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文章は司さんです
これはハッピーエンド。
「私と一緒に来てください」

 と、幼なじみの青年に言われて、寺田みこはすぐさまに返事ができなかった。迷ったからではない。ただ、喉に声が詰まったからだ。それから、ぼろり、と涙を流した。ぎょっとした土鎌沙汰は大いに慌てた。

「み、みこさま、どうしました、お気に触りましたか」

「ち、がう」

 ぽろぽろと溢れて落ちていく涙を拭わずに、かぶりを横に振った。「ちがう、……うれ、しくて、すご、く、う、うれ、しく、て……」

 みこは沙汰の手をぎゅうと握り返して、小豆色の肩に顔を埋めた。嬉しかった。沙汰の気持ちは知っていたし、自分だって沙汰に想いを寄せていた。沙汰が村を出るつもりだというのは父から聞き及んでいたし、なんのために出ようとしているのかも薄々知っていた。けれど、まさか、嗚呼。

 ずっとその言葉を待っていた。手を握り、誘ってほしかった。想いを通じ合わせたかった。共に連れて行ってほしかったのだと、深く深く気付いたのだ。

「さ、た」

「はい」

「つれて、いって。お前と、添い遂げたい。街で、お前と、めおとになりたい」

「みこさま……!」

 感極まって抱きしめてきた沙汰に応えて抱きしめ返して、みこは心から笑った。

 そうして、沙汰とみこは村を出た。村を出て、街へと移り住んだ。村長の娘として暮らしてきたみこには長屋の暮らしは不便が多かったけれど、沙汰との暮らしなので苦にならなかった。沙汰はみこに苦労をさせまいと手に職をつけた商売をして、やがて店を持った。店は二人で切り盛りできるくらいの大きさで、贅沢はできないけれど、不自由なく暮らすことはできた。

 そして村を出て何年目かに、沙汰とみこの間に子供ができた。父に似たきりりとした目元と、母に似たきれいな顔立ちの、可愛らしい子供だ。沙汰は愛する妻に似た我が子を目に入れても痛くないほど可愛がったし、みこも愛する夫に似た我が子を可愛がった。商売は可もなく不可もなく、暮らし向きも変わらず家族で暮らすには申し分ないほどで、贅沢はせずとも充分に幸せな日々を送った。

 時折、夫婦は故郷を思い出すこともあったけれど、今の生活と故郷とを天秤にかければどうしたって今の暮らしのほうが大事であったから、それぞれの家に手紙を書いて、帰ることはなかった。手紙の返事は時折やってきて、みこの家が祀っていた祠を旅の侍が手入れをしていっただとか、誰それの家の家畜が子を産んだだとか、そんなことが書いてあった。

 二人はそうして、穏やかに添い遂げた。

 
 幸せに添い遂げた。






―――――百鬼夜行異譚
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