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対飛頭蛮法師戦をねりねりしてるときに書いたもの
本では違う展開です。是非そちらを読んでください。
 人間ではなくなってタガが外れたのか。

 恐らくそうであろう。

 大津ナミという人間は人間であるというタガによって抑え込んでいたものがある。

 そういう人間の表情は美しい。

 薄暗い表情(カオ)は魅力的で、排他的なその視線を向けられるだけで心が躍るものだ。

「…っ」

 黒い月から這い上がってくるナミは口から黒い物を吐き出しながら首を落とす。

 首から黒い物が噴き出て、しばらくするとそれは血の色になる。

「おかえりなさいナミさん」

 海難法師はナミの首を抱き上げる。

「……」

 ナミは眉を顰め、苦悶の表情になる。

 あぁ素晴らしい顔。

 愛しすぎて血色の悪い頬を撫でた。焼かないように気をつけながら。

「…旋、は?」

「呼べば貴方のように出てきますよ。弟さんを求めると思って死体は投げ込んでありますから」

「…そう」

 目を伏せるナミ。

 ナミの体が立ち上がり腕を伸ばして海難法師から自分の首を奪う。

 自分の状況に混乱している様子はない。

 海難法師の眷属となり必要最低限の知識は得ているが拒絶する態度はみせなかった。

 無駄だと思っているのだろう。

 逃れられないと。

「愛してますよナミさん」

「……」

 ナミはやはり何か抑え込んだ表情で海難法師を見るだけにとどまった。

 その眼に憎悪の色も嫌悪の色も怒りの色もない。

 興味がないのだ、自分を死へと追いやった妖怪に。

 だがそれは別にいい、海難法師はナミを愛でられればそれでいいのだから。



    ****



 「ナミさん、河童には気をつけてくださいね。」
 「赤嶺の言葉には耳を貸さないように。疲れるだけです」
 「以津真天に弟さんを盗られてしまいましたね…」

 色々囁きながら海難法師はナミを愛でる。

 ナミは暗い眼で言葉を聞きながら横にいる。

「ナミさんは美しいですね」

「…美しくなんかない。輝美の顔が美しいというものだ、法師」

「それでも私は貴方を美しいと感じていますよ」

「旋、は…綺麗なのが好きで、でもオレは綺麗じゃないから…旋は、外に行く」

「それは…以津真天のお願いもきいているからだとおもいますけどね」

「…口実だよ、旋の好み知ってるからオレ」

 この言葉を吐いたときのナミの目は感情がこもっていた。

 揺れ動く瞳、歪む表情、必死に抑え込もうとしている。

「弟さんは貴方のために地獄を作るともいってましたよ?」

「…」

 ナミの顔が法師に向けられる。

 引きつった笑顔だった。無理やり抑えもうとしているのか、無理に笑おうとしているのか判断しづらい。

「良い子だろう?旋はオレのために頑張ってくれるんだ。ここも地獄だけど邪魔が多いから外で地獄を作って暮らすんだ」

「私のことも邪魔扱いですか?」

 からかう様に言うがナミはそれに返事をせず必死に感情を抑え込もうとしているようだった。



    ****



「あ、あぁ…アアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 緑鬼の首を持った飛頭蛮の叫びが響く。

「ナミさん、戻りましょう」

 海難法師が飛頭蛮の横に現れる。

「待て」

 忌々しい声がする。退魔師だ。

「旋次郎の兄よ、弟を失ったと思っているのか?旋次郎は既にこの世にはいないのだ、お前も…。

 私はお前たちをそこから救いたい」

「煩い!オレたちの何を知っている!!!オレたちはね、オレたちは愛し合っていたんだよ…

 だから地獄に堕ちて…地獄で愛し合おうとしてた…そう、してた…我慢していた…オレはいつも我慢をしていたよ…

 生きていた頃から我慢していたよ…好きな人も嫌いな人もみんなみんな、殺したかったから、我慢していた…

 殺すのを我慢していたんだ、解るか……解らないだろう、苦しいばかりでオレも解らない感情だった…

 でもね、死んで分かった…これがオレの愛だった…ねぇ海難法師?」

 向けるその顔はやはり歪んだ笑顔だった。

 しかし今ははっきりと法師にも解る。


 ―――私のために見せるのを抑えていた捕食者の顔


 お互いに捕食側だった。

 ただナミは我慢していた。我慢してくれていた。生まれてからずっと我慢してきたからだ。

 そうして苦しむナミを愛しく思っていた。

「そうですね、そこがとても美しい…ナミさんにしかない美しさですね」

「そう、だろう…」

 旋とよく似た狂った笑顔になる。

「オレのために今から死ね法師、オレは旋を沈めてくる。オレを愛しているなら死ね」

 飛頭蛮はそういいながら船から飛ひ降りる。

「死ぬ気はないんですけど、素のナミさんは悪辣だなぁ。そこが素敵なんですが」

 杖を何本も召喚する。

「危なくなったら逃げますよ」
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