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学譚時空の平和なあれそれ
        
 奏は金輪に誘われ海に来ていた。初めての海外の海である。
        
         ついてきた巻と禄はニコニコしながら日除けのパラソルやシートを広げている。
        
        「禄…あの、除霊の手伝い…だったよな?」
        
         奏は困惑気味に禄に問いかける。どう見ても遊びに来てるようにしか見えない。
        
        「そうですね。一息ついたらお弁当食べれる様にしておこうと思って」
        
        「いいのかな…」
        
        「いいと思いますよ」
        
         横から女性の声がかかる。
        
         普段修道女姿のダリアだった。今日は水着になっている。
        
        「掃除が終わるとお腹がすきますから」
        
        「そう…?」
        
        「あ、奏さんは燃費いいですもんね」
        
         納得いかない奏に巻が気づいたことを口にする。
        
         そういうものだろうかと奏は思う。
        
         奏はあたりを見回した。まだ海は荒れていない。金輪を中心とした退魔師が集まっている状態だ。
        
         六道と並んで立っている金輪と、その近くで海を眺めている不王。
        
         聖騎士のダイは大剣を素振りしている。
        
        「説明があったかと思うんですけど、もう一度私からも説明しておきますね。
        
         スターリングさんはおかしくなってからおかしいことしか言わなくなったので」
        
        「金輪からは海開きのための除霊だと聞きました」
        
        「んーーーー」
        
         ダリアは唸りながら眉間にしわを寄せる。
        
         100%の説明ではなかったらしい。
        
        「この行為は数百年前に遡ります。ダイと幽霊船の船長との戦いが始まりです。
        
         船長は悪霊やモンスターをかき集めて物量で圧してきたのです、それをダイが食い止めるというのを毎年やりはじめて…。
        
         船長の侵攻に耐えれば終わりです。戦う意味ももう覚えてないんじゃないかしら、あのイカ…。
        
         昔は夜だったけど、量も時間も減ってきて曖昧になりました。」
        
        「昼はお天道様の力も弱って夜は月の魔力も落ちたから、個の実力での戦いになったわけですね」
        
         禄はそう呟く。
        
        「それってもう、ダイさんと船長が個人で殴り合えばいいんじゃ…?」
        
         眉をしかめながら巻が言う。
        
        「張り合ってるから…終わらないんじゃないかしら」
        
        「男の人って面倒くさい」
        
        「どうして金輪はその手伝いを?」
        
        「…お友達、だからそうよ。私たち前世の記憶は朧げなのですけど。彼は律儀で真面目ね。
        
         頭がたまにおかしいけど」
        
        「ダリアさんって金輪さんのこと嫌い?」
        
        「あまり好きではないわね…頭がおかしくなってるのもあの横にいるモンスターの瘴気のせいでしょう。
        
         あれの漏らす瘴気の掃除、わたしがしてるのよ…」
        
        「ガツンといってやればいいんですよ」
        
         巻は気楽にいう。
        
         ダリアがガツンとやってしまうと金輪がどうにかなってしまいそうだが。
        
        
「あんだけ走り回ってかき集められたのはこれっぽっちか…」
        
         海津は唸る。
        
        「王さまに悪魔召喚してもらえば~?」
        
         火精霊なのになぜか船がお気に入りの火焼がいう。
        
        「それはなんかちげぇんだよ!俺様の統率力を知らしめてあの聖騎士をいたぶらねぇといけないだろ!?」
        
        「……」
        
         なんでそうなるんだと思うのはこの中で唯一常識を持ってしまっている猛黒だ。
        
         彼はこいつらがやりすぎないよう監視役である。
        
         政と契約しているこの妖怪たちが無関係の人間に危害を加えると後が面倒になるためだ。
        
        「触手プレイはどうかと思うぞ」
        
        「しねぇぇよ!!!引くな!!!好きでこんな身体になってねぇんだから!!」
        
         叫ぶ海津。
        
         彼は陸地にいるときは人間の姿だが、船に戻ると半分イカの身体が融合しているようなモンスターになる。
        
         死ぬとき巨大なイカと殺し合いながら死んだから混ざってしまったのだ。
        
         混ざったからこそモンスターになっているのかもしれないが。
        
        「仕方ねェ、発進だ!行け野郎ども!!!」
        
         動き出す船に火焼はキャッキャッとはしゃぎ始める。
        
         船が好きな火精霊とは珍しいのかもしれない。
        
        「さっさと終わらせてくれよ」
        
         うんざりしながら猛黒は呟いた。
  
 
 
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