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鬼譚収録
 牛鬼に与えられている空間は椿の木が生え一面椿の花に埋め尽くされた赤い空間であった。
 そこで牛鬼は椿を口にし日々を過ごす。
「―――…」
 甘ったるい声が、自分の真名を呼ぶ。
 ふわりと白い腕が牛鬼の体を抱きしめた。
「今宵は私と共に過ごして」
「いけません。貴女には白鬼が」
「でも貴方も私を愛しているでしょう?」
 土蜘蛛は牛鬼の頬に手を添えて、その美しい顔を近づける。
 いつの間にか彼女を見上げるようになっているのは、彼女の下半身が元の姿に戻っているせいだ。
 むろん牛鬼も元の姿に戻れば土蜘蛛と同じ大きさにはなる。
「沙汰の愛も夙夜の愛も、荒御魂の愛も…奏さまの愛も全部欲しい」
 あぁ目の前の愛しい姫は変わってしまった。
 儚さは身を潜め、しかし苦しんでもいる。
 傲慢な、妖怪の強欲な部分に苦しんでいるのだ。
 満ち足りぬことのない渇き―――
「……」
 牛鬼がみこを強く抱きしめると、みこは嬉しそうな表情で擦り寄ってくる。
 どのような姿(こころ)に堕ちてしまっても、彼女は愛しい姫なのだ―――
  
 
 
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