューオ、気持ちいい…?」

 アースはうっとりした表情を浮かびながら、甘い囁きで問いかけながらデューオにキスし始める。

 その手はデューオの身体を撫で回す。

「アーっ…ス、接続を、やめ…お前の、感応が、強くなって…頼む、もうわたしの中から出て…」

「いや、きもちいいからここにいる…」

「アースっ!…君じゃ、なくなる!」

「いや!君の中にいる!君もきもちいいだろ!」

 全ての拘束具が消滅し、デューオは開放されるがアースにうつ伏せに押し倒される。

「うあ、アァァ!?!」

 直接アースのナニがデューオの中へ潜り込んでくる。

 擦れ合う度に痺れるような、痛いような強い刺激が襲う。

 アースは逃げようとするデューオの腰を細い腕で押さえ込み、獣のように腰を動かす。

 誰のデータなのか、それともエラーによる警告がこの刺激なのかわからない。

 この感覚が、気持ちいいと認識してしまう。

「うっ…うぅ…」

 恐ろしさを感じるデューオはシーツを握り締めて身を縮めて耐える。

 きっと、この恐怖心にアースは感応を起こしたのだ。

 アースはこれを「快楽」と認識して、酔ってしまっているのだ。

 もっと自分が恐怖を感じていけば、アースは自分の中に溶け込んでいくだろう。

 しかしこの空間を掌握しているのはアース。

 どうにかして正気にもどってもらうか、落ち着くまで耐えるしか―――

「アース…アース…」

 自分を落ち着かせるためにも、デューオはアースの名を呼ぶ。

「デューオ…ふふ、デューオ…」

 くすぐったく感じるアースの声。

「あ…デューオ…?」

 アースの動きが止まる。

「ッ……」

 飛び退く様に、アースはデューオから離れる。

 空間が無になっていく。

 全てが戻っていく―――



   ****



 アースが目を開くのとデューオが調整用カプセルから排出されるのは同時だった。

「っ…デュー、オ」

「ッ!」

 アースがデューオに飛びついてキスをする。

 お互い抱き合う形になりながら床に倒れた。

「クソッ、クソッ!」

「アー…ス!?」

「うるさい、黙ってろ!」

 擦り付けられる硬いそれにデューオは身を強張らせた。

「君と接続して嫌がらせしたかっただけなのに!君のせいだぞ!」

「興奮したということか?自分の不始末だろ」

「 う る さ い ! 」

「んぅ…ッ!」

 再びキスをされる。

 舌の動きが先ほどのやり取り…無理やり経験させられた刺激と酷似していて思わず追ってしまう。

(わたしも興奮しているということか…?)

「はぁ…」

 糸が引く。

 お互い酷い顔だろう。

 アースは苦虫を潰したような表情を浮かべ、そしてキッとデューオを睨む。

「このことはお互いに!秘密にしようじゃないか!!」

「まぁ周りに言いふらしてもお前の失態の話しかないしな」

「本当に犯すぞ貴様…!!!」

 悪態つきながら、アースは瞬間移動で帰ってしまう。

 本当に昔から…戦争時代から自由奔放な男である。

 アレで本当、リーダーが務まっているのが不思議なぐらいだ。

 アースが流し込んできたデータはおそらく、あの白い神官のものだろう。

 勝手に使われてることに同情しつつも、普段あぁいう体験をしているのかと思うと身体がゾクりとする。

 悪寒なのか、それともべつの何かなのか…今の彼にはわからないものだった。












END