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静堂さんと切が渡ってくる前の話
 ワータイガーはとある屋敷に辿りついていた。

 深夜だというのに屋敷は明かりが灯っている。しかし人の気配はなく、死臭が漂っていた。

 ほんの興味が沸いただけだ。

 ワータイガーは窓から中を覗くとそこはちょうど食事をする部屋だったらしい。

 長い長いテーブルに真っ白なテーブルクロス。

 その上には蝋燭が何本も立っている。

 人間はいなかった。

 そこにいたのは一人の男。

 優雅に赤い液体が入ったワイングラスを傾けている。

 その男とワータイガーは目が合う。

 ニコリ

 男は笑って手招きをする。

 がちゃん、と音がして窓が開いた。

「どうぞ、入ってもいいですよ」

「不用心ジャーン?オレお腹空かせまくってたら死体のお前でも食うよ?」

「死体…人をゾンビみたいに言わないでください。これでも立派なヴァンパイアです」

「ヴァンパイアねぇ…」

 ワータイガーはふわふわの絨毯を踏みしめて周りを見る。

 なんだか手入れが行き届いていて逆に怖い。

「吸血鬼の家って埃っぽくて薄暗くてじめっとしてない?」

「私、蜘蛛とか暗いのとか怖いですからそういうの嫌なんです。いいじゃないですか綺麗でも!」

「えぇー…」

「ところで招いておいて申し訳ないですけど、お肉がありませんね。」

「果物とかもないの?お肉よりそっちが好きジャン!」

「腐ってなければありますが、肉食なのにそちらの方がお好きなんですか…」

「獣人だって色んな好みがあるジャン!!!!」

 似たもの同士のようだ。

 そんなこんなで偏屈同士息が合い、二人はだらだらと日々を暮らすようになった。

 もともと名前が無い二人は昔こう呼ばれていたという流れからワータイガーは「切り裂く者(スラッシュ)」、

 吸血鬼は「陰に潜む者(シェード)」と呼び合うことにした。





 そうしてある日、屋敷を追われることになる。

 森の開拓が進んで人間に狙われたのである。

 二人はサッサと逃亡した。

 特にアテはないがどうにかなるだろうとゆるく考えている。




 ごとごとごと…と馬車は揺れる。

 リズムよく揺れていればいいのだが、整地されているわけではない道はたまにガタンと大きく揺れる。

「…」

 キチっと貴族服を着たスラッシュはそんな馬車の中にいた。

 向かいにはシェードが眠っている棺だ。

 人間が勝手に開けないように鍵をつけてあるし、棺にしては豪華な装飾を施しているのであらぬ誤解を受ける。

「次の街まで歩きかもしれないジャン」

『おや?スラッシュが馬を殺さなければこの馬車を使えばいいでしょう?』

 棺から声がする。シェードだ。

「我慢できればの話だろ?」

『我慢してくださいな。外は晴れてますか?』

「大丈夫、曇ってるし霧も出て来た。森も深いしマントで防げそうジャン」

『相手も都合の良さそうな条件ですね』

「野盗も大変ジャン」

 馬車が止まる。

 そして外から降りろという怒声が聞こえた。

 スラッシュは面倒臭そうな顔をしつつ馬車から降りると、御者と武装した男たちに囲まれていた。

 御者も野盗の仲間で、こうやって金を持っていそうな人間を襲っていたのだろう。

 スラッシュの了解も得ずに棺まで外へ出されてしまった。

 開けろと言われたのが癪だったので鍵を投げ捨てる。

 野盗の一人が拾って開きに行った。

(人間って可哀想…)

「なんだこりゃ!?…死体?」

 お宝だと思ってたらお茶目な死体しか入っていないのだ、かなりのガッカリだろうとスラッシュは思う。

 グチュっという音が聞こえた。

 周りがざわめく。

「ごきげんようみなさん!」

 めちゃくちゃ場違いな明るい声。

 しかし口元を血でベトベトに汚しているのだ。

「そしてさようなら、いただきます!私は貴方たちの血しか頂きませんけど

 骨も残さずスラッシュが食べますので安心してください粗末にはしません」

「いや骨は残すジャン」

 殺戮ショーの始まりだと言わんばかりに二鬼は蹂躙した。

「満足しました」

 シェードは棺に入る。

「死体って太らないから羨ましいジャン」

「いいでしょー。でも死体って呼ばないでください。ヴァンパイアです」

「はいはい」



「なかなかの強さじゃなおぬしら」



 身構えるスラッシュ。

 木の影から現れたのは学者風の初老の男だった。

「ワータイガーのクセに知性があるし、そっちのヴァンパイアは寝床を外に出している阿呆じゃ。

 面白すぎるのは強さの表れかただのバカじゃな」

「なんだ人間。たしかにシェードはバカジャン?」

「あの、私今自分の家探ししてるだけで好きでこんなことになっているわけでは…

 スラッシュよりバカっぽい認識されると困ります…」

「家か、ワシの家に来る気はないか?」

「えぇーなにこの人…」

「話は馬車の中でしてやるわい。こっちは歩き疲れとるんじゃ!

 おいワータイガー、街まで馬はしらせろ!」

「えーずうずうしいじゃん…」

「まぁ話だけでも聞いてあげます。スラッシュ、お願いします」

「はーい」



   ****



「そんな出会いをしたのが…何十年前でしたでしょうか…。

 猛黒様のお父上には大変振り回さ…いえお世話になりまして。」

「若って本当ご主人さまの性格完璧に引き継いでるジャン!」

 静堂と切はわいわいと昔話を六花にする。

「名づけもシェードだから静堂なんですよ、ふふ、適当ですよね好きですけど。」

「クラウはご主人さまのこと好きすぎジャン?」

 呆れ顔の切。

「若のお父上は今どちらに?」

「大陸の方でなんかやってるジャン。よくしらないけどたまに戻ってくる」

「戻ってこられても困りますけどね、猛黒様と喧嘩ばかりですから」

「仲がよろしくないんですか?」

「台風と台風がぶつかり合う感じジャン」

「大災害ですね…」

「周りがですね、酷いことになるので今の状態が一番いいんです…」
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