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IF話
 奏と巻は禄の「温泉に行っておいでよ」の一言で婚前旅行さながらの二人きりの旅行を行っていた。

 気を使ってくれたのだと思いたい…。

 巻はウーン、と考える。

 なんだか大変な妖怪との戦いの末に傷ついた兄たちが戻ってきたのは大層驚いた。

 猛黒の方は手当して早々に家来たちが引き取りに来たが、奏さんはしばらく光来家で傷を癒してもらうことにしたのだ。

 しかし放浪癖があるというかなんというか、ふらりとどこかにいってしまいそうな気がして仕方がない。

 故に禄は巻の心配を汲み取って、かつ、奏のことも考えて旅行という形を提案したのであろう。

「でも温泉って…二人っきりで温泉って…」

 かぁぁぁぁっと赤くなる巻。

 今更と言われそうであるが、改められると恥ずかしいものなのだ!

「巻、やはり籠に乗ったほうがよかったのでは?」

「え?大丈夫ですよ、私結構体力ありますから!」

「なら、いい。もうすぐ着く」

「はい!」

 奏と並んで歩くというのも新鮮だ。

 ちょっと奏の歩幅が広いせいか、巻は奏の袖を掴んでトテトテと普段より少し早く歩く。

(私たち夫婦に見えてるよね…親子に見えてないよね…?)

 ちょっと不安になる巻であった。



   ****



 禄が用意してくれていた温泉宿は小さいながらも静かで内装も品のある雰囲気のいい所であった。

 以前、依頼で禄が何かしらから助けた縁があるそうだ。

 案内された部屋で巻は足を休める。

「奏さんって、旅ではこういうところに泊まったりはしてたんですか?」

「いや、野宿が多かった。自然に囲まれている方が治癒力が高まるからな」

「そうなんですか。って普通にお布団の中で寝ましょうよ…」

「あぁ、これからはそうする」

「か、奏さん…そろそろ…温泉、行きます?」





「貸切みたいですねー、えへへ、わーいお風呂大きいですよ~」

「そうだな」

 湯に浸かりながら巻はパシャパシャと湯を掬っている。

「…か、かなでさん」

 巻は改まって名を呼びながら、奏に寄り添う。

「…また、旅に…いかれてしまいます…?」

「そのつもりだ」

「帰ってきて、くれます…?」

「…」

 奏は巻を抱き寄せる。

「帰ってこよう」

「本当ですか…?」

「だが、しかし…」

 珍しく奏が言葉に詰まる。

「私と夫婦になっても、その…私たちの子に不自由をさせないか、心配で」

「子!!!!!」

 真っ赤になる巻。

「あ…子は、作らない方向だったか…?」

「いえ!!!欲しいです!奏さんとの子供!!!いっぱい子種ください!!!!!

 じゃなくて!!!い、いいんですか…?あの、育てる自信ありますからその辺は大丈夫かと…」

「そうか、巻に任せて大丈夫か」

「はい、禄とかに助けてもらいますし!」

「迷惑をかけてしまうな…本当なら私は一人で旅を続けていなくてはいけないのかもしれない」

「そんな…」

「巻…お前たちに出会えてよかったと思う」

 奏は巻の頬を撫でる。

「帰る場所のある旅も、悪くない」



   ****



 とても美味しい料理に巻はほっこりしつつも奏にお酒を進めていた。

 頑なに拒む奏。

「酔いつぶしたいんです!酔った奏さんが見たいんです~~!!」

「寝てしまうだけだ」

「それはそれで!」

「うぅ…」

 根負けした奏は巻のお酌で酒を飲んでいく。

 奏の顔はみるみる色づいていく。

「はー、奏さんって色っぽいですよね…」

「あまり見つめないでくれ…」

「うふ、見ちゃいますから~」

 ニコニコしながら巻は奏に寄り添ってくる。

「…巻」

 奏は巻に口づけする。

 奏の手が潜り込んで巻の太ももを撫ではじめる。

「か、かなでさんっ…」

「酔った。それに私が酔いつぶれたら朝まで巻がつまらないだろう?」

 ちょっと意地悪そうな笑みを浮かべる奏。

「ず、ずるいっ…!」
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