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文章は司さんです→pixiv
忌譚に収録している物です
 沙汰は最近村にやってきた新顔が、あまり得意ではなかった。姿からするとおそらく坊主のたぐいであろうが、念仏をあげるところなど見たこともないし、説法をするところも見たことがない。ただただ、何やら丸いものを抱えて村をうろつき、みこさまの屋敷の縁側に座っては愛想よく笑っている。みこは新顔を法師と呼び、みこもまた法師をあまり得意としていないようだった。法師の抱えているものを見て、眉根をしかめてもいたほどだ。みこがあまり不機嫌にするようならば追い出してやろうかと鎌を握って思いもしたが、みこがそうせよと言わぬから何もせずにおいた。

 ある日に見るともなしに様子を見たならば、丸いものに何やら話しかけたり、いかにも大事そうに撫でていたりした。盗人と名乗っていた男(沙汰はこの男に顔を盗まれかけた)から譲り受けたという櫛でもって、丸いものの髪を梳いてもいる。そういえば、幼い頃のみこもあのようにして、縁側に座って人形の世話をしていたではないか。ならばああしているのは、人形遊びをしているのか。そうか、そうか。よほど気に入りの人形なのだろう。あんなにかわいがっているのだものな。沙汰はそう考え、それ以上を知ろうとも思わなかった。得意ではない相手にわざわざ近寄ろうとは思わなかったし、何ぞか楽しんでいる最中ならば邪魔をすることもなかろうということである。

 法師は今日も愛想よく機嫌よく笑って、人形をいかにも大事そうに愛でている。縁側に腰掛け、人形の髪を梳き、頬を撫で、優しく話しかけている。楽しんでいるならば邪魔をすまい。沙汰は法師を脇目にして、野良仕事へと出かけていった。












「今日もよい天気ですよ、ねえ、ナミさん。ふふ、あなたは今日もきれいで、よいですねえ」

 師は腕の中の物言わぬ首へと、今日も語りかける

 のように真っ白な顔の大津ナミの首を愛でる


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