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ご飯事情
 奏たちは帝威家の夕食に招かれた。

 今日は咲が作ったものではなく専属の料理人が作ったようで召使たちがどんどん運んでくる。

「わ~~~~!」

 南蛮のものが好きな巻は目をキラキラさせている。

 何気に仕入れてきたという南蛮の着物(ドレス)を着せさせてもらっていた。

 ちなみに「お前の寸胴体型じゃにあわねーぞ?」と巻に言った猛黒はボコボコにされた。

「……」

 奏は居心地が悪そうにしているので大きな体が小さく見える。

「正法院さん、気を楽にしてください」

 禄が微笑む。

「猛黒はこうやって正法院さんを困らせて悦んでるだけなんですよ。」

「そうか、なかなかの趣味だ」

「権力者の特権だ、いい趣味だろう?」

 猛黒はにんまり笑っていう。

「…若の作法もなっていませんので正法院殿にドヤ顔する前に作法をきちんとしていただきたいのですが」

 やれやれと呟く六花。

「ともあれ正法院殿、客人を持て成すのは当主として当然の礼儀ですので遠慮せず召し上がってください」

「あぁ…」

 お箸が欲しい。

 禄がナイフとフォークの使い方を教えてくれるので見よう見まねで手を動かす。

 人の食べ物を食べられるものは限られているらしく、家来の中で一緒に食べているのは数少ない。

 勢いよく食べている猛黒と切。

 人っぽそうな柝はマスクを取ればいいのに片手で少し持ち上げて下から運んでいる。

 朧車の轟と雷神の咲は食事が必要ではないような気がするが、彼らは普通に食べている。

 六花はスープ皿を前にしているがその皿の中は氷と水しか入っていない。

 静堂は赤い飲み物(微かに血の香りがする)を飲みながら果物を摘まんでいる。

 残りの家来たち(竺と漆発)は食事が特殊らしく席につかずに召使たちと一緒に立っていた。

「美味しい~~~!」

「お前本当気持ちいいぐらい食べるよな…どこに栄養が消えてるんだ」

「猛黒!女の子に対してそれは失礼よ!」

「六花より色気づいてから言えよ」

「若、それはちょっと私も困るのですが」

 六花は何とも言えぬ表情を浮かべる。

「そういえば…前々から思っていたのだが、六花殿はなぜ女の格好を?」

 奏の問いかけに六花はため息をつく。

「好きでこのような格好はしていないんですよ?諸事情で雪女に喰われかけた話は聞きましたよね?

 雪女がもし私を探していた場合に対応するため女のフリをしているわけです」

「雪女は男が好きだからな。とりあえず女の格好しとけば見つけるのも難しくなるだろってワケだ。

 女のフリもいたについてきたよな六花」

「たまには男に戻りたいですよまったく…おや?正法院殿どうしました?お肉はお嫌いでした?」

「あ、いや…」

 奏は口ごもる。

「この、肉は…?」

「牛です。珍しいでしょう?」

「牛、なら…大丈夫かな…」

 ちまちま食べ始める奏。

「何の肉だと思った?こんな妖怪屋敷の食事だから人間の肉と思ったか?」

 目を細める猛黒。

「……お前達は人間は食べないのか?」

「……」

 奏の発言に皆静まる。

 気分を害したわけではない、猛黒の発言を聞けということだ。

 禄も巻も口を開かず黙っている。

 奏も猛黒をまっすぐ見る。

「静堂の主食は人間の血だ、切も人間の肉が大好きだ。でも血は必要な分を買ってくる。

 切は動物の肉でもいい。食べやしないが漆発の皮だって人間の皮をはぎ取ってるがこれも買えばいい。

 六花も本当なら人間の魂が必要だが、轟が勝手に妖力わけてやがるからなんとかなってる」

 轟の呻きが聞こえてくる。バレていないと思っていたのだろう。

「街の者だって代用でどうにかなってる。今のところはな。

 だが必要になってきたら街の外から買えばいいんだ。そうして街の中が上手く回ればいい。

 当主としては、街が円滑に機能すればそれでいい」

「街の中で鬼が生まれたら?鬼のために外から買うのか?それとも鬼を討つのか?」

「その時に決める。それを決めるのが当主の役目だからな」

 きっぱりと言い切る猛黒。

「だが帝威猛黒としては、こんな街いつか成り立たなくなるっていうのは解ってんだ。

 仲良しこよしでやっていってるが街にいるのはよわっちょろいあやかしどもばっかりだ。

 将来あやかしどもはこの街から消えるだろうよ。住めなくなるのは解ってんだ、人間様の天下だろうよ。

 …だがな、俺のオヤジはあやかしがこの世界を乗っ取ってもいいと思ってるし考えてる。

 この街はそれの試作品だよ。

 禄のオヤジはあやかしが住みやすい場所を探してる。そんな場所あるかもわからんけどさ。

 お前は禄のオヤジみたいに全体をみてるだろ?俺は狭い部分しかみねぇよ。多少の犠牲は出す」

「悪を見逃すと」

「お前からはそう見えるだろう。ここにいるあやかしたちは皆人間を一度は殺してる。討つか?」

「…討たねばならないのかもしれない。」

 奏は顔を伏せる。

「だが違うような気もするんだ…。討たねばならないと思うけれど、当主であるお前に委ねなくてはならないという気がする。」

「お前の腹の中に抱え込んでるもんは何だ?」

「…わからない」

「話になんねーな。まぁ俺の街のモンに手を出したら俺はお前を制裁する。それだけはおぼえておけよ?」

「…あぁ」

「制裁って…猛黒って奏さんに勝てるのかしら?」

「あぁ!?俺はつぇーよ!」
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