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飛頭蛮視点
 飛頭蛮は早く部屋に戻りたいな、と思っていた。

 広間に一同が集められている。不定期に行われる会食だ。

 妖怪の眷属である自分たちはここに呼ばれるのは場違いだと思っているのだが、どうも海難法師は自分を傍に置きたいらしい。

 以津真天の生み出した童たちがお膳を運んでいる。アレ自体はまったく力はなく、何かあったときの壁ぐらいにしかならないと弟がいっていた。

 その弟は隣に座っているのだが目は虚ろだ。

 以津真天が弟に寄り添っている。鳥の顔の表情は読めないが、飛頭蛮を見て笑っているかもしれない。

 飛頭蛮は睨み返して顔を伏せた。

 この中で我々兄弟はもっとも格下である。どうあがこうが、無駄なのだ。

 何故こうなってしまったのか飛頭蛮自身もわからない。

 ただ地獄に落ちてしまったのだと思うことにした。そうすればあとはどうとでもなる。

 海難法師の生優しい愛の囁きを聞き流しながら弟と暮らしていけばいい、それだけのことなのだ。

 皆静かに座っている。

 上座に2席、空いている。まだ揃っていないのだ。

 しかし音もなくみこがやってくる。

 みこが席につけば、その横にすっと人が浮かび上がる。

 顔がよくわからない。そこになにかが存在している、という気配だ。

『皆、何事もなくここに帰ってきていることを喜ばしく思う』

 それは静かに呟く。

『白鬼、いつもみこを支えていることに感謝している。これからも支えよ』

「はい父上」

 白鬼は狂人じみた笑みで返事を返す。

 きょうは『父上』に見えるらしい。

 いつも父やら村長やらチグハグで、気になっていると海難法師がこっそり教えてくれた。

 全て覚えていると都合が悪く、狂い死ぬかもしれないから覚えていてほしいことと、忘れてほしいことを分けているらしい。

 あれを父や村長といった『目上の人物』に置き換えていたほうが都合がいいということだ。

 そのほうがよく働くのだと。

 その次に弄られているのは誰なのか聞けば法師は曖昧な笑みでごまかしてくる。

 おそらく弟が弄られているのだろうと飛頭蛮は察した。

 ちなみに紫鬼は弄られていないだろう、直観であるが。あれはもともとそういう資質なのだろう、自分と同じ匂いがする。

『―――では、みな宴を楽しめ』

 待ってましたと言わんばかりに火車や紫鬼、化け蟹ががっつきはじめる。

 飛頭蛮も遠慮なく食べ始める。

 飢えて飢えて仕方がないのだ。いや、飢えるという表現は違うかもしれない、満たされない…これだろう。

 海難法師の眷属になったせいなのか、自分の心の問題か、そのあたりは曖昧だ。

 ただ食べているときと交わっているときだけが飢えを忘れさせてくれている。
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