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プロット
鬼譚に司さんの文章で収録されています
猛黒の敷地内にある礼拝堂は小さいながらも立派なもので、教徒たちに開放している場所でもあった。
そこで猛黒は手を合わせて祈りを捧げる―――ように見えているが、熱心に祈っていることは「神殺す」という挑発である。
神というのはどの神に対して、というものもなく、とにかく強いやつをぶっ飛ばしたいだけなのだ。
そんな猛黒の横で六花も手を合わせている。
彼の場合は夕飯のことを考えているので平和である。
―――格好だけ整っていれば宜しい
そういったのは静堂だった。
吸血鬼の彼は『吸血鬼である』と知られるだけでも命の危険が増したのだ。
皆が吸血鬼の退治の方法を知っていたから、まず種族がバレてしまうことを恐れた。
だからこそ彼は自分を守るために神父のフリをし始めた。
そうしているうちに猛黒の父と出会い、命の保証もない海渡りをして猛黒の元へたどり着いたのである。
「おやおや熱心なことで」
静堂が礼拝堂にやってきた。
「あん?まだ日が落ちてねーぞ?」
「たまには私も早起きしますよー、というのは冗談で」
静堂は猛黒の横に座る。
「光来神社の方々が遊びに来られてますよ」
「禄が!?」
「いえ、妹さんの方とお付の方です」
「…あっそ」
「あ、いいんですかそんな態度?お付の方は例の退魔師ですよ」
「あぁ、あのふ抜けた面してた…興味ねぇーな」
「弱いのですか?」
猛黒の態度が気になったのか六花が問いかける。
「弱い…のかな?あれは、気にいらねぇ面だった」
「叩いて治るのであれば殴ってあげるべきですよ、若」
「なんでオレが面倒みなくちゃいけねぇんだよ!そういうの禄だろ!」
「禄さんはお優しいですから」
◆◆◆◆
巻はパクパクとお菓子を食べていた。
「このくっきー?とかいうの美味しい!」
「でしょー?いっぱい焼いたから食べてよ~あいつら食べないんだもん」
「ほとんど妖怪しかいませんもんね…咲さんは食べるんですか?」
「…あんまり食べないな」
「なにゆえお作りに…」
「練習…六花がね、若さまにご飯作ってあげたいとか言い出したのはいいんだけどあいつ料理作れなくてさ、代わりに私が作ることになっちゃうの面白すぎだよね~」
苦笑する咲。
「で、彼氏さんの体調大丈夫?」
「まだ彼氏じゃないです!!!!!!!」
顔を真っ赤にする巻。
「心配無用」
短く答える奏。
「ふふ、若様並の意地っ張りだと色々大変ね巻ちゃん」
「そうです、大変なんですよ奏さん」
「あ、あぁ…」
「楽しそうにやってやがる」
猛黒と六花と静堂の三人が部屋に入ってきた。
そのまま猛黒は偉そうにドカりと椅子に座り、二人はその後ろに付く。
「ふーん」
猛黒は奏の様子をしげしげと眺める。
「早く調子を整えろよ、まさか一生そのままでいるつもりじゃないだろうな?」
猛黒は奏をにらんで言う。
「お前は俺らのルールをしらねぇから言っておくが、どっちつかずっていうのは大嫌いだ。
ただの人並みに戻るんだったらさっさとそこのじゃじゃ馬でも嫁に貰って隠居しろ。
まだ退魔師を諦めてないんだったらそのまま死ね」
「……」
「ちょっと!勝手なこといわないでよ!奏さん、私はお嫁さんOKですから!」
「そういう話だったか…?いや、猛黒の言うことも解る。」
「ならいい。ところで完全に力がないのか?」
「…法力も、沸いてこない」
「…お前の力は一体なんなんだ?戦ってるところは見たことねーからわかんないんだけどさ。
ちょっと静堂、試してみろ」
「では失礼して」
静堂は前に出て一礼する。
「ケンカはダメですよぅ…怪我してますし」
巻は奏の袖を掴んで言う。
「いえいえ、乱暴なことはしませんよ。カナデさん、どうぞこちらへ。倒れてクッキーをひっくり返したら咲に怒られますから」
奏は少し困惑したが、立ち上がって静堂の前へ歩む。
「今から襲いかかりますので抵抗してみてください」
「あ、あぁ…?」
奏は拳を構える。
「『抵抗を禁じます』」
「!?」
ガクン、と奏の体が崩れた。
もうその時には静堂はふわりと奏の背後に回り込んでおり、倒れ行く奏を後ろから抱きとめた。
「カナデさん、貴方の血はどんな味でしょうね?」
「あっ」
頭を掴まれ、そのまま首筋を露わにされて静堂の牙が―――
刺さる前に、静堂は手を離した。
「『禁じたことを解きます』」
「!?」
身体の自由が戻る。
「まったくの無抵抗。重症ですね。人間相手だと強いと思いますが」
「殺してやった方がこいつのためになるんじゃねーか?」
「私は…」
奏は左腕を右手で掴む。
「私は、無力なのか…娘一人救うこともできず」
(…娘)
猛黒は眉を顰める。
禄から話はすこしだけ聞いている。
女だ、この男は旅先で女と何かあったのだ。
しかし話せないという。
プライドが邪魔しているのかとも思ったが、どうもそうではないようだった。
「娘って誰だ?見殺しにでもしたのか?」
猛黒の言葉に奏の表情が明らかに変わった。
苦悶の表情で左腕に爪を立てている。
「やれやれ、これだから無口はいけすかねぇ」
立ち上がり奏の元へ歩む。
ダンっと力強く踏み込んで奏をにらみあげた。
「ハッキリしやがれ。その左腕で娘を救えなかったのか?それとも殺したのか?」
「っ―――」
奏の目が見ひらかれる。
「その女、あやかしだろう?お前みたいなやつが色香にやられるとは大したあやかしだな。
殺して後悔するだなんてな」
「みこの心はまだ人間だった!!!!あやかしじゃない、みこは人間だった!!」
「奏さん!?」
叫んで逃げるように飛び出していく奏を追いかけていく巻。
「禄さんじゃこの役目できませんよね。若、どうでしたか?」
六花が寄ってくる。
「禄でも見えなかったらしい。完全に同化していたか、もしくは『虚無』だ」
猛虎は足を上げる。
そこには影…ではなく、黒い何かの残滓が残っていた。
先ほど奏の影を踏みしめた。
その時に捕えたが、奏の影が消えるとそれも残りカスしか残らなかった。
「なんですそれ」
「めちゃくちゃ古い神様とかが持ってるヤツだよ。」
「この国だと近いのはヒルコとかいうねぇ。まぁその虚無が形を持ったらそういうのになるんだ。
ちなみに私はそんなに古くないから持ってないよ」
咲が猛黒の説明の補足をする。
「…あいつについていけば神殺しが出来るか」
にんまり微笑む猛黒であった。
◆◆◆◆
(私は一体…なぜ、これでは土鎌と同じではないか…)
恐ろしい光景を思い出してしまう。
もしこの場にみこがいて、腹が減ったと言えばあの用意を初めてしまうのだろうか?
自分は土鎌のように狂ったわけではないはずだ。
しかしあんなことを口走るとは思わなかった。
たしかにみこは人間の心を残していた。だが彼女はあやかしであった。
その彼女を討って心を痛めた…そうだ、自分は初めて心を痛めたのだ、あやかしを討ってしまったという後悔をしている。
奏はゾっとした、悪寒で震えが止まらない。
自分の心ではないような、気分が悪くなってくる。
心の中にぽっかりと『真っ黒い穴』ができているような、そんな感覚だ。
「奏さん、真っ青ですよ…大丈夫ですか?」
巻が袖を引っ張ってくる。
「…無理、しないでください」
「…すまない」
プライベッターでのコメント欄メモ
虚無はムーちゃんなんだけど、虚無自体のイメージはあれだな、魔障ケ岳にでてくる『モノ』だな
あっちはモノに名前つけて姿を得るけど
こっちは名前を得て形になるけど
というのをつけくわえ
古い神々がもっているモノ…あれだよ、国作りとかなんかそういうレベルの時代あたりだね…
そのあたりの神様は直接虚無から生まれたイメージ
最近の神様は突発性とか変質してとか、神様から生まれてとかそういうので虚無が周りにいないのだ
白神は異界出身なので持ってないよ
まだこのムーちゃんは名を得ていないのだけど、得るものは「みこ」の姿かな、奏さんの心の闇として具現化するのでみこの姿になるのだ
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