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思いついたワンシーンメモです
没案ともいう。入れたいなーってぼんやり思ってたんですけど話の流れ的に入らないわこれってなった。
ざぁざぁと雨が降り注いでいる。
冷たいだとか寒いだとか、そんな気持ちは一切湧かず、ただうっとうしいとしか感じない。
目の前に人間の死体が転がっている。
目を見開いて、口を開いて、頭が割れて、この雨のせいで血は洗い流され中身が見てている。
―――俺はいつからここにいるんだろう
解らない。何もかもわからない。自分は何なのか、ここがどこなのか。
この死体はなんだ。あぁ崖から落ちたのか、この粉々になった牛車ごと落ちて。
落ちて?どうして?落とされた?落とされた!!!
感情が一瞬で一色に染まる。
もう何も考えない、ただその死体(自分)を掴み、バラバラになった牛車に触れた。
そうして、その峠を荒らす「七加の祟り」とも呼ばれた朧車が生まれたのである。
◆◆◆◆
朧車として知られている姿は牛車に鬼の顔がついたおぼろげなモノであるが、轟が人に化けることができるのは
彼が自分の死体を取り込んだおかげである。
そして暴れ回って数百年…帝威一族に目をつけられたのが運のつきだろう。
人のフリして煙管を吹かしながら客人を待つ小間使いだ。
(光来神社までひとっ走りしたが走り足りねぇな…)
客人…奏と、別口で駆け付けた禄が光来神社の境内に掛かってる闇を祓ってる最中である。
手伝う義理はない。
境内に入るのもなんか嫌である。地脈の関係だろうか、自分とは合わない力が刺激してきてどうも落ち着かなくなる。
「…ん?」
轟は立ち上がって目を凝らす。
山の合間の上空で微かに妖気が漂っている一角がある。
轟は一瞬考える。
禄たちに知らせるべきか、自分で見に行くべきか。
走りたかった轟は即結論を導き出して走った。きっとあそこへはあっという間なのだから。
「にゃっ♪にゃっ♪」
猫男が尻尾を揺らしながら、火が燃え上がる荷台に死体を積んでいた。
荷台からは無数の声が聞こえる。
「なんだ、化け猫か」
「はぁ?」
猫男は振り返り轟を睨む。
「…お前なんだにゃ?」
「お前もなんだ?化け猫、お前脚は早いのか?」
「火車にゃー!オレは早いぞ」
「そうか、早いのか。勝負しろ」
「はぁぁぁ?嫌にゃ」
火車は荷台を掴むと駆けだした。
轟も走りはじめる。
「ついてくるな!」
「遅い遅い遅い」
火車の横に並ぶ轟。
轟の顔に火車はゾっとした、屋敷にいる鬼どもが浮かべる狂った時のあの顔だ。
こいつも似たようなものなのだと判断した火車は気合いを入れて走った。
荷台から手を離して4足で駆ける。
負けたらこれは何かあると思ったのだ。
つまり負けなければいい。
「にゃーんっ!」
火車は空へ飛んだ、そのまま空をかけ始める。
「貴様飛べるのかぁ!」
「んにゃ!?」
轟が火車を捕まえようといつの間にか人力車から牛車になっていたその牛車の屋根の上から飛ぶ。
しかし届かない。
「落ちて来い畜生よ!」
「化け猫じゃないにゃー!!!!」
フンスフンス怒りながら火車は来ていく。
「くそう!遅かったら崖から突き落とそうと思ったのに!!!」
轟は悔しそうに地団駄を踏んだ。
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