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飛頭蛮と白鬼の日常まったり系です!
ぽちゃん、ぽちゃんと水音が響く。
明かりはない。ここには何もないと解っている飛頭蛮は不自由に思ったことなどない。
それに明かりで照らされた海難法師の姿を見ることもないので暗くて良いのだ。
どこまでの広さかは知らない。
屋敷の地下に洞窟でもあるのだろうか?と考えたこともあるがここはおかしな空間なのでないものがあるだけかもしれない。
飛頭蛮はちゃぷりと足をつけ、ぬるりとしたその水で足を滑らさないように一歩ずつ進んでいく。
洞窟は水が溜まっていて、奥へ行けば飛頭蛮の肩ほどまでの深さになる。
そこで泳ぐのが飛頭蛮の楽しみの一つである。
海で泳ぐのもいいのだが、生前と違って上手く泳げない。首が外れてしまいそうになるのだ。
ここだとこの水が身体の一部のように思えて首が外れてしまっても気にならなかった。
そしてここは海難法師の海で、おそらく飛頭蛮以外は入れまい。
弟がまず寄り付かないし、たまに覗きに来る白鬼は酷く顔を歪めていた。あれは嫌悪の表情だ。
あの白鬼が嫌がるほどここは酷いらしい。
(海難法師の出汁が出ているとか…?)
不味いんだろうな、と飛頭蛮は思いながら底まで頭を沈めた。
弟は怪鳥に連れられて遊郭で遊んでいるらしいと海難法師が言っていた。体よく怪鳥と組んで弟と外へ追い立てただけかもしれない。
そして飛頭蛮をここ…海難法師の寝床に浸しておけば紫鬼もやってこない。
海難法師がなにをやったかしらないが、赤嶺に嫌われているからだ。
ギ、ギギ…と戸が開かれる音がする。
光が伸びるが奥までは入ってこない。
「…」
灯りを持った白鬼が桶を持って入ってきた。
眉を顰めて口元を引きつらせる。
そんなにここは酷いだろうか?とふと思う。そうして笑みがこぼれた。
これではまるで海難法師のことを気に入っているかのようだ。
「飛頭蛮、いるのか?」
白鬼の眼は人並みなので暗闇に潜む飛頭蛮が見えないらしい。
ちゃぷんと水音がしたほうへ白鬼が光を向ける。
残念だか今のはは天井から落ちてきた雫の音だ。
なんだか愉快な気分になってきて飛頭蛮は静かに白鬼へ近づいた。
なんだかんだで白鬼のことも気に入っているらしい。
この鬼は姫のことになると鬼になるがそれ以外だと基本的に世話焼きだ。
弟と歳は近かろう、それを考えるとよく気の回る男だ。
「…白鬼」
飛頭蛮は身体を腰あたりまで出して腕を伸ばす。
「もっとこっちに来れないのか」
「……」
黙秘の飛頭蛮に白鬼は舌打ちをし、ちゃぷ、ちゃぷ…とゆっくり足を水へ沈めていく。
飛頭蛮は少し水で白鬼の脚を引っ張った。
「ッ!?」
ずるりと滑りひっくり返る白鬼。
勢いで桶が飛ぶ。
勿体ないと飛頭蛮は首から血を吐きだしてその血で桶を掴みよせた。
中には生魚が入っている。
それを齧りながら飛頭蛮は白鬼を引きずり込んでしまう。
「なに、を…」
「ありがとう」
耳元でお礼を囁いて、飛頭蛮は赤い水で汚れた手で白鬼の頬を撫でた。
飛頭蛮は動けぬ白鬼の襟首を掴んで上へと上がり、膝枕をするように白鬼を自分の上へ引き上げると満足そうに頭を撫でながら魚を喰らう。
「…おい」
白鬼はもがいているが、水を制御している飛頭蛮にかなわない。
「旋が、いなくて、さみしい」
「…知るか」
「オレは自由じゃ、ないんだ」
「俺を弟代わりに撫でまわすのは止めろ」
「姫じゃなくてごめんな……」
「……」
白鬼からため息が聞こえた。
「こんな腐った血だまりでよく泳いでいられるな。あとよく魚も食える」
「うん…平気でいられるのは海難法師のせいだろう……お前の台所とそんな変わらないと思うけどな」
「新鮮な血肉しかねーよ俺のところは」
同じではなかろうか、と思うがあまりつついて白鬼の機嫌を損ねるのも面倒だ。
ぽたりと天井の雫が白鬼の顔に落ちてきた。
ねっとりとしたその赤い雫を飛頭蛮は袖で拭ってやる。
「最悪だここ…」
悪態つく白鬼。
「そうかなぁ…食欲湧かない?」
「ぜんっぜん」
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