menu
まさかの赤嶺×海難法師です
俺にもよくわからない、ぜんぶ赤嶺がヤった。しかも鬼譚に収録した。
とある陣営の兵の中に赤嶺という男がいた。
彼の持つ火縄銃は撃てば外すことなく相手に当たるという噂が立つほどで、赤嶺は大層大切に扱っていた。
『戦か、主殿』
声が響く。それは赤嶺にしか聞こえぬ声。
数年前から聞こえるようになった声だ。
「おお、そうだ。今度の戦は少し大きいらしくてな。船で移動ぞ」
『船…』
「水が怖いか?安心せい、お前を海へ落とすことはない」
赤嶺はカラカラ笑う。
「また戦では頼むぞ。」
『無論』
銃はこの赤嶺が大好きであった。
心を宿したというのに気持ち悪がらずに受け入れてくれ、今まで以上に可愛がってくれる。
なので当然、主人に使われる銃として最高の務めを果たしたくなるのだ。
だから撃てば必ず一人殺した。どのように撃っても必ず殺した。
殺せば殺すほど主人は喜んでくれる。それは銃にとっても最高の喜びであった。
だからどんどん戦場へ行ってもらって、どんどん殺していかなくてはならない。
それに自分は銃だ、使われなくてはならない。
その点この主は安心だ、勇ましい主は進んで戦に乗り込んでくれる。
船の中でも赤嶺は銃を抱いて可愛がっていた。
このまま戦へ向かうのだと、呑気に主と雑談をしていたのだが、異変に気付いた時にはもう遅かった。
まず最初にバキリ、と重たく嫌な音が響いた。
皆その音にどうしたのかと顔を上げた、その瞬間―――
船はバキバキと大きな音を上げながら真ん中から折れて沈んだのだ。
「ああああああ!!!?」
『主殿!主殿!!!!』
赤嶺と銃も海へ引きずり込まれる。
『銃を構えよ、主殿!何かおるぞ!何かが―――』
銃は必死に声をかけるが、赤嶺はもがくばかりだ。
(鎧が、くそ、体が…息が…!!!!)
手から銃が離れていく。
「おや?お仲間も乗っていたのですか」
水の中だというのに嫌に鮮明な声が聞こえた。
霞む視界の中、赤嶺は見た。自分の銃を掴む法師の姿。
法師の手が伸びる。
人間の手ではなかった、人間の手の形はしているがそれは鱗のようなものやヒレが生えていて―――
赤嶺の首を掴んで引き寄せる。
それは腐りかけた魚のような、そんなバケモノだった。
しかし赤嶺はそれまでだった、一瞬首が、胸が、内臓全て目の奥までも熱いと感じ、そして焼ける!と思ったその瞬間
「っ!!!」
水中に赤い鮮血を吐き散らして仰け反っていく。
『主殿!!!!』
「え?貴方の主だったのですか?やっちゃったなぁ」
(……)
赤嶺は最後の力を振り絞って、銃へ手を伸ばすが届かない。
あぁ…こんなところで沈んでいい銃ではないのに
嗚呼…愛しき銃、お前だけでも戦にいって…あぁ連れていけなかった、ああ…悔しい
魂もこのバケモノに食われてしまうのだろうか、それなら自分(オレ)の銃に喰わせたい…
愛しき銃…お前に自分の名をやろう…赤嶺、今日からお前が赤嶺だ…
「魂はお返ししますのでこれでお相子ということに。ではでは」
法師はそういって銃をヒョイっと上へなげると、そのまま銃は勢いよく海上へ飛び上がり、そのまま岸へ落ちていく。
「さて…」
上を見上げる法師のその顔は、とても残酷な笑顔だった。
◆◆◆
『おいコラーーーー!!!錆どうにかしろ!錆をーーー!!!』
「どうしてるかと思って見に来たらこれだ、ほっとけばよかった」
法師―――海難法師は岸に転がっている銃を蹴る。
「実体化もできない赤子じゃないですか。ははは悔しいでしょう?」
『蹴るな!踏むな!!!』
踏まれてるところからもじわじわと錆が出始める。
『おい!やめろ本当に死んでしまう!!』
「柔いですねぇ…私と貴方、相性が悪いようです。」
『死にたくない…』
「私のいうこと聞きます?」
『聞く…』
「なら名前を教えてください」
『…赤嶺』
ニコリと微笑む海難法師。
「赤嶺、今から貴方は私の配下です」
『!?』
「よし、括ったのでもう貴方は私に歯向かえませんからね。さぁさぁ手当してあげましょう。
といっても、錆を止めるまじないしかできないのであとは貴方の成長しだいですが」
海難法師は赤嶺を直に触れないよう、袖で庇いながら持ち上げると、指先で赤嶺を撫ではじめる。
その指先からは不思議なことに赤い文字が入った札が生み出されて赤嶺の身体に張り付いていた。
「これでよし。実体化は出来ますか?」
『やったことないんだが』
「世話が焼けますね。他のものを焼き溶かしたい」
やれやれといった感じで海難法師は赤嶺に妖力を分け与えてコツを教える。
呑み込みが早いのか、赤嶺はすぐに人へ姿を変えた。
その姿は元の主の生き写しであった。
「これで動ける…おい法師!今から俺を戦場へ連れて行ってくれ!!!」
「はぁ????」
「主殿と約束したのだ、自分は人を殺さなくてはならない」
「あの、私は海の妖怪ですので戦とかいうのはちょっと…」
「途中まででいいから!頼む!自分お前の配下になっただろ!」
「面倒くさいの拾ってしまったなぁ…」
海難法師は軽々と赤嶺を抱き上げると海へ飛び込む。
そのまま沈むことなく、みえない船に乗っているかのように海上を走り始めた。
「いっぱい魂を狩ってくるから貰った妖力ぐらいは返せるだろう!」
そうして赤嶺は敵味方問わず、人間を狩っていった―――
◆◆◆
とある廃屋にて赤嶺と海難法師はいた。
法師は水気が近くにあれば陸でも活動できるらしく、赤嶺は少々ズルいと思った。
「助かった、えぇっと名前はなんというんだ?」
「海難法師です」
「いやそっちじゃなくて名前だ名前。」
「はぁ?教えるわけないでしょう?」
「そうか?じゃあ勝手に呼ぶ。蓑笠子(みのかさご)」
「……あの、誰にも言わないで下さいよ?」
法師は赤嶺に小さく耳打ちをする。
「ほう、慙愧(ざんき)というのか!」
「言うな!!!貴方ねぇ、もう少し名前を大切にしてくださいよ!」
「? わかったわかった」
「解ってない」
「でも友なのだから名前で呼び合わねば。慙愧よ、今日は本当に助かった。
もともとはお前が原因だが。…あ、妖力かえさないと」
赤嶺はグワシッと慙愧を抱き寄せる。
「え?え?」
「慙愧は初物だろうか?それなら優しくせねばな…」
「溶かすぞ…!」
恐ろしく低い声で慙愧は呟きながら赤嶺の顔を出て押しのける。
「誤解だ。自分は接触していないと力を別けれぬ」
「じゃあ結構です」
「遠慮無用。借りっぱなしもいかぬ」
「貴方の顔が好みじゃないんですよ、もっと薄幸そうな顔になってから出直してください」
「通好みだな。自分も蓑笠子は好みではないぞ」
「貴方ワザと言ってるでしょう…?」
「踏まれた仕返しだ」
「あっ…」
押し倒され口を唇で塞がれる。
(…!!???)
慙愧は恐ろしさを感じた。妖力を注がれているのだが…その、とてつもなく…気持ちが良い。
逃れたいが握りしめてくる手を溶かしても恐らく効果はないだろう。
(本体を…本体は…)
赤嶺の腰に本体の銃があった。
こいつを蹴り飛ばすしかない、そうすれば本体から離れたこの赤嶺は消える。
手は使えないので足を動かす。
しかし赤嶺にそれを悟られ…たわけではないようだが、何を勘違いしたのか慙愧の間に割り入ってより密着してきた。
(催促をしたわけじゃないんですけどねぇ!)
「ん、んっ…んんっ!!!」
(あ、あっ…?)
挿入されているわけではない、ただ赤嶺が下半身を擦りつけてまるで致しているかのように動いただけだ。
それだけで己の体が快楽に身悶えてしまう。
混乱した慙愧は本体を蹴り飛ばそうという考えがすっとんでしまい、その脚はまるでおなごのように赤嶺に絡んでしまった。
催促するように動いてしまう己の身体…。青ざめて赤嶺を見上げれば、赤嶺の笑顔がとてつもなく悪い笑顔だ。
―――仕返し、されている…
それに気づいた慙愧は、赤嶺を見くびっていたことに対して少々反省した。少々。
◆◆◆
「はっはっは生娘のような声を上げよって。気持ち悪かったぞ。自分の好みは美人顔だ」
「上げたくてあげてませんよ!!!!あげさせてんの貴方でしょ!!!」
ゼェゼェと息を荒げながら吼える慙愧。
「二人だけの秘密な~慙愧」
「騙されたような気分です…」
「でも妖力はたっぷり注いでやったぞ?足りぬか?」
「それはそれで、もういいんですけど…」
「しかし、やはり肉体が欲しいな…自分で自分を扱うのは、寂しいし妖力を食うのであまり腹の足しにならない。
…慙愧」
「使いませんよ」
「ケチ…」
「あ、雨ですね」
立ち上がる慙愧。
「海へ帰ります。まぁまた機会があれば会いましょう。
ま、お互い契りを交わしてしまっているので何かあったら解るようになっちゃいましたけど。糞が」
「たまに毒吐くのな。さすがミノカ…んん。
次に会うときは自分の姿は変わっているかもしれないが、いつまでもお前とは友だ」
「はいはい、それではお達者で」
慙愧は戸をあけ一歩踏み出すと雨に溶けるように消えていく。
「…」
赤嶺は自分自身を抱きしめる。
「…寂しいよ、主殿」
次の主となる輝美と出会うのは、まだまだ先の長い日のことである―――
top