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 河童は森の奥にある黒い月の元にいた。

 あの世とこの世の狭間にあるこの屋敷の深い場所―――そこにこれはある。

 地面に丸くぽっかりと穴が開いているようにある黒いモノは静かに其処に在った。

 河童はこの中に入っていない。入らずとも陽之尊の加護を受けた。

 この中へ入ればもっと力がつくだろうか?とも考えたこともあるが、まだ試していない。

 何か嫌な予感がして―――自分の資質とコレとは合わないような気がしたのだ。

「河童、中に入らんのか?」

 後ろから声がかかる。

 耳障りな声は火車だ。振り返ると火車は河童を睨む。

「中はどんな感じだった?」

「暗闇だった」

 火車は河童の横に来てソレを覗き込む。

「これは生命の塊だとおひいさまがおっしゃっている。悪いモノではないだろう」

「生命…」

 食べれば力が増すだろう。しかし『何者でもない生命』を喰らって自分は平気でいられるだろうか?

「ところで河童はおひいさまに何かしてやろうとは思わんのか。おひいさまは退魔師が食べたいに違いないぞ」

「…」

 猫がバカなことをいいだしたと思う。

「ずっと退魔師のことをみているからあの怖い退魔師が食べたいのだきっと。オレは退魔師の死体をここに運んでやろうと思う」

「蟹と以津真天と法師がやられたぞ?」

「あいつらは油断したのだ、居場所を守ろうとするからそうなる、オレは一度負けてしまったがおひい様のためにやるぞ!」

「あぁ、どこまで出来るか見ててやる」

 河童は悪い笑みを浮かべながら囁いた。
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