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みこかな
奏は土蜘蛛の巣でぐったりと倒れていた。
陽の光は届かず、まるで洞窟のように薄暗く、その『床』は濁った水が薄く張っている。
その水が身体を汚す、髪を肌に張り付かせる、体温を奪う。
生気のない顔で、虚ろに濁らせた目を明後日の方へ向け、口を閉じることもしていない彼の姿は意識をも
手放しているようにさえ見えた。
散々みこに遊ばれた。
全てを絞り摂られた、妖怪との交わりは生命力をも奪う。
『奏さま』
巨大な土蜘蛛は奏を見下ろしている。
『可愛らしい姿…赤子のよう』
「……」
奏の瞳が動く。
土蜘蛛へ向かう。
乾いた唇が、名を呼ぼうと動く。
『声も枯れていらっしゃいますか…さきほどまで酷く叫んでおられましたからね…
みことの交わりはとても心地よかったと見える…
どうです?小娘よりも良いでしょう?魂を喰われる恐怖は人間と交わる内は味わえぬ快楽ですよ』
上半身を神子の姿に戻す土蜘蛛。
その目はいつもの神子の、憂いを帯びた目ではなく、妖怪としての彼女の目だった。
『みこは満足しておりませぬ。奏さま』
神子の腕が伸びて奏での髪を掴む。
「ぁっ…ぁ、ぁ…」
奏は神子の細い腕を残った手で握り締めるが、神子は怯む様子はまったくない。
そのまま易々と奏を引き上げる。
ぶちりぶちりと髪が少し抜ける。
「うっ…ぅぅ…」
奏はぼろぼろと涙を零しながら嫌だ嫌だと訴えるように震える。
『人の言葉を忘れてしまいましたか、奏さま』
ケラケラケラと土蜘蛛の嗤い声。
『神子を満足させてくれるのでしょう?』
「っ…」
ずるずると引きずられていく。
巣の奥へ奥へ――――
****
蜘蛛の巣の中心。糸が繭のようになっていてそこが神子の寝室である。
奏は糸に巻かれて神子の前で脚を開いてる体勢を取らされている。
『沙汰に、食事をしている姿を見られたくないの…』
神子は愛しそうに奏の脚を撫でながら呟く。
『奏さまの四肢を全て取ってあげたくも思いますのよ…?でも、それは一回しか味わえませんから…我慢。』
神子の舌が、奏の太ももの内側を這う。
「っは…」
息を吐く奏。
神子の舌は暖かく、艶かしく…身体がゾクリと反応する。
『あぁ、奏さま…』
「み、こ…みこ……」
切なげな奏の声。
神子は愛おしそうに舌を這わせ続ける。
横目で奏を見る。
奏は先ほどまでの怯えた表情は沈み、今は切なそうに、求めるような表情になっている。
しかしその瞳の光は濁ったままだ。
『どうしてほしいか、おっしゃって。
みこは奏さまの口から聞きたいです』
「っ…吸って…くれ…」
奏の表情が笑みへと歪む。
泣きそうな顔を無理やり笑みに歪める。
「わたしの、血を、吸って…いつもみたい、に…頼む…」
『ふふ…今日も上手に言えましたね奏さま。』
「ひぁっ!」
奏は短い悲鳴を上げながら身を揺らす。
神子に噛み付かれた脚が熱い。
「あぁぁっ…!!!!」
神子に血を飲まれるたびに、代わりに別の何かが流し込まれているようで全身が熱くなってくる。
体中の神経が敏感になっていくような、恐怖。
神子の手に撫でられるだけで果ててしまいそうな感覚。
『奏さまの全てが欲しい…血肉の欠片も残さずに食べてしまいたい……』
手で顔を覆いながら神子は呻く。
『助けてください奏さま…みこは、みこは…奏さまを……』
「…す、まない…みこ、すまない……許してくれ…」
『奏さま…奏さま奏でさま』
「ッ…」
神子の爪が奏の肌に食い込む。
開く神子の口は、人よりも大きく開き、毒の唾液がだらだら流れ牙が無数に覗いている。
『ッ…』
神子は人の口へ戻してそのまま奏に被さって肩に噛み付く。
神子に回された腕は奏の背へ爪を立てた。
「みこ…」
奏は神子を抱きしめようとしたが、その腕は動かすこともできず意識も毒のせいで沈んでいった。
****
巻は手ぬぐいと水を汲んだ桶を手に巣へやってきた。
「奏さん?奏さん、聞こえてます?」
パタパタと奏の顔の前で手を振るが、奏は表情を失い虚ろな目のまま反応しない。
「完全に毒が回っているから数日そのままだろう」
神子が横から言う。
「毒って、死なない量ですよね?」
「かすかに呼吸は出来ているから大丈夫だろう。死ねば我々の仲間になるだろうしいいじゃないか」
「ダメです!!」
「あ、そう。まぁ下の世話はお前に任せるよ。全てやると沙汰が怒るからな」
「シモって…貴女のせいなんですからちゃんと最後まで見て欲しいです」
巻は悪態つきつつも優しい手つきで奏の身体を拭い始める。
「奏さまって赤子みたいで可愛いな?」
「神子さんちょっとズレてます…」
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